「ピンピンコロリ」の秘訣「まごたち食」とは?

箸を使う

「ピンピンコロリ」と
「まごたち食」

世界でもトップクラスの医療先進国に生きる私たち――。「だから」なのか「なのに」なのかは大いに迷うところですが、高齢者には「ピンピンコロリ」願望の方が多いという話を、過日書きました。
⇒ 「ピンピンコロリ」で逝けたら理想的ですが……

今日は、この「ピンピンコロリ」の秘訣のひとつとして、「まごたちわやさしい」としても知られる、いわゆる「まごたち食」を紹介したいと思います。

実をいうと私自身、15年ほど前から、この「まごたち食」ということを強く意識して、毎日の食事づくりをしています。

当時国立がんセンター研究所で疫学部長を務めておられた渡邊昌(わたなべしょう)医師から、がんを未然に防いで健康を維持し、ひいては健康長寿につなぐ鍵となる副食(おかず)のとり方として紹介されたのがきっかけでした。

「まごたち食」で
低栄養・フレイルを防ぐ

「まごたち食」とは、健康を維持、増進していくためには何を食べたらいいのかを、従来のような栄養素ではなく、具体的な食品で示した指針です。

長く歳を重ねるにつれ、どうしても食が細くなったり、食事を抜くことが多くなったりして、低栄養の状態に陥りがちです。この低栄養状態が続けば、体重が減って疲れやすく、活動が緩慢になりやすいものです。

同時に気力も低下してきますから、外出するのも億劫になり、どうしても家に閉じこもってじっとしている時間が長くなってしまいます。

こうして遂には、体力も気力も低下したフレイルと呼ばれる状態に陥り、要介護、さらには寝たきりの生活を送るということになってしまうわけです。

これでは天寿を全うして「ピンピンコロリ」と逝くのは、まず叶わないでしょう。
⇒ 健康長寿は「フレイル」の自己チェックから

「栄養バランスのよい食事」と言われても……

そんな状態にならないようにと、かかりつけの医師や看護師、保健師などから、「栄養バランスのよい食事」を毎日決めた時間に三度三度きちんととるようにと、すすめられた経験をお持ちの方は少なくないと思います。

この「栄養バランスのよい食事」というのがあまりに漠然としていて、栄養学的な知識でもないと一般にはわかりにくく、なかなか続かない――。

そこで、これまでのようにあまり馴染みのない栄養素で説明するのではなく、日々の食事で意識して食べてもらいたい食品を具体的に提示して説明したらわかってもらえるのではないか、との発想から生まれたのが「まごたち食」だと聞いています。

「まごたち食」のポイントは
副食(おかず)に何を食べるか

そのとり方ですが、私たちが毎日食事でとっているものは、大きく「身体のエネルギーとなる主食」と副食、つまり「おかず」とに分けられます。このうち副食は、さらに以下のような主菜と副菜に分けられます。

  • 血液や筋肉となるたんぱく質を多く含む「主菜」
  • 身体の調子を整えるビタミン・ミネラル・食物繊維を多く含む「副菜」

この副食としての主菜と副菜、つまり「おかず」をとるときに、「まごたちわやさしい」という言葉を意識してとるようにしよう、というのが「まごたち食」です。

「まごたちわやさしい」
の9食材をまんべんなく

「まごたちわやさしい」とは、「豆類(ま)、ごま(ご)、(た)、乳製品(ちち)、わかめなどの海藻類(わ)、野菜(や)、魚類(さ)、しいたけなどのきのこ類(し)、いも類(い)」の9種類の食材の頭文字を並べたものです。

具体的には、以下のような食材が該当します。

  • ま → 大豆製品の豆腐や納豆、黒豆、えんどう豆
  • ご → 黒ごま、白ごま、くるみ、松の実、ナッツ類
  • た → 卵(半熟卵がおススメ)
  • ち → 牛乳(ちち)、チーズ等の乳製品
  • わ → わかめなどの海藻類、昆布、ひじき、もずく
  • や → 野菜類(日本人は不足気味)
  • さ → 魚類(特に、DHAやEPAを多く含む青味魚がおススメ)
  • し → 椎茸に代表されるきのこ類
  • い → いも類

1日に、これらの食品をまんべんなく使った食事を食べるようにしていれば、食材選びで迷うこともなく必要な栄養素をバランスよくとることができます。しかも、いずれの食材も最寄りのスーパーなどで簡単に手に入れることができる、わが国に伝統的な食材ばかりです。

伝統的な食材ですから私たちの身体にも馴染みやすく、スムーズに栄養源として働いてくれるというわけです。

「まごたち食」で
重度の糖尿病もコントロール

この取材から数年後に知って驚かされたことがあります。

渡邊医師はご自身の「インスリン注射を必要とするほどだった重度の糖尿病」を、この「まごたち食」と主食のご飯を減らすなどしたカロリー制限により適正にコントロールしておられるというのです。

77歳の喜寿を迎えられた2018年からは、ご自身の実績をベースに、アジア太平洋臨床栄養学会の会長としてお忙しい日々を送っておられると伺っています。

私たち日本人の伝統的な食文化である「和食」は、理想的な栄養バランス、長寿につながる食事であることなどが認められ、2013(平成25)年12月に、ユネスコ無形文化遺産に登録されています。

それだけに「まごたち食」の育ての親ともいえる渡邊医師の出番は、この先日本の国一国を越えてさらに増えるのではないかと、ちょっと誇らしく思ったりもしています。

なお、「ピンピンコロリ」には、動脈硬化の予防効果が高いことで知られるオリーブオイルもいい、という話をこちらの記事で書いています。是非一読を!!

健康長寿を全うされた日野原医師の健康法の一つが、「毎朝オリーブオイルを飲む」こと。オリーブオイルの「オレイン酸」が悪玉コレステロールを減らして動脈硬化性疾患の発症リスクを下げるうえに、腸活効果により免疫力を高める効果も……。
食事バランスガイドの活用も
1日に「何を」「どれだけ」食べたらよいかを考える際の参考になるように、厚生労働省と農林水産省が作成した「食事バランスガイド」も栄養バランスのよい食事の参考になります。詳しくはこちらを。