血液をサラサラにする抗血栓薬服用中の方へ

薬

血栓症の治療・再発予防に
抗血栓薬は必須だが

テレビでたまたま刑事ドラマを観ていたら、犯人と思しき男性に、激しい口調で話す強面(こわもて)の刑事のこんなセリフが聞こえてきました。

「この男性は血が止まりにくい薬を飲んでいたんですよ。そのため、2日前にあなたが頭を殴ったときの出血がずっと止まらず、今朝になって、頭蓋内出血(ずがいないしゅっけつ)といって、頭の中で出血が止まらないまま亡くなったんですよ」

これを聞いて、「抗血栓薬(こうけっせんやく)のことを言っているんだろうな。だったら十分あり得る話だなぁ―」と納得したものです。

「血液をサラサラにする薬」として知られる抗血栓薬は、血栓症*の治療やその再発防止には欠かせない薬で、日本では500万人を超える方が服用していると聞きます。

抗血栓薬は、高い治療効果が期待できる薬なのですが、副作用として、頭蓋内出血などの重篤な出血を招くリスクがあり、抗血栓薬を服用している方には、このリスクを踏まえた対応が求められます。

刑事ドラマに促されたわけではありませんが、これを機に、抗血栓薬を服用中に注意すべきことをまとめておきたいと思います。

*血栓症とは、何らかの原因により血管の中にできた血栓(血のかたまり)が、血管を詰まらせて血液の流れを悪くし、臓器に障害を起こしたり、血栓が血流に乗って別の部位の臓器障害を引き起こすことをいう。
代表的な血栓症には、心筋梗塞、脳梗塞、肺塞栓、エコノミークラス症候群(肺血栓塞栓症)などがある。

抗血小板薬と抗凝固薬の
二種類に分けられる抗血栓薬

抗血栓薬とは、血液をサラサラにして血を固まりにくくすることによって血管内に血栓、つまり血の塊(かたまり)ができるのを防ぎ、血栓症を予防する薬です。

抗血栓薬にはいくつか種類があるのですが、大別すると二種類に分けられます。

血を止める役割を担っている血小板(けっしょうばん)の働きを抑制する「抗血小板薬」と、血液が固まるときに必要な「凝固因子(ぎょうこいんし)」と呼ばれる血液成分の働きを抑える「抗凝固薬」です。

主な抗血小板薬と抗血小板薬が処方される病気

抗血小板薬は、血液の流れが速い動脈や心臓の血管の血液をサラサラにして、血栓ができるのを予防する目的で処方される薬です。

よく使われるのは、「バイアスピリン」「バファリン」「タケルダ」「プラビックス」「パナルジン」「プレタール」などです。

これらの抗血小板薬が処方されるのは、主に次のような病気の方です。

  • 虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)
  • 一過性脳虚血発作(脳梗塞と同じ症状が一時的に起こり短時間で消失する)
  • 虚血性脳血管障害(脳卒中)
  • 冠動脈バイパス手術後

主な抗凝固薬と抗凝固薬が処方される病気

一方の抗凝固薬は、血液の流れが遅く、血流が滞りがちな静脈や心臓の内部に血栓ができるのを予防する目的で処方される薬です。

よく使われるのは、「ワーファリン」「ワルファリンK」「イグザレルト」「エリキュース」「プラザキサ」「リクシアナ」「ダビガトラン」などです。

これらの抗凝固薬が処方されるのは、主に次のような病気の方です。

  • 心房細動(脳梗塞予防のため)
  • 深部静脈血栓症
  • 肺塞栓症
  • 脳塞栓症
  • 心臓弁膜症術後、冠動脈バイパス手術後

抗血栓薬服用中は
出血しやすく、止血しにくい

抗血小板薬や抗凝固薬など、抗血栓薬を服用しているときは、血液がサラサラしているために出血しやすく、いったん出血すると止血、つまり血が止まりにくい状態になっています。

日常的には、特に強くぶつけたわけでもないのに「青あざができやすい」「青あざが治りにくい」「鼻血がなかなか止まらない」「歯ぐきからの出血が止まらない」「便に血が混じっている」といったことが起こりやすくなります。

このようなときは、「ああ、血液サラサラの薬のせいだろう」などと軽く考えて放置しがちですが、直ちに、薬の処方を受けた医師に症状を詳しく報告して、対処法について指示を受けるようにしてください。

極端な例ですが、冒頭の刑事ドラマのような話もそう珍しくはないようです。

抗血栓薬を服用している方が転ぶなどして頭をぶつけたりすると、その直後は意識がはっきりしていても、頭蓋内(頭蓋骨の内側)で多少でも出血が起きていると、じわじわと出血が続き、大惨事になる可能性があることも肝に銘じておきたいものです。

高齢者の転倒・転落による頭部外傷患者が増えている。その際、血液をサラサラにする抗血栓薬を服用していると、頭蓋内出血が止まりにくく、時間の経過とともに深刻な事態に陥るケースが少なくない。抗血栓薬服用者はその点を理解し、服用薬名を明記したお薬手帳の携帯を。

抗血栓薬服用中であることを
お薬手帳に明記し、常時携帯する

抗血栓薬を服用中に、内視鏡などの検査や手術を受けることもあるでしょう。あるいは、歯の治療が必要になることもあるでしょう。

いずれの場合も、自分が抗血栓薬を服用中であることを検査や治療を行う医師や医療スタッフに、事前にきちんと伝えておくことが大切です。

例えば転倒したり事故に遭って頭を強く打つなどした緊急時に、自分が意識を失うような状態に陥ることがあるかもしれません。

そのような場合でも、受診先、あるいは救急車などで搬送された病院の医療スタッフに、自分が抗血栓薬の服用者であることが伝わるように、次の3点をお薬手帳に明記しておき、その手帳を常時携帯することをおすすめします。

  1. 自分が服用している抗血栓薬の薬剤名
  2. その血栓薬の中和剤の薬剤名
  3. 血栓薬を必要としている病名

「2」の「中和剤」とは、抗血栓薬の服用により血がサラサラになって出血が止まりにくくなっている状態を元に戻し、止血を促す薬のことです。

ただ、抗血栓薬のすべてに中和剤があるわけではありません。

自分が服用している抗血栓薬に中和剤があるかどうかを処方医に確認し、ある場合は、その薬剤名を確認したうえで、お薬手帳に明記しておくことをお忘れなく。

ワルファリン服用中は
ビタミンKを避ける

抗血栓薬のなかの「ワルファリン」と呼ばれる抗凝固薬は、ビタミンKの働きを妨げることによって血液をサラサラにして血液を固まりにくくし、血栓がつくられるのを防ぐ薬です。

そのため、ビタミンKを多く含む食品をこの薬と一緒にとってしまうと、本来抑えるべきビタミンKの働きを、むしろ強めることになってしまいます。

その結果、薬の効果を弱め、血液が固まりやすく、血栓ができやすくなってしまいます。

こうした事態を防ぐためには、ワルファリン服用中はビタミンKの含有量が多い食品は避ける必要があります。

ビタミンKを多く含む食品

なかでも禁止、つまり抗血栓薬を服用している間は絶対に食べてはいけないのは、納豆、健康食品のクロレラ、青汁製品です。

キャベツやブロッコリー、ほうれん草などの緑黄色野菜、および海藻類にもビタミンKが多く含まれていますから、一度に大量を摂取するのは控えた方がいいようです。

なお、納豆については、納豆のネバネバに含まれている納豆菌が、摂取してから約3日間は体内で生き続け、腸内でビタミンKを合成し続けると考えられていますから、少量でも食べない方がいいようです。

また、アルコール、つまりお酒も極力控えることをおススメします。

薬の飲み合わせにリスクがあるように、薬と食事の食べ合わせにもリスクがあります。その代表が、高齢者の循環器疾患治療に使われることの多い抗凝固阻止剤と納豆です。薬の処方を受けたら食事や飲み物の影響の有無を確認する習慣をつけたいものです。