電子レンジは正しく使えば健康被害の心配はない

料理

「電子レンジは体に悪い」と
思い込む姑を安心させたい

落ち着いてはきたものの、新型コロナウイルス感染症が完全に消え去ったわけではなく、未だに誰もがこのウイルスのリスクを意識せざるを得ないのが現状です。

そんななか、感染対策と食生活の充実を両立させていく手段の1つとして、冷凍食品の積極的活用を提案する記事を先に書きました。

コロナ感染者が増加傾向にあり、第9波が懸念されるなか、免疫力アップのためにも食生活の充実を図る秘訣の1つとして、保存性が高く、栄養価も高い冷凍食品を上手に活用することを提案したい。素材のもつ栄養分を最大限活かす健康的な利用法をまとめた。

この記事を読んでくれた長年の友人から、SOSとも愚痴ともとれるトーンの、少し長めのメールが届きました。同居を始めたばかりの80代になって間もないお姑さんが、極度の電子レンジ嫌いで、解凍に電子レンジを使うから冷凍食品はやめてほしい、と言われるのだと――。

「電子レンジの電磁波は体に悪い、と思い込んでいるようです。電磁波は電波であり放射線ではないから健康被害の心配はないことを繰り返し話すのですが納得してもらえません」

とはいえ、夫婦共働きの身とあっては、市販や自前の冷凍ものに頼らざるをえない部分が多いため、なんとか電子レンジを使うことに了解を得たい――。「姑に、電子レンジを使っても心配ないことをわかってもらう方法はないだろうか」というのがメールの主旨でした。

電子レンジで使う電磁波は
スマホで使う電波の仲間

友人のお姑さんのように「電子レンジは体に悪い」と信じ込み、「わが家では絶対使わない」とおっしゃる方が結構おられるようです。SNSなどで「健康によくない」とアピールする記事に出合うこともあります。

そんな方々に誤解を解いてもらうには、誤解の一つひとつにエビデンス、つまり科学的な根拠をお伝えしつつ、納得してもらうのがいちばん。そこでまず、「電子レンジから電磁波が漏れ出て、その電磁波が体に悪い影響を与える」という誤解からクリアしたいと思います。

この種の誤解は、電子レンジで使用する電磁波を、病院などで放射線検査や治療に使っている放射性物質から放出される放射線(いわゆる「放射能」)と混同していることに起因している場合が多いようです。

確かに電子レンジは、加熱用の熱を発生させるために、電波の一種である「マイクロ波」と呼ばれる電磁波を使用しています。このマイクロ波は、周波数こそ違いますが、私たちの生活にきわめて身近で、いわば生活必需品ともなっているスマートフォンなどの携帯電話やGPS、無線LAN、地デジや衛星等のテレビ放送などにも使われています。

メーカーの取り扱い説明書に従って適正に使用してさえいれば、健康にマイナスの影響を与える心配がないからこそ、現代生活の必需品として定着しているのです。仮に健康によくないなら、厚生労働省や消費者庁などが「使うな!!」と警告を発するはずでしょう。

インターロック安全装置により
電磁波が外に漏れない設計に

マイクロ波のような電磁波は、部屋の電灯と同じで、電源を切ると消えてしまいます。電子レンジで言えば、電源をOFFにしている間はマイクロ波は発生しません。また、電子レンジの庫内や加熱し終えた食品にマイクロ波が残ることもありません。

電子レンジのスイッチをONにした稼働中は、レンジ庫内にマイクロ波が出ています。しかし、電子レンジのガラス製の扉には、マイクロ波が外に漏れ出ないように網状のものを取り付けるなど、厳格な規制のもとに設計されています。

ですから、電源を入れて稼働している間も扉がきちんと閉まってさえいれば安心です。というよりは、「インターロック安全装置」といって、扉が少しでも開いていればマイクロ波が発生しない、つまり電源がONにならないように設計されています。

そのため、メンテナンスをしっかりして使っている限り、電子レンジから漏れ出たマイクロ波を浴びる心配はないと考えていいでしょう。

扉の密閉シール材と外面に傷や破損がないことを確認

そのメンテナンスの方法としては、以下の2点を確認しておけば安心です。

  1. 電子レンジの扉の密閉シール材に汚れや傷がないこと
  2. 電子レンジ扉の外面に目につく傷や破損がないこと

電子レンジの扉や密閉部分に傷や破損等が見つかったり、扉の開閉や電源の入り方になんらかの問題があるときは、直ちに使用を中止します。そのうえで、取り扱い説明書に明記してあるサービスステーションや購入した電気店等に連絡し、適正な資格を有するサービスエンジニアに修理を依頼。完全に修理しを終えるまでは、電子レンジの使用を控える必要があります。

このメンテナンスさえきちんと励行していれば、稼働中の電子レンジ周辺で健康被害を受けるような高レベルのマイクロ波は検出されないことが、実験で確認されています。

取扱い説明書を紛失してしまい、どこに相談したらいいかわからない方は、ご自宅の電子レンジ製造メーカーのサービスステーションなどに問い合わせてみてはいかがでしょうか。

電子レンジで調理した食品の
健康リスクも否定されている

電子レンジの使用にまつわる誤解や疑問としてもう1点よく耳にするのが、電子レンジで加熱調理した食品の安全性、つまり健康リスクがあるのではないかという懸念です。極端な例では、「電子レンジで調理した食品は放射性物質になっていて発がん性がある」と思い込んでいる方も少なからずいるようです。

この点については、WHO(世界保健機関)の国際電磁界プロジェクトチームが、「電磁界と公衆衛生―電子レンジ」情報シートのなかで、「電子レンジで加熱調理された食品は、従来型オーブンで加熱調理された食品同様に安全で、栄養価も同じです」と、明言しています。

電子レンジによる調理は栄養分の損失が少ない

栄養価の面で言えば、電子レンジで使用するマイクロ波のエネルギーのほうが食品全体に熱が伝わる時間が短縮され、調理時間を短くすることができます。

結果として、熱に特に弱い水溶性ビタミン、具体的にはビタミンB群(B₁、B₂、B₆、B₁₂、ナイアシン、葉酸)やビタミンCの加熱による損失を少なく抑えることができます。

そのため、鍋やフライパンでゆでる、煮る、炒めるなどして加熱する調理法と比較しても、電子レンジの方が時間短縮される分だけ栄養分の損失を防ぐことができるというわけです。

電子レンジは正しく使って

なお、これはマイクロ波による健康被害ではありませんが、使い方の問題として、電子レンジに記載されている出力(500W、600Wなど)に応じた加熱時間を守らないと、食品を包んでいるラップが溶けるなどの問題が発生することがあります。

くれぐれも電子レンジと食品の双方に明記されている注意事項を厳守することをお忘れなく。また、電子レンジにも寿命があります。稼働中の電子レンジから異常な音がしたり、焦げ臭いニオイがするときは、もはや寿命と考えて買い替えを検討した方が安全でしょう。

正しく使って電子レンジ火災を防ぐ

電子レンジの使い方を誤ると、食品を加熱中に庫内で発火、発煙のトラブルを起こし、火災を引き起こすリスクがあります。その予防法はこちらを参照してください。

現代生活に定着している電子レンジだが、電子レンジ火災が増加傾向にある。原因で多いのは「加熱しすぎ」と「加熱不可の包装の加熱」だ。レンジ庫内の煙や炎の発生に驚いて扉を開けてしまい、火事になってしまうケースも多いと聞く。出火予防と、出火時の対応をまとめた。

参考資料*¹:WHO国際電磁界プロジェクト・情報シート「電子レンジ」