認知症になったときの希望を家族に伝えて

書き記す

「もしも認知症になったら」を
家族との人生会議のテーマに

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、夏休みなどに帰省する方が、例年に比べて大幅に減少する状況が続いています。

休日を利用しての故郷への帰省は、親が病気になったとき、あるいは介護が必要になったときに備え、親子でいわゆる「人生会議」をするいい機会なのですが……。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の普及を願い、厚労省はその愛称を「人生会議」に決めました。1人でも多くの人が納得して最期を迎えるためにも、自らの死について気軽に語り合えるようになればとの思いが、この愛称に込められているとか。

直接会って、膝をつき合せてというわけにはいかなくても、テレビ電話を介して、あるいはオンライン会議の要領で、お互い顔を合わせながら話し合うことは十分可能です。

そこで今回は、この人生会議で、「もしも認知症になったら、自分としてはどうしてほしいか」をテーマに、ご家族がそれぞれの考えを忌憚なく話し合ってみることをおすすめしたいと思います。

なお、人生会議については、横浜市が短編ドラマを作成して、そのとっかかりや、人生会議の進め方などを広く一般にアピールしていますので、是非参考にしてみてください。

新型コロナウイルスの感染拡大が影響しているのか、自分のいのちの終わりを意識して終活に取り組む人が増えている。ただしその終活は、いわゆる身辺整理のレベルで終わることが多い。そんななか横浜市は、短編ドラマを作成して「人生会議」の大切さをアピールしている。

終末期に限ることなく
この先の治療やケアを考える

人生会議については、自らの人生の締めくくり方、特に人生の最終段階に通常行われている人工呼吸器等による医療やケアについて、家族に加えかかりつけ医などの医療関係者の参加を得て、自分は受けたいかどうかの希望を伝え、その是非について話し合う場として理解している方が多いように思います。

確かに、人生会議が「アドバンス・ケア・プランニング」として、私たちの国で語られ始めた頃は、「最期の迎え方について話し合う」といったニュアンスが強いものでした。

そのため、人生会議は高齢者や深刻な病を抱えている方など、人生の終わりを強く意識するような方が取り組むべきものと受け止められがちでした。

ところが、新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない現在の状況は、そんな考えを大きく変えつつあるように思います。

当面は心身ともに健康に暮らしていても、新型コロナウイルスに感染して重症化する可能性が、「自分はゼロだ」と言い切れる方はまずいないでしょう。

だから、元気なうちにこれからの生き方、特に治療やケアの受け方について自分の考え方を大切な人と話し合っておこうというのが、「いのちの終活」、つまり人生会議なのです。

人生会議(ACP)があまり普及していない。その理由は「もしものとき」や「人生の最終段階」を強調しすぎる点にあるのではないだろうか。その点日本医師会は、ACPを「前向きにこれからの生き方を考える仕組み」としてとらえ、その方法を紹介しているという話をまとめた。

5年後の認知症患者は
高齢者の5人に1人に

この、人生会議としてこれからの治療やケアについて考える際に欠かせないのが、「もしも認知症になったら」というテーマです。

毎年、9月の第三月曜日は「敬老の日」です。

この日が近づくと、総務省から「統計からみた我が国の高齢者」が公表されます。

2021(令和3)年9月19日の報告によれば、65歳以上の高齢者は過去最多の3640万人で、そのうち80歳以上は1206万人、さらに高齢化率、つまり総人口に占める高齢者人口の割合は29.1%で、過去最高となっています。

加齢に伴い認知症は誰にでも起こり得る

年齢を重ねること、つまり加齢は、認知症の最も重要なリスク要因とされています。

つまり認知症は、誰にでも起こり得る身近な病気なのです。

現実に、高齢者が増えていくのに併行して、認知症になる方の数も年々増加してきています。

2017(平成29)年版高齢社会白書によれば、日本における認知症患者数は、統計をとった2012年の時点で約460万人で、高齢者の約7人に1人と推計されています。

認知症の前段階とされる「軽度認知障害」と推計される約400万人を合わせると、高齢者の約4人に1人が認知症またはその予備群ということになります。

さらに、団塊の世代が75歳以上になる2025年には、認知症患者の数は700万人に達し、65歳以上高齢者の約5人に1人を占めると見込まれています。

今までできていたことが
できなくなっていく認知症

認知症とは、もともと正常に発達し、問題なく機能していた脳の知的機能、すなわち物事を考えたり、記憶したり学習したり、自分の置かれている状況を理解したり、判断したりといった「認知する能力」が低下した状態を言います。

結果として、「今まで普通にできていたことができなくなる」という事態が徐々に進行し、やがて自立した社会生活を続けていくことに支障をきたすようになってきます。

では、もしも自分が認知症のためにこのような状態になったとき、自分としては、介護を受けながら家族と一緒の生活を続けたいのか、それとも家族に迷惑をかけたくないからそれなりの高齢者施設に住み替えることを望むのか――。

さまざまな社会資源が認知症者と家族を支える

私たちが暮らす国や地域には、認知症になっても住み慣れた場所で、大切な家族と一緒に自分らしく安心して生活していけるように、認知症の方とその家族を支えるさまざまなサービスや社会資源が用意されています。

たとえば介護保険の要介護認定で「要介護」もしくは「要支援」の認定を受けると利用できるデイサービスは、その一つです。

デイサービスを利用して、認知症の方が1日の数時間をデイサービスセンターで過ごすことにより、連日続く介護で消耗している家族に、いっときでも休息してもらうことができます。

在宅で認知症などの夫や妻を介護していると、24時間、365日一緒に暮らしていることから心身ともに疲労困憊の状態に陥りがち。時には介護から解放される時間を持つことがすすめられる。その一つの方法として、デイサービスやデイケアの利用の提案を。

あるいは、私たちの国には2022(令和4)年6月末の時点で1390万人を優に超える「認知症サポーター」と呼ばれる地域ボランティアがいて、地域で暮らしている認知症の方やその家族にさまざまな支援を届けています。

自宅で認知症家族を介護していると頑張りすぎて、「介護疲れ」から「介護うつ」に陥るリスクがあります。遠慮なく第三者やプロにSOSを出してほしいとの思いから、相談窓口や地域包括支援センター、さらには認知症サポーターについても書いてみました。

まずは認知症への備えを

自分としては、このようなさまざまな社会資源を上手に活用して、ずっと家族と暮らしていきたいのかどうか――。

家族としては、介護を引き受けていけるのかどうか――。

いのちの危険が迫った状態になったときに、認知症により自分の考えを自分の言葉で伝えることができなくなることを想定し、代理人を決めておくなどの備えも大切です。

しかしその前に、認知症になったときへの備えとして、家族に自分としてはどうしたいかを伝え、話し合っておくことをおすすめします。

加えてその際には、介護にかかる費用などの経済的負担についても考え、場合によっては認知症保険について検討してみるのも、安心という観点からはおすすめです。