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エンシュアだけで
生きられるのか
「エンシュア」というドリンクタイプの総合栄養剤(正確には「経腸栄養剤(けいちょうえいようざい)」)に関するこちらの記事を書いたところ、親しくさせていただいているA氏から、「エンシュアだけでどれだけ生き続けられるのか」と尋ねられました。
A氏から実年齢をうかがったことはありません。でも日頃の話題から察するに、そろそろ80代に入るお歳かと推測されます。
食事を飲み込みにくくなって受診し、食道がんと診断されたそうです。そのとき医師から手術と抗がん剤による治療を勧められたのですが、副作用への懸念から「それは頑として断り、放射線治療にしてもらった」とうかがっています。
1回目の治療を無事に終えて退院――。今は自宅で週に3日、かかりつけ医に訪問診療をお願いして点滴を受けながら、奥さんが飲み込みやすいように工夫した食事を少しずつ口にしているとのこと。
「市販の介護食のようなものも使っているようだが、とろみをつけたり、ミキサーにかけたりと、毎日三度三度の食事の支度で、もう若くないワイフも大変でね。この際彼女のためにもエンシュアを主食にしようと思っているのだが、果たしてエンシュアだけで生きていくのに必要な栄養がとれるだろうか」というのが、A氏のお尋ねでした。
エンシュア・Hを1日3缶で
必要なエネルギー量を摂取
私たちが健康な状態で社会生活を送っていくうえでとるべきエネルギーや各栄養素の量は、「日本人の食事摂取基準」としてまとめられています。
この基準は、直近では2020年に改定されているのですが、高齢者については、要介護状態に直結しがちな低栄養やフレイル(加齢により心身が老い衰えた状態で、要介護の一歩手前とされている)の予防を視野に入れて新たに策定されています。
この基準によれば、70歳以上の男性で生活の大半を坐った姿勢で静かに過ごしている場合の1日に必要なエネルギー摂取量は、1850kcal(キロカロリー)となっています。ただこれは、あくまでも標準値です。
先に、「平穏死(へいおんし)」という人生の終わり方について書いた記事(コチラ)で紹介している石飛幸三(いしとび こうぞう)医師によれば、人生の幕を閉じようとしている方の必要エネルギー量はまだわかっていないそうです。とは言え、その方の体格や病状による違いはあるものの、入院してほぼ終日横になった状態で静かに過ごしていても、1日1000kcalは最低必要、とのことです*¹。
1日1000kcalとして、エンシュア・リキッドは1缶250ml中250kcalですから、1日に少なくとも4缶は必要ということになります。
一方で、濃縮されたタイプのエンシュア・Hなら1缶250mlが375kcalですから、1日3回、1缶ずつで必要量を超えるエネルギーがとれる計算になります。
エンシュアには
必要な栄養分をバランスよく配合
この話をA氏にしたところ、当然ながら「エネルギーはとれたとしても、栄養素についてはどうなんだろうか」という話になりました。
この点については、たとえば自動販売機などで手に入る栄養ドリンクと異なり、エンシュア・リキッドにもエンシュア・Hにも、たんぱく質や脂質、糖質、ビタミン、ミネラルなどの栄養素がバランスよく配合されています。
「だから、大丈夫でしょう」と話すと、A氏はようやく納得したようでした。私が「大丈夫だろう」とお伝えした根拠はいくつかあります。
たとえば先に紹介した(コチラ)、仕事上の大先輩である女性は、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を起こすリスクを指摘されて以降、エンシュア・リキッドを主食にした食生活に切り替えてすでに5年が過ぎようとしています。
先輩によれば、誤嚥しないように気をつけながら、ティータイムには大好物の和菓子などをつまむこともあるとのこと。また、エバースマイル というムース食のレトルトを常備していて、その日の気分で好きなものを少量ずつですが、食べたりもしているようです。
こうした食生活で、毎年桜シーズンの到来を楽しみにしていて、「一緒にお花見に」と誘ってくれるほど元気です。
エンシュアを食事代わりに
5年生存率をクリア
健康や医療に関する解説でお馴染みの中原秀臣(なかはら ひでおみ)医師も、1日に飲んでいる缶数の言及はありませんが、エンシュア・リキッドを食事代わりにして、中咽頭がんながら「5年生存率」をクリアしたことを公表されています。
さらに挙げれば、エンシュアではありませんが、先に紹介した石飛幸三医師の著書『「平穏死」という選択』に登場する松永さんというご夫婦の例があります。
認知症になった奥さんが誤嚥性肺炎を起こして病院に搬送されると、案の定、担当医から胃瘻(いろう)の提案が……。しかし夫の松永さんは、その提案を拒否して退院させ、石飛医師のいる特別養護老人ホームへ移り、奥さんに1日2パックのゼリーを食事として与え続けたそうです。
そのゼリーは1パック300kcalで、2パックですから1日600kcalだけです。それだけの栄養で奥さんが1年半生きておられたことに、石飛医師自身も「意外な新事実だった」と書いておられます(P.81)。
口から食べることが難しくなってくると、医師は概して胃瘻や鼻チューブを介して人工的に栄養補給することを提案します。しかし消化器疾患などにより明らかに禁食が必要な場合は別として、できれば人工的ではなく、できるだけ自然にゆだねて経口摂取を続ける選択をしたいと考えている方も少なからずいるでしょう。そんな方々の参考になればとの思いからエンシュアに特化して書いてみました。
医師の処方により医療保険が使えます
紹介してきたエンシュアなどの経腸栄養剤は医療用医薬品です。入手するには医師の処方箋が必要ですから、まずはかかりつけ医に相談してみることをお勧めします。
処方してもらえれば公的医療保険が適用になりますから、自己負担分(1割か2割、もしくは3割)で入手でき、経済的にも負担が軽くなります。
なお、「エンシュア」については、こちらも参考にしていただけると思います。
参考資料*¹:石飛幸三著『「平穏死」という選択 』p.81。