透析療法(人工透析)が必要と言われたら

水を飲む

腎臓の機能が低下していますから、
そろそろ透析の検討を……

先に、慢性腎不全で人工透析を続けている方が人生の最終段階、いわゆる終末期を迎えたときに、このまま透析を続けるか、あるいは継続を見合わせるかの判断を事前にしておくことをおすすめする記事を書きました。

腎臓の機能が著しく低下した場合に行われる透析は、患者が高齢化するのに伴い合併症などにより透析の継続が難しくなることがあります。そうなったときに透析を継続するか否かについて、事前指示書を用意しておく患者が増えていると知り、その一例を紹介する。

今日はその前の段階、医師から透析の提案があったときに、その治療を受けるかどうかを考えるそのこと自体について書いておきたいと思います。

ところで腎臓の機能については、かつて腎臓の専門医を取材した際に、「腎臓は身体のなかのゴミ処理場です」という説明を受けたことがあります。

身体のなかで使って要らなくなったものや、摂りすぎて過剰になっているものを身体の外へ排泄して、快適な環境づくりをしているのだ、と――。

そのため腎臓の働きが慢性的に悪化し、老廃物や余分な水分が体内にたまって「尿毒症(にょうどくしょう)」と呼ばれる状態になることがあります。

そうなったときは、腎臓の機能を代行する透析*によって、老廃物や余分な水分を排泄させて血液をきれいにしてあげる必要がある、という説明だったと記憶しています。

*透析には、血液を透析器を通してきれいにしてから体内に戻す「血液透析」と、腹部にカテーテルと呼ばれる管(クダ)を入れ、それを通して透析液を出し入れする「腹膜透析」の2種類がある。

透析療法を開始するか
自然にゆだねるかの選択を

もちろん大前提として個人差はあります。

それと、腎臓の働きが悪化している原因やその病状、現れている症状によっても微妙に違ってくるのですが、通常は、腎臓の働きが正常の10%を下回ると、透析療法が必要になると考えられています*¹。

そうなる少し前、おおむね30%ほどに腎機能が低下してきた段階で、医師から「腎臓の機能が低下していますから、そろそろ透析を開始するかどうかご家族も交えて相談しましょう」といった話があるようです。

この場合に考えられる選択肢は、透析を受けるか、透析は見合わせて自然にゆだねるかの二つです。

透析は見合わせて自然にゆだねる選択をした場合、ではこの先腎機能が低下していくスピードを極力抑えつつ、どのように一日一日を過ごしていくかということを、ご本だけでなく家族も交えて慎重に話し合うことになります。

ここで求められるのは、かなりシビアな判断です。

幸い、この意思決定に至るまでの考え方のプロセスをやさしく手助けしてくれる本(冊子)がありますので、紹介しておきたいと思います。

透析による「延命」だけでなく
この先の「いのちの質」にも視点を

この本というか冊子とは、『高齢者ケアと人工透析を考える—本人・家族のための意思決定プロセスノート』*²です。

ここには、タイトルにあるように、慢性腎臓病(CDK)の高齢患者のご本人とご家族とが、腎機能の低下により人工透析(あるいは腹膜透析)が必要となった際に、これを受けるかどうかについてその先の人生の見通しを立てつつ話し合っていく道筋が示されています。

医師から提示された治療を受けるかどうかの判断にあたっては、とかく「この治療によってどれだけ長生きできるか」ということ、つまり「いのちの長さ」に重きを終えて判断しがちではないでしょうか。

しかし、著者はこの冊子の「はじめに」で、次のように記して、「いのちの長さ」と同時に「いのちの質(QOL)」にも視点を置いて検討することを提案しています。

透析療法を受けることは身体や生活に大きく影響します。
また、慢性腎臓病は基本的に治癒しませんので、透析療法の方法も一生にわたって考えていく必要があります。
このような生命や生活に大きく影響する治療を選択するうえで大切なことは、「何のために治療をするのか」をご本人、ご家族がしっかりと考え、医療・福祉関係者と共有していくことではないでしょうか。
どの透析療法をするのか、もしくはどれも選択しないのか、そしていつまでするのかも含めて、お一人おひとりの「生き方」として最適な方法を選ぶことです。
いかなる医療の提供も、それがご本人の幸せのためになることが前提です。

(引用元:『高齢者ケアと人工透析を考える』P.3*²)

透析を選択した後に
継続してきた治療を終了する話も

この冊子は以下の4章で構成されています。

  • 第1章 透析療法が必要といわれたとき考えたいこと
  • 第2章 腎臓の機能を保護するための生活と治療
  • 第3章 腎不全の治療選択について理解しましょう
  • 第4章 慢性腎臓病の方の人生の最終段階のケア

透析に限らず何らかの治療法を選択すれば、当然のことながらその治療を受けることによるメリットもあればデメリットもあります。

この辺のことをきちんと理解したうえで意思決定をしてほしいという制作者サイドの思いからでしょう。

文章による情報量が多く、その分内容も濃くなっているため、治療の選択を迫られて気持ち的に余裕のなくなっている方、とりわけ高齢者には、少々負担に感じる部分があるかもしれません。

しかし、そこを乗り越えて読み進めていくと、後半部分には書き込み式のプロセスノートがあり、制作者の優しい語り口調の問いかけに答えながら考え、答えを出していけるようになっていますから、急がず時間をかけて取り組んでいくことをおすすめします。

透析を続けるかどうか

第4章では、透析を選択して治療を継続してきた方が、合併症の悪化やがんなど他の疾患の併発などにより人生の最終段階を迎えたときに、透析をそのまま続けるか見合わせるかの意思決定に関しても、考え方のプロセスが優しく示されています。

書き込み式プロセスノートの記載例も提示されていますから、抵抗なく読めるところから読み始めて、治療の意思決定に活用されてはいかがでしょうか。

透析と障害年金

なお、透析療法を受けている方は障害者手帳の交付を受けていることと思います。

障害等級で言えば2級に相当しますから、障害年金を受けられるのですが、この点についてはご存知ないままに、申請していない方が多いと聞きます。

障害年金についてはこちらで紹介していますので、是非確認してみてください。

病気やけがにより心身に障害を負った場合、国から障害年金を受給できる。これには、障害基礎年金と障害厚生年金がある。いずれにも受給要件があり、加入している年金制度によって、また障害の程度により受給の可否や年金額が異なる。そのポイントを。

参考資料*¹:日本腎臓学会「腎不全と治療選択その実際 2021年版

参考資料*²:『高齢者ケアと人工透析を考える—本人・家族のための意思決定プロセスノート』(医学と看護社)