漢方薬について最低限知っておきたいこと

ハーブティー

「漢方薬には副作用が無い」
と聞くが本当だろうか

ある集まりで年配の女性から、「漢方薬には副作用がないから安心して飲めると聞きましたが、本当ですか」と聞かれ、答えに窮してしまいました。

薬と呼ばれるものは西洋薬、漢方薬の別なく、薬として効果(主作用)があれば必ず副反応(副作用)もあるものです。

ですから一概に「漢方薬には副作用がない」とは言い切れません。

ただ、西洋医学で起こりがちな多剤併用(数種類の薬を一緒に飲むこと)によるリスクのようなことは、漢方医学(東洋医学)では起こりにくいことを考えると、確かに「安心」と言えるのかもしれません。

しかし、街の薬局やドラッグストアで処方箋が無くても手に入る漢方系の薬を自己判断で購入し、服用するということもあります。

その場合は、薬の成分がダブってしまうこともありうるわけで、100%安心とは言えないのが正直なところです。

そこで今日は、その辺の話をできるだけ具体的に書いてみたいと思います。

漢方薬は病気の原因ではなく、
「証(しょう)」に基づき処方

高齢者の薬に関しては、このところ多剤併用によるリスクが問題視されています。

西洋医学では診療科が疾患(病気)別に分かれていて、治療はそれぞれの診療科、あるいは病院やクリニックで行われます。

加齢とともに、どうしてもいくつかの疾患を合併することが多くなり、複数の診療科、複数の病院から薬の処方を受けることになります。

この場合に多剤併用、つまり薬効が類似した薬を重複して服用することにより、思わぬトラブルを起こすという問題があります。

薬と薬の相互作用により、薬本来の効果を消し合う、あるいは減少させてしまうことも起こりえます。

漢方薬は体質を重視する

その点漢方医学では、患者個々の体質を重視し、健康状態を「証(しょう)」として総合的にとらえたうえで必要な漢方薬を処方します。

そのため同じ症状であっても、「証」が違えば処方内容も変わってくることになります。

このような処方方法により、「薬の重複」や「大量投薬による薬漬け」といった問題は、漢方薬ではまずないだろうと考えられており、その意味では安心です。

漢方医学に精通した
「漢方専門医」は不足している

このような漢方薬のメリットを高齢者医療に生かそうと、高齢患者に漢方薬を処方する医師が年々増えてきています。

かかりつけ医の94%以上が漢方薬を処方しているというデータもあるそうですから、あなたも漢方薬の処方を受けたことがあるのではないでしょうか。

ただ、漢方薬のメリットを生かすには、処方する医師が、ベースとなる漢方医学そのものに精通していることが必須条件となります。

この点については日本東洋医学会が、臨床経験や認定試験の結果などから「東洋医学について専門的見識がある」と認めた医師に「学会認定専門医」の呼称を与えています。

ただし、この専門医、通称「漢方専門医」は、2018(平成30)年5月の時点で全国に2,148人と、決して十分とは言えないのが現状です(最寄りの漢方専門医は、日本東洋医学会のホームページで検索できる*¹)。

高齢者の安全な漢方薬治療に向け
一般医向けのガイドライン

漢方専門医がまだ絶対的に不足している現状を踏まえ、漢方医学が専門ではない医師も高齢者に安全な漢方薬治療ができるようにと、東北大学病院漢方内科准教授の高山真(たかやましん)医師らの研究チームが、漢方薬の有効性と使用上の注意についてガイドライン(指針)をまとめています。

このガイドラインは、『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』(メディカルビュー社)の「12.漢方薬・東アジア伝統医薬品」の章に収載されています。

これを見てみると、高齢者への有効性が示された漢方薬として、例えば認知症による幻覚や妄想、昼夜逆転、興奮、暴言、暴力、徘徊などといった興奮症状を鎮静させる効果が期待できる「抑肝散(よくかんさん)」があげられています。

また、誤嚥性肺炎の経験がある方によくみられる食物を飲み込む際に起こる過度の嚥下反射や咳反射を改善して、肺炎の発症を予防する効果が期待できるとして「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」もリストアップされています。

副作用への注意が必要な生薬のリストも

一方で、副作用に関する記述もあります。

漢方薬は、いくつかの「生薬(しょうやく)」、つまり薬効を持つ植物や鉱物、動物など天然の産物を組み合わせて、製剤として作られています。

そのため漢方薬は正式には、「漢方製剤」と呼ばれます。

この漢方製剤は、医師が処方する「医療用漢方製剤」と処方箋がなくてもインターネットや街の薬局などで簡単に購入できる「一般用漢方製剤」の2種類に分けられます・

ガイドラインは、漢方製剤の原料である生薬について、有害事象と呼ばれる副作用への注意が必要なものをリストにして紹介しています。

そのリストには、「甘草(かんぞう)」「麻黄(まおう)*」「附子(ぶし)」「大黄(だいおう)」などが並んでいます。

このうち、たとえば甘草については、「低カリウム血症とそれによるさまざまな病態を生じうる」として注意を喚起しています。

*インフルエンザに使われる「麻黄湯(まおうとう)」には、インフルエンザウイルスの増殖を抑制して発熱の日数を短くする効果が期待できる。ただ、麻黄湯の主成分である麻黄には交感神経を興奮させる作用があり、血圧を上昇させて心臓の負担を多くし、動悸が起こる場合がある。また、緑内障を悪化させるリスクもあり、高齢者は特に注意が必要と、日本東洋医学会は警告している*²。

漢方薬を長期間飲み続けるときは漢方専門医に相談を

たとえば薬局などで一般用漢方製剤を購入した際には、パッケージに明記されている「成分」の部分をチェックし、このような生薬が含まれているようなら、副作用への配慮がことさら重要となります。

一般に、短期間の服用であれば大きな問題になることは少ないとされています。

しかし、服用期間が長くなるようなら、安心、安全のために漢方専門医に相談することをおススメします。

このように、西洋医学で処方を受ける医薬品同様に漢方薬にも使い方に慎重さが求められることを、まずは認識しておく必要があります。

そのうえで、西洋薬の場合同様に、医師から医療用漢方製剤の処方を受ける際には、また最寄りの薬局で一般用漢方製剤を購入する際にも、お薬手帳を持参するなどして、重複や飲み合わせの不具合を避けるようにしたいものです。

複数の診療科を受診してその都度薬の処方を受け、何種類もの薬を同時に服用しているという方は少なくないでしょう。そんなとき気をつけたい薬の飲み合わせによる弊害と、その予防に活用したい「お薬手帳」と「電子お薬手帳」について書いてみました。

参考資料*¹:日本東洋医学会「漢方専門医検索」

参考資料*²:日本東洋医学会「インフルエンザの漢方治療について」