最期の迎え方への思いに親子間でズレがある?

ホットティー

最期の迎え方に関する
アンケート調査の結果から

いっこうに終息しそうにない新型コロナウイルスの感染拡大に、「もし自分がコロナに感染したら」とか、「コロナに感染して重症化するようなことになったら」などと考える人が増えているからでしょうか。

「人生の最期をどこでどんなふうに過ごしたいか」といったことが、あちこちで話題に取り上げられるようになりました。

たとえば、公益財団法人日本財団がコロナ禍にある2021年3月、最期の迎え方に関するアンケート調査の結果*¹を発表しています。

そこでは、「死期が迫っているとわかったときに最期を迎えたい(迎えさせたい)場所」を尋ねているのですが、看取られる側の親世代も看取る側の子世代も、ともに6割弱が、「自分の(親の)自宅」と答えています。

この点では、親子の考えはおおむね一致しています。

最期を迎えるうえで大事にしたいことにズレが

ところが、「人生の最期を迎える際に、あなたにとって重要だと思うこと」を尋ねると、次の点を重視すると答えた人の割合にギャップがあり、いずれも子世代が親世代を16~19%上回るという結果になっています。

  • 「可能な限り長生きすること」
  • 「少しでも延命できるよう、あらゆる医療を受けられること」

逆に、「家族等の負担にならないこと」となると、親世代の95.1%が重視すると回答しているのに対し、子世代は80.1%にとどまっています。

このように最期の迎え方に関する考え方や思いに親子間でズレが生じている点について、本調査の担当者は、どのような最期を望むのか、家族で話し合ってみることを提案しています。

積極的な治療を受けるか
「体を楽に」を優先か

日本財団のこの調査は、以下を目的に、コロナ禍の最中にあった2020年11月、インターネットによるアンケート方式で行われています。

「人生の最期をどのような場所でどのように迎えたいかについて、看取る側と看取られる側の両方の考え、思いを明らかにする。またその背景には、人生に対するどのような価値観があるのかを把握する」

調査では、次の条件に適う親世代558人と子世代484人が、「看取られる」こと「看取る」ことをそれぞれ想定したうえで回答しています。

  • 看取られ層(親世代):67歳~81歳の男女
  • 看取り層(子世代):35歳~59歳で、親あるいは義理の親(の1人以上)が67歳以上で存命の男女

調査の結果、まさに「親の心、子知らず。子の心、親知らず」の言葉どおり、人生の最期に関する次の点において、親子間でお互いの思いにズレがみられます。

  • 子世代の43.5%が「積極的な治療を受けて1分1秒でも長生きすること」を望んでいるのに対し、親世代の95.4%は「積極的な治療を受けて長生きする」よりも「無理に治療をせずに、体を楽にさせること」を望んでいる
  • 親世代の95.1%は「家族の負担にならないこと」を望んでいるが、子世代の85.7%は「家族との十分な時間を過ごせること」を望んでいる

どこで最期を迎え
誰に看取ってもらいたいか

この親子間の考え方のズレに関連して、調査では、このズレを埋めるために、「人生の最期について家族と話し合っているかどうか」を尋ねています。

これには、親世代の75.9%、子世代の53.8%が、「お葬式・お墓」「人生の最終段階における、受けたい(受けたくない)医療・療養」「財産などの相続」「最期の迎え方」「最期を迎える場所」のいずれかについて、「家族と話し合ったことがある」と回答しています。

この回答にもあるように、これまで行われてきた人生の最期に関する家族での話し合いでは、「終活(しゅうかつ)」という言葉で一般に語られているような、自分(親世代)亡き後の自分自身の葬儀やお墓のこと、あるいは遺産相続など、生前の身辺整理のようなことに話題が集中しがちでした。

医療やケアへの希望が語られていない

いよいよ人生を締めくくろうという段階になったとき、自分としてはどこで最期を迎え、誰に看取ってもらいたいか、どのような医療やケアを受けたいか、逆に受けたくないか、といったことについては、あまり語られてきませんでした。

そこで数年前から、医療界を中心にアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の重要性が指摘されていることはご存知のことと思います。

家族など大切な人と
アドバンス・ケア・プランニングを

アドバンス・ケア・プランニングとは、「万が一の時に備え、あなたの大切にしていることや望み、どのような医療やケアを望んでいるかについて、自分自身で考えたり、あなたの信頼する人たちと話し合ったりすること」と説明されています。

いわゆる「人生会議」のことです。

アドバンス・ケア・プランニングの解説本は数多く出回っていますが、これから家族など大切な人と最期の迎え方について話し合いを始めてみようという方には、厚生労働省のWebサイトで紹介されているリーフレットがおススメです。

「これからの治療・ケアに関する話し合い――アドバンス・ケア・プランニング」と題するこのリーフレットは、厚生労働省の委託を受け、神戸大学医学部の木澤義之教授を中心とする研究班が作成した、いわばアドバンス・ケア・プランニングの手引き書*²です。

アドバンス・ケア・プランニングの進め方が具体的に紹介されているのですが、まずは、「自分が大切にしていることは何か」を考えることからスタートし、以下のプロセスで進めていくことになります。

  • いざというときに、自分に代わって意思決定を託せるような信頼できる人は誰かを考える
  • 病名や病状、予想される今後の経緯などを主治医(かかりつけ医)に確認する
  • そのうえで家族などに自分の意思を伝える話し合い(人生会議)をもつ

この話し合い、つまり人生会議は、必要に応じて何度でも繰り返し、その都度、話し合ったことを記録に残すことが大切だとされています。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の普及を願い、厚労省はその愛称を「人生会議」に決めました。1人でも多くの人が納得して最期を迎えるためにも、自らの死について気軽に語り合えるようになればとの思いが、この愛称に込められているとか。

なお、長い間生きてきた人生の締めくくり方について話し合いを重ねていくなかで、家族間での意見の対立が深まり、にっちもさっちもいかなくなってしまうこともあるでしょう。

そうなってしまった際には、かかりつけ医などの参加を求めることに加え、最近は冷静に話し合う手助けをしてくれる医療スタッフがいますから、相談してみるのもいいでしょう。

「患者アドボカシー相談室」を設置する病院が増えている。従来の、苦情受付のような相談室とは違い、そこにいる医療メディエーターが、中立第三者の立場で患者と医療者間、ときに患者と家族間の対話を仲介して関係の修復を図り問題解決の手助けをしてくれるという。

最期の迎え方について
「もしバナゲーム」で考える

家族とのアドバンス・ケア・プランニング(人生会議)のきっかけづくりがほしいという方には、カードゲームの感覚でできる「もしバナゲーム」と呼ばれるツールがあります。

緩和ケアに取り組んでいる二人の医師が、「自分の最期のときの治療やケアについて、家族や医師ら医療スタッフと気軽に話し合うきっかけになれば」と作成したカードゲームです。

「余命半年となった自分の人生の終末期を想定して、残された時間をどう過ごすのか、そのとき大切にしたい人やものは何かを考え、その価値観に近いカードを集める」ゲームです。

命の終わりを見据えたこれからの生き方、特にもしものときにどうしたいかは、話題にしにくい。人生会議において、家族や医療スタッフとそのことを気軽に語り合うツールとして、医師らが開発した余命半年を体験するゲーム、「もしバナゲーム」を紹介する。

こんなものも活用しながら、家族間での考え方や思いのズレを少しずつでも埋めながら、自分らしい最期を迎えられるように準備していただけたらと思っています。

なお、俳優の竹中直人さんや高島礼子さんらによる人生会議の進め方に関する短編ドラマも参考になります。

新型コロナウイルスの感染拡大が影響しているのか、自分のいのちの終わりを意識して終活に取り組む人が増えている。ただしその終活は、いわゆる身辺整理のレベルで終わることが多い。そんななか横浜市は、短編ドラマを作成して「人生会議」の大切さをアピールしている。

参考資料*¹:日本財団 人生の最期の迎え方に関する全国調査報告書

参考資料*²:厚生労働省「これからの治療・ケアに関する話し合い――アドバンス・ケア・プランニング」