薬と食事の食べ合わせにも注意が必要です

コーヒータイム

薬の飲み合わせリスク同様
薬と食事にも相性が

高齢になると、いくつもの診療科からそれぞれに薬を処方されることが珍しくありません。

そうした場合、薬と薬の飲み合わせが悪いと、その相互作用により、薬本来の効用が弱まったり、逆に強まったり、あるいは副作用がより強く出ることがあるので是非とも注意されたい、という話を先に書きました。

複数の診療科を受診してその都度薬の処方を受け、何種類もの薬を同時に服用しているという方は少なくないでしょう。そんなとき気をつけたい薬の飲み合わせによる弊害と、その予防に活用したい「お薬手帳」と「電子お薬手帳」について書いてみました。

この記事を読んでくれた薬剤師の友人Sさんから、こんな電話が入りました。

「薬の飲み合わせについては、最近は処方医も注意喚起するようになっていてある程度防ぐことができているのですが、課題は薬と食事の食べ合わせのリスク――。薬と飲み物や食べ物の組み合わせによっても同様のことが起こりうるという話も是非書いてよ」

牛乳や乳製品と抗生物質は相性が悪い

病院に勤務する薬剤師の多くは薬剤部内で仕事をすることが多く、入院患者がいる病棟まで出かけていくことはめったにないそうです。

ところが数年前、「ランチタイムを利用して、入院中の友人を見舞おうと外科病棟に行き、薬剤師として貴重な体験をした」そうです。

病室を訪ねると、術後の食事がスタートしたばかりの友人が、ちょうど看護師から渡された抗生物質を牛乳で飲もうとしているところでした。

その様子を目にし、慌ててストップをかけた、というのです。

「一部の抗生物質には、牛乳や乳製品と一緒に飲むと、胃の中でカルシウムと結合して吸収が阻害され、もともとの効き目を下げてしまうものがある*ことを思い出した」

友人が飲もうとしていたのは、まさにその弊害が指摘されている「テトラサイクリン系の抗生物質製剤だった」とのこと。

「患者さんは水か白湯(さゆ)で処方薬を飲んでいるものと思い込んでいたのですが、意外な落とし穴があることに気づかされた」と話してくれたのです。

*牛乳と抗菌薬(抗生物質)の相互作用については、牛乳のカルシウムと薬剤の成分が結合して、薬の吸収や作用を低下させることがわかっている。抗菌薬の服用後、2時間程度は牛乳の摂取を避けた方がいい。
この場合の抗菌薬で代表的なものとしては、ノルフロキサシン、テトラサイクリン、セファレキシンなどがあげられる。

なお、抗菌薬(抗生物質)の使用に関する事前指示についてこちらで詳しく書いています。是非一読を。

インフルエンザや風邪で発熱すると抗生物質(抗菌薬)がほしくなるが、かつてのように簡単には処方してもらえなくなっている。その背景にある「薬剤耐性」「薬剤耐性菌」について理解を深めておくことは、事前指示として抗生物質の使用について意思決定する上で必須だろう。

抗血栓薬には
食べ合わせの悪い食品が多い

この貴重な体験を機に、S薬剤師は、薬の飲み合わせだけでなく薬と食べ物や飲み物との相互作用についても神経を使うようになったと言います。

高齢者に関して言えば、食事の影響を受けやすい薬として抗血栓薬があります。

血栓の生成を防ぐ、いわゆる血液サラサラ効果を期待して虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)や脳梗塞のような循環器疾患の治療に使われることが多い薬です。

そのなかの「ワルファリン」と呼ばれる抗凝固阻止剤は、ビタミンKの働きを妨げることで血液を固まりにくくして血栓が作られるのを予防する目的で処方されます。

ビタミンK含有量が多い食品と抗血栓薬

ところが、ビタミンKの含有量が多い食品をこの薬と一緒に摂ってしまうと、本来低下させるべきビタミンKの働きをむしろ強めることになってしまいます。

その結果、薬の効果が弱まりますから、血液が固まりやすくなり、血栓ができやすくなってしまうのです。

こうならないように、ワルファリンを服用するときはビタミンKの含有量が多い食品は避けた方がいいということになります。

なかでも禁止したいのは、納豆。それに、健康食品のクロレラと青汁です。

このうち納豆については、納豆自体はさほど多くのビタミンKを含んでいるわけではないのですが、納豆のネバネバに含まれる納豆菌に、摂取してから約3日間にわたり腸内でビタミンKを合成し続けると考えられていて、少量でも食べない方がいいと言われています。

このほかキャベツやブロッコリー、ほうれん草などの緑黄色野菜、さらにはわかめやヒジキのような海藻類もビタミンKの含有量が多いことから、控えた方がいいようです。

なお、抗血栓薬に関しては転倒などをして頭をぶつけた際に、出血が止まりにくいことにより思わぬ事故になるという話をコチラで書いています。
併せて読んでみてください。

高齢者の転倒・転落による頭部外傷患者が増えている。その際、血液をサラサラにする抗血栓薬を服用していると、頭蓋内出血が止まりにくく、時間の経過とともに深刻な事態に陥るケースが少なくない。抗血栓薬服用者はその点を理解し、服用薬名を明記したお薬手帳の携帯を。

薬の処方を受けたら、
食べ合わせについて聞く習慣を

抗血栓薬以外にも、食べ物や飲み物からマイナスの影響を受けやすい薬があります。

このリスクについては、薬を受け取る際に、病院やクリニックで処方される薬であれば処方医に、また薬局などで購入する市販薬ならそこにいる薬剤師に、
「食事や飲み物で注意した方がいいものはありませんか」
と尋ねる習慣を身につけておけば、より安心です。

また、市販薬の場合は、薬のパッケージに必ず同封されている説明文に「使用上の注意」が明記してありますから、それを必ず読んで、納得したうえで服用することをおすすめします。

なお、医薬品の正しい用い方の啓発活動を行っている「薬の適正使用協議会」がホームページで「くすりと食品の相互作用」について詳しく説明しています*¹(コチラ)。
活用されてみてはいかがでしょうか。

かかりつけ薬剤師の活用を

なお、2006(平成18)年からスタートしている「かかりつけ薬剤師」制度を活用してかかりつけ薬剤師を決めておくと、「この薬にこの食べ物はOKかしら」などと迷ったときに、いつでも気軽に電話でも相談することができます。

かかりつけ薬剤師について詳しいことを知りたい方はこちらの記事を読んでみてください。

高齢になりかかる診療科が増えると飲む薬の種類も多くなり、飲み忘れや薬の取り違えといったトラブルが起きがちだ。同時に、複数の薬の飲み合わせリスクの問題もある。こうした問題は、かかりつけ薬局・薬剤師に服薬管理を託すことでクリアできるという話をまとめた。

参考資料*¹:薬の適正使用協議会「くすりと食品の相互作用」