透析療法を受けている方は事前指示書の作成を

水滴

透析療法を継続か否かの選択を
事前指示書に明記しておく

最近、病院やクリニック単位で導入が進みつつある「透析療法(とうせきりょうほう)」という治療法の事前指示書について、今日は書いてみたいと思います。

腎臓病が重症化して腎臓の働きが著しく低下すると、慢性腎不全と診断される状態になることがあります。

腎臓が機能不全の状態になるまでの間には、尿として体外に排泄されるべき代謝産物としての水分や老廃物がからだの中にたまり、その弊害がむくみや強度の疲労感、血圧上昇などさまざまな症状として現れるようになります。

このようなときに、腎臓に代わって血液中の老廃物などを取り除き、きれいになった血液を再び体内に戻す目的で行われるのが透析療法です。

その方法は、多くが「血液透析」(「人工透析」ともいう)ですが、在宅では「腹膜透析(ふくまくとうせき)」も行われています。

透析患者の高齢化が進んでいる

日本透析医学会によれば、2020(令和2)末の時点で、国内の慢性透析患者数は34万7671人で、その平均年齢は69.4歳と、年々高齢化が進んでいます*¹。

透析患者が高齢になると、心臓病や脳卒中、がんなどを合併することが多くなってきます。

ときに認知症になることもあり、通常週に3回、1回に4時間ほどかかる透析を続けていくことを、身体的にも精神的にも負担に感じるようになってきます。

そうなった場合に備え、自ら冷静に考え、判断できるうちに、透析療法を継続するか継続を見合わせるかの選択を、事前指示書に書き留めておく透析患者が、このところ目立って増えてきています。

なお、もっと前の、そもそも透析療法を受けるかどうかという最初の段階の選択については、こちらの記事で詳しく書いていますので、参考にしていただけたら嬉しいです。

慢性腎臓病により腎機能が正常の30%ほどに低下してくると、医師から「そろそろ透析療法の検討を」と話が。透析を受けるか自然にゆだねるか。この難しい選択を手助けしてくれる冊子を紹介。「いのちの長さ」も大切ですが、それ以上に「いのちの質」に重きをおく選択を……。

透析を見合わせるとどうなるか
説明を受けたうえで意思決定を

透析療法は、胃瘻(いろう)や輸液などによる人工栄養法や人工呼吸器による生命維持療法などと同様、その治療をしなければ死につながるものの、治療を続けていればいのちを延ばすことができることから、延命治療の一つと考えられています。

これらの延命治療について、わが国では、2007(平成19)年に厚生労働省が公表した「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」において、厳しい約束事を遵守したうえで治療を中止することが初めて公的に認められました。

これを受け、終末期に透析療法を開始しない、あるいは継続しないとの意思決定をする際の手続きについて、日本透析医学会が「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」*²をまとめています。

透析の見合わせが認められる条件

この提言では、意思決定に際しては、現在継続している透析療法を見合わせた場合、どのような状態になると予測されるかについて、あなたの病状をよく理解している担当医を含む医療チームから、具体的な説明を受けることを条件にあげています。

担当医らによるこの説明は患者本人に家族が同席して、以下の2点について本人、家族共に十分納得できるまで説明を受ける必要があります。

  • 透析を中止すると自分の身体にどのような変化が起こり得るのか
  • このまま透析を続けるとどのような不具合が起こり得るのか

そのうえで、自分がどのような状態に陥ったときに透析の継続を見合わせたいのか、透析を見合わせた後に受けたい治療や受けたくない治療についても家族とよく相談し、合意を取り付けたうえで事前指示書に明記しておくことを、提言はすすめています。

透析療法を見合わせても
すぐ死に直結するとは限らない

取材を受けていただいて以来時々連絡を取り合ってきたG氏の例を紹介しましょう。

彼は、73歳から8年間にわたり糖尿病性腎症による慢性腎不全で、自宅の隣町にあるクリニックに通い血液透析を受けてきました。

このG氏から2018年の暮れも押し迫った頃、久しぶりに電話があり、「透析をやめることにした」と報告を受けました。

2年前にステージⅡの肺がんが見つかり、腎臓以外に肺がんを抱えながら透析を続けてきたものの、がんが進行して、ここ数日は透析中に激しく咳き込んで呼吸が苦しくなり、透析を中止せざるを得なくなったのだそうです。

「最期のときまでの残り少ない日々を、家族にあまり負担をかけずに、こころ静かに過ごしたいと思ってね」

電話の向こうでそう語るG氏の声は、思いのほか落ち着いていました。

事前指示書を用意しておいてよかった

G氏は肺がんが見つかった時点で、いずれがんが進行して呼吸が苦しくなるなど苦痛がさらに増大したら透析は中止したいと考えていました。

この意思を伝えたところ、担当医からは、「ではご家族とよく話し合って、書類に残しておきましょう」と、事前指示書の作成を提案され、その話し合いに「僕もよかったら参加しますよ」となったと聞いています。

事前指示書を一歩進めて人生会議を

G氏は、このところ盛んに言われているアドバンス・ケア・プランニング(ACP)、いわゆる人生会議をすでに実践していたことになります。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の普及を願い、厚労省はその愛称を「人生会議」に決めました。1人でも多くの人が納得して最期を迎えるためにも、自らの死について気軽に語り合えるようになればとの思いが、この愛称に込められているとか。

その後も家族らとの話し合いをもち、事前指示書に「透析を中止した後でも苦痛を和らげる治療やケアは希望する」ことと「最期のときまで自宅で療養したい」旨を書き加えたそうです。

G氏が透析治療を中止して10日が過ぎようという日に、電話で様子をうかがっています。

この電話に、G氏本人から「事前指示書を用意しておいてよかったです。家族みんなで穏やかな気持ちで過ごしています」との返事があったことをご報告しておきます。

その後のことは、ご家族の意向もあり詳しくは紹介できませんが、ご家族で看取られたと伺っています。合掌――。

参考資料*¹:わが国の慢性透析療法の現況(2020年12月31日現在)/日本透析医学会雑誌/54巻(2021)12号/p.611-657

参考資料*²:維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言/日本透析医学会雑誌47巻(2014)5号/p.269-285