病状や予後はどこまで知りたいですか

病状を知る

病名だけ知らせて、
余命は知らせないでほしい?

このブログでは、元気なうちから「いのちの終活」、いわゆるアドバンス・ケア・プランニング(愛称「人生会議」)に取り組み、最期を迎えるまでの日々を自分らしく過ごしてほしいという思いを込めて、気づいたことを順次書き綴っています。

おそらくは多くの方が、自分の最期は自分らしくありたい、納得できるかたちで人生を締めくくりたいと望んでいるのではないでしょうか。

この望みを実現するには、医師から診断を受けた自分の病気について、ただ「病名」を聞いておくだけでは不十分です。
予想される病状の経過や受けることになるであろう検査や治療、さらには余命の予測、つまりあとどのくらい生きられると予測されるのかを知ったうえで、それなりの心づもりりや事前指示書を書くなどの備えをしておくことが必要となります。

治らないイメージの強い病気にかかったとき

ところが、医師から伝えられた自分の病気が、仮に、がんなどの「治らない」というイメージの強い病気であったりすると、「ああ、もう先は長くはないんだ」などと、ついつい悲観的になってしまいがちです。

その結果、この先の病状のことや治療方針などについては「自分は知りたくないし、考えたくもない」「家族に任せるから家族と話し合ってほしい」などと、検査や治療に関する自己決定権を放棄してしまったりしたら、自分らしい最期はまず望めないでしょう。

しかし、「治らない」というイメージが依然として強いがんについていえば、直近のデータでがん患者の10年後の生存率の平均は、なんと55.5%です。
もしも今日、がんの診断を受けたとして、その半数以上の方が10年後も生存しているということになります(詳細は、国立がん研究センター 最新がん統計)。

もちろんがんが発生した部位や発見された時点での進行度によりこの数字は微妙に変わってきます。そのため一概には言えないにしても、病状や予測されるこの先の経過について診断医から詳しい話を聞く前に、「もう治らないから」と自分らしく生きることを放棄してしまうのはなんとも残念というほかありません。

余命について尋ねるときは、
「あとどれくらい……」は避ける

私はこれまで何度か、病院の緩和ケアチームのカンファレンスを取材させていただきました。
緩和ケアチームとは、がんなどの病気やその治療に伴う身体やこころの苦痛を和らげ、患者やその家族が可能な限り心穏やかに日々を過ごすことができるように、緩和治療やケアを提供する専門家からなる医療チームです。

チームの構成は病院により多少異なりますが、通常は緩和ケアの専門医を中心に、緩和ケア認定看護師や薬剤師、栄養士、臨床心理士などが参加しています。
終末期に緩和ケアを安心して受ける選択基準は?

チームは頻繁に集まっては、個々の患者についてより的確な緩和治療やケアの方法を話し合い、一定の方針のもとに活動しています。
そのカンファレンスの場で、医師が「○○さんから、私はあとどのくらい生きられるのでしょうかと聞かれて、言葉に詰まってしまった」と話すのを、何度か耳にしてきました。

聞かれたことにはできるだけ即答したいが……

医療関係者、なかでも医師は、患者や家族から何か質問を受けたら、できるだけその場で、わかる範囲のことを正直に答えなければいけない、という教育を受けています。

そのため、「どのくらいか」と聞かれたら、たとえば「まあ、半年くらいですかね」などと、その場ですぐに答えたいのですが、
「後々のことを考えると、なかなか即答しにくい――」と言うのです。

なぜならこれを聞いた患者さんが、「えっ、半年ですか!?」と絶句し、気落ちして、人によっては自暴自棄になってしまい、残された日々の過ごし方、さらには治療やケアの受け方にもマイナスの影響が及ぶことが少なくないからだそうです。

「あとどのくらい」ではなく、たとえば、よく言われるのは、「来年もお花見ができるでしょうか」とか、「娘が今年の暮れに結婚式を予定しているのですが、花嫁姿を見ることができるでしょうか」などと聞いてもらえるといいのだが、と。

このように、「どのくらい」と尋ねるのではなく、余命を知りたい理由を具体的に伝えたほうが、医師らチームとしては、これからの過ごし方をより具体的なかたちで患者と話し合うことができるだろうし、治療やケアにもそのことを反映していくことができる――。
カンファレンスでは、そういった結論になっていく例が多かったように記憶しています。

病状や予後の話は家族任せではなく
家族を含めて自分で意思決定を

病状や予後については、一昔前ほど多くはないものの、事前指示書などに「自分には何も知らせないでほしい。治療については家族と話し合ってほしい」と記してある患者が依然として少なからずいるようです。

「初診時に、すでに本人は意識がなかった」という場合は別ですが、病状や余命に関する意思決定を家族に丸投げしてしまうと、後々引き受けた家族に、「あんな治療法をお願いしてよかったのだろうか」「本人はどう思っていただろうか」など、少なからず精神的な傷を残してしまうことも珍しくないと聞きます。

病名や予後について医師から話を聞くときは、家族と同伴で、また初診時にいきなり余命まで聞いてしまうのではなく、まず病名について聞き、その後の予測される経過や余命については日を改め、ある程度心の準備ができてから説明を受けることをおすすめします。

同時に、もしものときに意思表示できない状態になる可能性を考え、家族との話し合いのもとに事前指示書を作成しておくこともお忘れなく。