透析治療の中止に関する報道に思うこと

キウイとオイル

「透析治療中止」の意思決定と
その意思を尊重した医師の行為

一昨日(2019年3月7日)の毎日新聞は、東京の公立病院で、医師から透析治療をやめる選択肢もあることを告げられ透析治療の中止を決定した女性が、中止から約1週間後に死亡していたことを報じています。この記事には、非常に驚かされました。

驚いたのは、透析を中止してさほど日を置かずに患者が死亡したことではありません。
透析を「中止する」選択をした患者の意思を尊重して医師がとった行為に対し、「医師として非倫理的ではないか」との声が上がり、その病院を監督する立場にある東京都が、医療法に基づく立ち入り検査を行ったと報じている点です。

「非倫理的ではないか」とする理由として、「患者が44歳とまだ若い」「いったんは治療中止を選択した患者の意思がその後変わったのにその意思を尊重しなかった」「中止の判断に病院の倫理委員会が介入していなかった」ことなどがあげられているのですが……。

「透析中止」に至る過程を
日本透析医学会が調査の意向

透析を受けながら生活している患者の透析を中止する判断の基準については、2014(平成26)年に日本透析医学会が、ガイドラインに位置づけられる「提言」にまとめています。
そこでは、患者自らが治療を継続するか否かについて自己決定した際は、その「意思決定を尊重する」としながらも、「治療の必要性を説得する」「患者の体調が改善したり、家族が意思決定を変えた場合は、状況に応じて再開する」ことなどを求めています。

今回の透析中止が、この基準に適うものであったのかどうか――。
この報道を受け日本透析医学会は、報道があった当日(3月7日)に学会のホームページにおいて、理事長名で以下の方針を公表しています。

毎日新聞の記事に対する 日本透析医学会の方針
今回の毎日新聞に掲載された件については、日本透析医学会としても大変に重要な案件と考えています。
日本透析医学会は本日直ちに調査委員会を立ち上げました。今後、病院への立ち入り調査を含めて、本件に関する調査を行います。またその報告に基づき外部委員を入れた倫理委員会で審議していく方針です。
そのうえで正式な見解を報告させて頂きます。
あわせて、2014年に発表された「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」に関しても学術委員会、倫理委員会を中心に検討するよう指示をしております。   (引用元:日本透析医学会ホームページ

現在、透析治療を続けながら日常生活を続けている患者は、2017年時点で全国に33万人いるとのこと。このことを念頭に、あいまいな報道で患者の不安を煽ることのないように配慮しつつ、学会の調査結果に基づく見解の表明を静かに待ちたいと思います。

「透析中止」をめぐる報道が
ACPの普及に与える影響は……

今の時代、私たちはこれまでにも増して長く生きることができるようになりました。
一方で、医療の進歩によりさまざまな延命治療が可能となり、自分にとっては不本意なかたちで生き続けるケースも増えてきています。
できれば延命治療によって延々と生かされ続けるのではなく、人生の最終章は自分なりに納得のいくかたちで生き、そして締めくくりたいと考えたとき、自分が受ける治療やケアは、自分の意思で選択したいと思うものです。

そこで、本人の意思に沿った医療・ケアを、たとえば終末期に自己決定能力がなくなったような場合でも実現できるようにとの狙いから、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)という取り組みが、国を挙げて始まっています。
この取り組みが広く国民に普及するようにと、厚生労働省の主導により「人生会議」という愛称がついたことは先に記事にまとめたとおりです。
人生会議(ACP)は元気なうちから何度でも

患者の気持ちは大きく揺れ動くもの

今回の「透析中止」をめぐる一連の報道は、このACPを私たちが実践していくためには、患者サイドはもちろんですが医療者サイドにも、かなりの覚悟と備えが必要であることを突きつけているように思うのですが、いかがでしょうか。

ACPのかなめは、日常的にはあまりに不慣れな医療やケアの一つひとつについて、自分はこの治療・ケアを受けたいか、あるいは受けたくないかの意思決定を、患者自らが行うことを求めている点にあります。
不慣れな事柄であるだけに、医師をはじめとする医療者サイドには、患者が正しい理解のもとに自分の生き方に合った最善の意思決定ができるように、さまざまな角度から時間をかけて、ていねいな説明を繰り返し行うことが求められます。

あくまでも報道によればですが、今回の患者がそうであったように、人の気持ち、それも病に臥せっている患者の気持ちは揺れ動くものだけに、意思が代わることは十分あり得ます。
そのため、患者の気持ちの揺れ動きにも対応して、患者との話し合いを繰り返し行うことが医療者サイドには求められるのですが、多忙な医師をはじめとする医療スタッフがこの話し合いの時間をどう捻出していくのか――。
今回の透析治療中止をめぐる一件が、ACPの行く末にマイナスではなくプラスのかたちで影響することを願うばかりです。

なお、透析療法に関しては、これまで以下の記事を書いています。今回の一件を考える参考にしていただけたら嬉しいです。
透析療法を受けるかどうかを事前に考える
透析療法を受けている方は事前指示書の作成を