砕いてはいけない薬があるのをご存知ですか

錠剤

砕いてはいけない薬の代表
効果が長く続く「徐放剤」

「徐放剤(じょほうざい)」と呼ばれる錠剤があるのをご存知でしょうか。正確には、「徐放性製剤」と言います。

徐放剤とは、「徐放」、つまり徐々に放出するという言葉どおり、薬の有効成分が少しずつ放出されて効果が長時間続くよう、表面に特殊な加工が施された薬剤のことです。

服用して体内に入った薬剤は、血流にのって全身へと運ばれることになります。このときの、血液中の薬剤の濃度を「血中濃度」と呼んでいます。

徐放剤は、この血中濃度が急激に上昇するのを避けることにより、副作用が現れるのを回避する、あるいはその症状をできるだけ抑える効果をねらったものです。

徐放剤には服用頻度を減らして飲み忘れを防ぐ効果も

また、1回の服用で薬剤の効果が長時間持続しますから、服用頻度(1日に服用する回数)を減らすことができます。

これにより、薬剤の飲み忘れや不規則な服用を極力避けることができるというわけです。

さらには、服用する手間のわずらわしさから、処方医に相談することなく服薬を自己判断で中断してしまう、といった事態も防止できると期待されています。

結果として、薬物治療をより効果的に進めることができますから、病状の悪化を防ぎ、スムーズな回復へとつなぐことになるというわけです。

今日はこの徐放剤について、知っておいていただきたいことを書いてみたいと思います。

処方された薬を自己判断で
割ったり砕いたりしない

高齢になると、どうしても食べ物を飲み込む力、つまり嚥下力(えんげりょく)が低下して、食事中にむせたり、咳き込んだりして誤嚥(ごえん)しやすくなってきます。

そこで、食事をやわらかくしたり、細かく刻んだりと、安全かつスムーズに飲み込むことができるようにあれこれ工夫することになります。

服用する薬についても同じでしょう。

高齢者はいくつかの病気を併せ持っていることが多いものです。

そのため、一度に服用する薬の種類も、そして数も、おのずと多くなる傾向にあります。

そこで、たくさんある薬をできるだけ飲みやすくしようと、専用のカッターなどで錠剤を割ったり、砕いたりすることがあります。

このような剤形の変更を、個々の薬剤の性質や特徴などを十分理解している薬剤師や看護師が行う場合は、まず問題ないでしょう。

しかし「飲み込みにくいから」と、自己判断で徐放剤を噛み砕いたり、半分にカットしたり、カッターで砕いたりして服用すると、本来長い時間をかけて放出されるはずの有効成分が一気に放出されて血中濃度が一気に上がり、思わぬ症状を引き起こすことになりかねません。

徐放剤を砕いて投与し
ヒヤリとした事例報告

たとえば、高血圧や狭心症の治療に使われる「ニフェジピンCR錠」という徐放剤をめぐり、大事には至らなかったものの「ヒヤリとした」という次のような事例が報告されています*¹。

経鼻栄養チューブを介して栄養補給をしている入院中の患者さんに、経鼻栄養をしていることを把握していなかった研修医が、ニフェジピンCR錠を処方してしまいました。

薬剤部より届いたこの薬を、病棟の看護師が粉砕して、経鼻栄養チューブから投与したところ、1時間後に患者さんの血圧が急激に低下しはじめたのです。

患者さんの異常をいち早くキャッチした病棟看護師が、直ちに適切な対応をしたことから、大事に至らず、ひとまずホッとしたようですが……。

原因を調べていくなかで、「粉砕してはいけない徐放剤を粉砕して投与した」ことに気づいたそうです。

ヒヤリとした看護師は、「患者さんに処方された錠剤を初めて病棟で粉砕するときは、粉砕してもよいかどうか薬剤師に問い合わせるか、自ら添付文書で確認しましょう」とチームで話し合ったそうです。

処方された薬が
そのままでは飲みにくいとき

徐放剤を処方する医師は、処方箋を渡す患者さんまたはご家族に、「この薬は、噛み砕いたり粉砕したりせずにそのまま服用してください」と伝えてくれるはずです。

その際に患者さんから、「そのままでは飲み込みにくい」などといった訴えがあれば、処方医は薬剤師と相談するなりして、散剤(こな薬)などの飲みやすい剤形で同じ薬効を期待できる薬に切り替えてくれるでしょう。

ですからかかりつけ医であれば、あなたの病状や治療についてよく理解しているはずですから、上記の事例のようなことは起こり得ないでしょう。

しかし、万が一ということもありますから、特に飲みなれていない薬を手にしたときは、その説明書に「徐放」の文字がないかどうか確認するようにしたいものです。

徐放剤かどうかは
略字からも判断できる

加えて徐放剤は、その薬剤名に次の略字がよく使われますから、処方された薬剤名にこの略字があれば、徐放剤として取り扱う必要があります。

  • CR:controlled release(放出をコントロールする)
  • LA:long acting(長く効く)
  • SR:sustained release(放出を持続させる)
  • TR:time release(持続放出)
  • :long(長引かせる)
  • :retard(遅らせる)

ただ、数ある徐放剤のなかには、以下の薬剤のように、薬剤名に徐放剤であることを伝える略字の付いていないものもあります。

  • オキシコンチン錠(持続性がん疼痛治療剤)
  • テオドール錠(気管支喘息・慢性気管支炎治療薬)
  • フランドル錠(狭心症・虚血性心疾患治療薬)

経鼻栄養チューブや腸瘻カテーテルを介して栄養補給をしている方、あるいは飲み込みがスムーズでないために薬は砕いて飲んでいるという方は、新たな薬を処方されたら、処方医に粉砕の可否を確認することをお忘れなく。

薬の飲み方で注意したいこと

なお、薬には飲み合わせの問題もあれば食事や飲み物との相性の問題もあります。詳しくはこちらを一度読んでいただければ嬉しいです。

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参考資料*¹:日本医療機能評価機構 医療安全情報 No.158「徐放製剤の粉砕投与」