「エンシュア」を「イノラス」に変えてみたら

飲み物

エンシュア・リキッドを
主食にして3年余り

食事中に誤嚥して救急搬送され、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)のリスクを指摘されて以降、「エンシュア・リキッド」というドリンクタイプの総合栄養剤、正確には「経腸栄養剤」を主食にした食生活に切り替えている先輩の話を何度か紹介してきました。

彼女のエンシュアとのつきあいはすでに3年余りになるでしょうか。
→ 「エンシュア」をおいしく&効果的に飲む

この間には、ティータイムに大好物の和菓子類をつまんだり、食事の時間にはムース状に加工されたレトルト食品を加えたりして、エンシュア・リキッドで最低限の栄養を確保しつつ、口から食べる楽しみも味わっているようでした。

エンシュア・リキッドは1缶250mlで250Kcalです。彼女の場合は1食に1缶ずつを3回と、10時と3時のティータイムに1缶を半分ずつの計4缶、トータルして1日1000kcalをとってきた、とのことです。

エンシュア1缶250mlを
飲みきれなくなってきた

ところがもともと小食だったうえに、80歳を過ぎた頃から日々の活動量もめっきり減り、「以前ほどにはお腹がすかなくなった」とのこと。

そんなことも手伝って、1食ごとに250mlのエンシュア・リキッドを飲みきるのは少々しんどくなってきたそうです。「でも、飲まないと低栄養になってしまう。さらに低栄養からフレイル、そして要介護へと進むのは何としても避けたい――」。

そんな思いから、かかりつけ医に相談したところ、「最近売り出されたイノラスという経腸栄養剤に切り替えてみますか?」と提案されたそうです。「どう思う?」と尋ねられたものの、イノラスという新しいタイプの経腸栄養剤が発売されたことは知ってはいたものの、詳細はつかんでいませんでした。

「だったら詳しく調べてみるね」となり、友人の管理栄養士から説明を受けるなどして、「彼女のように小食の高齢者にはいいかもしれない」と思うに至りましたので、そのへんのことをまとめてお伝えしたい思います。

医師が勧めた「イノラス」は
少量でも高たんぱく・高カロリー

イノラスは2019年6月、イーエヌ大塚製薬より発売されています。発売1カ月前の5月には、エンシュア・リキッドやエンシュア・H、エネーボなどと同様「イノラス配合経腸用液」として薬価収載されています。

薬価収載とは、医薬品として認可され、公的医療保険が適用される際の手続きです。ですから、イノラスもエンシュアなどのように、医師による処方箋があれば医療保険が適用されます。逆に、医師に処方してもらえないと入手できないという問題もあります。

イノラスの特徴は、「少量でも高たんぱくで高カロリー」とのこと。低栄養によるフレイルやサルコペニア*が問題となりがちな高齢者に合わせた新しいタイプの経腸栄養剤として開発されたそうです。

*サルコペニアとは、加齢や病気などにより全身の筋肉量が減少し、筋力が落ちてくる状態のこと。具体的には、「握力が低下して物をよく落とすようになる」「歩く速度が遅くなる」「歩行に杖や手すりなどの支えが必要になる」といった形で現れ、ついには自分の足で歩くことが困難になる状態。予防には、筋力を維持・増強するための運動に加え、筋肉の材料となるたんぱく質をビタミンやミネラルと一緒にバランスよく、十分量をとること。
→ フレイルの前段階「サルコペニア」とたんぱく質

アルミパウチ入り1パックで
1日必要栄養量の1/3を補給

実際、イノラスは1ml当たりのカロリー(エネルギー量)が1.6Kcalです。エンシュア・リキッドの1mlが1.0Kcal、エネーボが1.2Kcal、高カロリーとされてきたエンシュア・Hで1.5Kcalですから、最も高カロリーです。

たんぱく質は、エンシュア・リキッドが1缶250mlに8.8g、エネーボは1缶250mlに13.5g、エンシュア・Hは1缶250mlに13.2g。これに対し、缶ではなくアルミパウチ入りのイノラスは、1パック187.5mlに12gと、飲める量が少量でもたんぱく質が十分とれるように配慮されています。まさに小食の方向けに組成された栄養剤と言えそうです。

加えて、微量栄養素であるカルニチンやコリンなども配合されていて、1パック(パウチ)300kcalの摂取で、日本人の食事摂取基準に規定された1日に必要なビタミン・微量元素の目安量の約3分の1を補給できるようになっています。

食欲が低下している方にとっても、少ない量でしっかり栄養をとることができるのは、かなりのメリットと言っていいでしょう。

2023年7月には、イノラスの少容量タイプ(125ml)が追加発売されています。詳しくはこちらをご覧になってください。
「少量でも高たんぱく・高カロリーを補給できる」経腸栄養剤として、少食の方を中心に人気の「イノラス」に、1パウチ125mlで200kcalという小容量タイプが発売されている。医師による処方箋があれば医療保険の自己負担分で入手できる。

甘すぎず飲みやすいと好評
新しいフレーバーも

管理栄養士の友人がイノラスの利点としてあげるのは、その味や飲みやすさが、「摂取への意欲を高めてくれる」点です。

エンシュア等の経腸栄養剤と呼ばれる総合栄養剤は、エネルギーを確保するためにどうしても甘みの強いものが多くなっています。そのため、食事のたびに甘いものを飲んでいると「嫌になる」とか「飽きてしまう」と訴える声の多いことが、再三指摘されているようです。

その点イノラスには、「りんご味(りんごフレーバー)」と「ヨーグルト味(ヨーグルトフレーバー)」の2タイプが用意されています。どちらも甘さはかなり控えめになっていて、ある患者さんは、「少し甘みをつけた豆乳を飲んでいるようだ」と感想を語ってくれたそうです。

より人気が高いのは「りんご味」で、青りんごのような酸味のあるさっぱりした風味が好評で、抵抗なく飲むことができているようだ、と話してくれました。

なお、2020年8月には、新タイプのフレーバーとして、「コーヒーフレーバー」と「いちごフレーバー」が仲間入りしています。いずれもリンゴ味とヨーグルト味同様に、1パック(パウチ)300kcalの摂取で、日本人の食事摂取基準に規定された1日に必要なビタミン・微量元素の目安量の約3分の1を補給できるようになっています。

主作用と副作用を念頭に
かかりつけ医とよく相談を

ご承知のように、イノラスは医療用医薬品です。市販薬もそうですが医薬品にも、効果(ベネフィット)をもたらす主作用がある反面、副作用(リスク)が必ずありますから、飲むに際しては事前の注意が必要です。

患者向けに用意されているイノラスの「くすりのしおり」には、「次のような方は使う前に必ず担当の医師と薬剤師に伝えてください」として、以下の点をあげています。

  • 以前に薬を使用して、かゆみ、発疹などのアレルギー症状が出たことがある。
    牛乳たんぱくアレルギーがある(牛乳アレルギーの方はエレンタールを)
    腸管閉塞、腸管の機能が残存していない
    肝障害、腎障害、糖尿病などの糖質代謝異常、先天性アミノ酸代謝異常、下痢などの脱水症状、のいずれかがある
  • 妊娠中、または授乳中である
  • 他に薬などを使っている(お互いに作用を強めたり、弱めたりする可能性もありますので、他に使用中の一般用薬品や食品も含めて注意してください)

いずれにしても処方薬ですから、先輩には以上のことを念頭にかかりつけ医とよく相談して決めるように伝えたところです。なお、イノラスを食事に併用する場合のイノラスを飲むタイミングや飲み方については、こちらの記事を参照してください。

「エンシュア」などの経腸栄養剤を食事の不足分を補う目的で飲んでいる方は、エンシュアを飲むタイミングや飲み方で悩む方が少なくない。食前に一気に飲めば食欲が落ちて食事を十分摂れないし、その逆も……。そんな問題をクリアする方法を紹介する。

また、食事中にむせたり咳き込むなどの嚥下障害がある方は、誤嚥(ごえん)のリスクをさけるために、とろみ調整用食品でとろみをつけて飲むといいでしょう。その方法はこちらの記事で紹介しています。

嚥下障害があるとエンシュアなどの経腸栄養剤は流動性が高く、誤嚥しやすい。そのリスクを避けようと「とろみ調整用食品」でとろみをつけようとしても、うまく混ざらないという経験はないだろうか。その解決策として、二度混ぜ法を紹介。併せてとろみ調整用食品の使用法も。

参考資料*¹:イノラス配合経腸用液「くすりのしおり」