新型コロナウイルスに「うがいはどうなの?」

コップの水

新型コロナウイルスの
「歩く感染源」が多い

新型コロナウイルスの「感染第7波」の拡大が深刻化しています。

新型コロナウイルスに感染してから症状を自覚するまでの、いわゆる潜伏期間は、平均すると5日程度と考えられています。

しかし、なかには感染したその日に症状が出る人もいれば、11日と長い人もいるようです。

また、症状が出た場合でも、通常の風邪が長引いた程度の症状で終始するケースが8割程度と圧倒的に多いことも、この感染症を扱いにくい厄介な病気にしているようです。

ということは、残念ながら「歩く感染源」が存在するということになります。

この感染源による市中感染を受けないためにも、個人レベルでの感染予防の徹底が求められるわけです。

ところが、厚生労働省などが国民に呼びかけている予防策を見てみると、そこに「うがい」が入っていないことに疑問を感じている方が少なくないようです。

そこで今回は、かつては当然の感染予防策の一つに位置づけられていた「うがい」と新型コロナウイルスの関係について書いてみたいと思います。

なお、東京医科歯科大学歯学部の礪波健一(となみけんいち)医師は、うがい同様に口腔内ケアとして「歯みがき」と「舌みがき」による新型コロナウイルスの感染予防の必要性を訴えています。詳しくは、こちらの記事を参考にしてください。

新型コロナの感染対策としてあまり語られていない「歯みがき」と舌苔と呼ばれる舌の汚れを取り除く「舌みがき」についてまとめた。口の中をコロナウイルスの温床としないためには、雑に回数を増やすより、1日1回でも徹底した歯みがきと舌みがきを行うことが感染予防になるらしい。

ウイルス感染の予防策から
「うがい」が外れている理由

特に呼吸器系の感染症については、感染予防策としての「うがい」の取り扱いについて、ここ数年ずっと疑問に思っていることがあります。

インフルエンザのような飛沫(ひまつ)、つまりウイルス感染者が咳やくしゃみをした際に周囲に飛び散る細かい水滴、いわゆる「しぶき」を介しての感染予防には、「うがいと手洗いをこまめに行い、人混みを避け、やむを得ず人混みに出るときはマスクを着用するように」と、昔から言われたものです。

ところが、4年ほど前からでしょうか、季節性インフルエンザの予防を呼びかける厚生労働省の国民向けメッセージやパンフレット、リーフレットなどから、それまで記載されていた「うがい」が外されているのです。

その理由を厚生労働省の担当者に尋ねたことがあります。

するとその答えは、「うがいは、一般的な風邪を予防する効果があるとする研究データはありますが、インフルエンザを予防する効果については科学的に証明されていませんから」といった程度のそっけないものでした。

今回の新型コロナウイルス感染症についても、感染防止策として厚生労働省がホームページで「新型コロナウイルスを防ぐには」とする国民向けメッセージを出しています。

そのなかで「日常生活で気をつけること」として次の一文が記載されているものの、そこにはやはり、「うがい」は入っていません(2020年2月25日版)。

「まずは手洗いが大切です。外出先からの帰宅時や調理の前後、食事前などにこまめに石けんやアルコール消毒液などで手を洗いましょう。咳などの症状がある方は、咳やくしゃみを手で押さえると、その手で触ったものにウイルスが付着し、ドアノブなどを介し他の方に病気をうつす可能性がありますので、咳エチケット*を行ってください。持病がある方、ご高齢の方は、人混みの多い場所を避けるなど、より一層注意してください。

うがいによる風邪予防効果は
実証されているが……

うがいによる風邪の予防効果については、予防医療学が専門の川村孝教授(京都大学環境安全保健機構健康管理部門)らの研究チームが科学的に実証しています*¹。

同研究チームは、ボランティア387名を「水でうがいを続けるグループ」「ヨウ素系のうがい薬でうがいを続けるグループ」「うがいをしないグループ」に分け、15秒×2回のうがいを1日3回、2か月間続けてもらい、風邪の発症状況を追跡調査しています。

その結果、水でうがいを続けたグループはうがいをしなかったグループに比べ、風邪の発症率が40%も抑えられることを確認できたというのです。

一方、ヨウ素系のうがい薬でうがいを続けたグループの風邪発症率は、12%程度の抑制にとどまっていて、統計学的に有意な抑制効果は認められなかったとしています。

水うがいが風邪発症を抑える理由

水によるうがいで風邪を抑制する効果が確認された主な理由として、同研究チームは次の2点を挙げています。

  1. うがいをするときに口の中ので起こる水の勢いにより、ウイルスそのものやウイルス感染を引き起こしやすくする物質が洗い流される
  2. 水道水に含まれる塩素が何らかの効果を発揮する

また、ヨウ素系のうがい薬によるうがいで水に見られたような効果が得られなかったことについては、のどに常在している細菌叢(さいきんそう)、いわゆる細菌の集団をうがい薬が破壊して、風邪ウイルスの侵入を許したり、喉の正常細胞を傷つけたりすることが原因として考えられるとしています。

口や鼻からの侵入ウイルス撃退に
うがいは現実的な策ではない

うがいには、口腔内の汚れを水の勢いで浮き上がらせて吐き出し、清浄にする効果があります。乾燥によるネバツキなどを改善、解消して口臭を防ぐ効果も期待できます。

うがいにより水と一緒に吐き出される口腔内の汚れのなかには、鼻や口から入り込んだ雑菌やインフルエンザウイルスなども含まれますから、うがいはウイルス感染の予防に効果があるのではないかと考えがちです。

ところがです。

鼻や口から入り込んだウイルスなどが、口腔内を通過してのどの粘膜や気管支の細胞に達し、その細胞内に侵入していくのに要する時間は想像以上に短く、早いときで数分、かかっても20分ほどと考えられています。

ですから、鼻から吸い込んだり口から入り込んできたウイルスによる感染を完全に防ぐには、数分から20分ごとにうがいをしないと間に合わないことになります。

これはあまりに非現実的な話ですから、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症の予防策としては実行可能な方法ではないとして、うがいが外されているようです。

うがいをするときはいきなり「ガラガラ」をしない

ただし、だからうがいはしなくていい、という話にはならないでしょう。

外出から戻ったとき、とりわけ満員電車や人込みの中にいたときなど、また口腔内が乾燥してのどがイガイガするようなときのうがいはおすすめです。

その際は、まず手洗いをして、次に水で口をしっかりゆすいで口の中の汚れをいったん吐き出してから、ガラガラとうがいをすることをおすすめします。

いきなり「ガラガラ」とすると、口の中の雑菌やほこりなどを喉の奥に送り込んでしまい、むしろ逆効果になってしまいますから、ご注意ください。

口腔内と喉の洗浄、清潔効果は期待できる

うがいをする際には、たとえば風邪やインフルエンザ対策にと洗面所などに【第3類医薬品】イソジンうがい薬 などが備えてあるようなら、それを使ってうがいをすれば口腔内と喉の洗浄効果はアップするでしょう。

イソジンについては「味や匂いが苦手」という方が少なくないようです。

また、イソジンの成分であるポピヨンヨードにアレルギ―反応を起こす方もいます。

医薬品などでアレルギー反応を起こしたことのある方は、注意が必要で、該当する方には【指定医薬部外品】のどスッキリうがい薬、あるいはサラヤ うがい薬 コロロ 1L ポンプ付 マイルドミント味 【指定医薬部外品】 がおすすめです。

参考資料*¹:水うがいで風邪発症が4割減少―世界初の無作為化試験で実証