終末期の医療をめぐり家族間で対立したら

書式に残す

第三者の立場で
家族間の対話を仲介する

これからの生き方、そして長い間生きてきた人生の締めくくり方について、本人を中心に家族やかかりつけ医などと、十分な時間をかけて対話を重ねていくアドバンス・ケア・プランニング(ACP、いわゆる「人生会議」)――。

合意に至るまでのプロセスにおいて、常に「本人の希望」が最優先されるべきことは、改めていうまでもないでしょう。

ところが、家族間でいったんは合意が得られていても、実際にその場面に直面した途端、意見が対立するといった事態に陥ることが珍しくありません。

このようなとき、本人が自らの意思をはっきり家族に伝えることができれば、問題がこじれるようなことにはならないでしょう。

家族間の対立が深まることも

ところが、病状が急に悪化することは往々にしてあるものです。

あるいは、認知症などにより、自分で自分のことを決められない状態に陥ってしまうこともありえます。

このようなときは家族間の対立が深まり、にっちもさっちもいかなくなってしまうことにもなりかねません。

そうなってしまった際に、かかりつけ医など、患者や家族のことをよく見知ってくれている医療関係者の助言が役立つこともあるでしょう。

加えて最近は、医療事情に精通し、しかも全く第三者の立場から家族間の対話を仲介して、「本人にとってどうすることが最善なのか」を冷静に話し合う手助けをしてくれる医療スタッフがいることをご存知でしょうか。

病院に増えている
「患者アドボカシー相談室」

ここ数年、外来フロア―の一角に、あるいは受付窓口のすぐ近くに、「患者アドボカシー相談室」とか「アドボカシー室」といった窓口を設置する病院が増えています。

あなたのかかりつけの病院はどうでしょうか。

「アドボカシー(advocacy)」とは、福祉領域や法曹界の方でもないとあまり見聞きしない言葉で、いまひとつ馴染みにくところがありますが……。

日本語に直訳すれば「擁護」や「支持」、あるいは「代弁」ということになるでしょうか。

この「患者アドボカシー相談室」には、病院によって多少の違いはあるものの、多くの場合「医療メディエーター」と呼ばれる看護師などの医療スタッフが常駐し、患者側からのさまざまな相談を受け付けています。

そこでは病院に関係することならなんでも気軽に相談することができます。

従来の「患者相談窓口」との違いは

しかも、従来の「患者相談窓口」にありがちな、患者や家族からの病院や病院スタッフに対する意見や要望、ときに苦情、場合によってはクレームを聞くだけでは終わらせないという点に新しさがあります。

患者から聞いたことをそのままきちんと病院側、あるいは関係する医療スタッフに直接伝えてくれるのです。

さらに話の内容によっては、双方がきちんと話し合うことができるよう話し合いの場を設定してくれることもあります。

しかも、患者サイドが希望すれば、その話し合いの場に、中立第三者の立場で「医療メディエーター」と呼ばれるスタッフが参加して、お互いが納得できる話の着地点が見つけられるように仲介してくれるのです。

関係がこじれた医師との
仲立ちをしてもらえる

この医療メディエーター(医療対話仲介者)について、ちょっと説明を――。

医療メディエーターは、そもそもは、患者側と医療者側との間に意見の食い違いやトラブルが起きた際に、それが裁判にまで発展しないよう、両者間でそのトラブルを解決するための対話を試みる橋渡し役として誕生したスタッフです。

中立的な立場で当事者間の対話を促し、相互理解を深めるようにアプローチしてくれます。

損なわれていた両者間の信頼関係を修復して、なんでも言い合えるとまではいかなくとも、聞きたいことを聞ける、言いたいことを言える関係にもっていけるように対話を仲介する役割を担っているのです。

ですから、たとえば「医師から病気や治療法について説明を受けたけれど、専門用語が多くてよくわからなかった。でも、質問できる雰囲気になかったので改めて説明を受けたい」と言った相談も受け付けてくれます。

「同じ薬をずっと飲んでいるがいっこうに効かないから薬を変えてほしいのだが、言い出しにくい」といったようなことも相談し、医師に仲介してもらうことができます。

医師に関することだけでなく、病棟の担当看護師やリハビリテーションのスタッフ、あるいは栄養士などについても、聞けないでいることや言えないでいること、お願いしたいことなどがあれば、対話を仲立ちしてもらうこともできます。

終末期医療をめぐる
家族間の対立関係修復も

加えて、大学病院の「患者アドボカシー相談室」で医療メディエーターとして活動している看護師によれば、最近は、高齢者の終末期医療の場面における家族間の対立といった新たな問題が持ち込まれることが多くなったそうです。

つい先日も、こんな相談があったそうです。

「器械の力を借りてまで長生きしたくない」と、呼吸に異変が起きても人工呼吸器だけは装着してほしくないと事前指示書に書き記した父親の意思が、母親によってほごにされそうだと、40歳代の女性が相談に訪れたというのです。

聞けば母親は、「夫には少しでも長く生きていてほしいから人工呼吸器を使ってほしい」と、担当医に頼んでしまった。

これに娘さんが、「父親の意思を無視するとはどういうことか」と怒り、母親と対立し、口もきかない関係になってしまったのだとか――。

そこで、病室に出かけて行き、母親と娘さんに思いのたけを語り合ってもらったそうです。

そのなかで、長年連れ添ってきた夫との別れが差し迫っていることに動揺した母親が、事前指示書の存在を忘れてしまっていたことがわかってきた。

一方の娘さんも、父親の死が近いことを知って冷静さを失い、母親のつらい気持ちへの配慮が欠けていたことに気づくに至った。

そしてようやく、いつもの関係性を取り戻すことができたのだそうです。

「医療者との間で、あるいは家族間で気まずい関係になり対話が途絶えるようなことがあったら、関係がこじれる前に、是非遠慮なく、第三者の立場にある医療メディエーターに橋渡し役を託してみていただきたい」――彼女はそう話しています。

医師とのコミュニケーションで悩んだら

なお、医師とのコミュニケーションでお悩みの方は、コチラも読んでみてください。

自分の病状や予後の見通しを知るには、医師とのコミュニケーションが不可欠ですが、とかくズレが生じがちです。わかり合うためには「すぐにその場で質問をしてほしい」と医師。同時に、患者と医師のパイプ役を託せる看護師を活用するのも一法です。

たとえば介護方法や食事や薬に関することなど、療養生活上の困りごとについては、「看護外来」で看護のスペシャリストに相談するのもいいでしょう。

長期にわたり医療的かかわりが必要な、いわゆる「慢性疾患患者」の増加に伴い、その療養生活について個別支援を行う「看護外来」や「看護専門外来」に注目が集まっている。そこで受けられる支援の内容、予約の手続法、かかる費用などについて概要をまとめた。