「杖(ステッキ)」を使うなら専門家に相談を

高齢者と杖

転倒予防に
歩行状態に合った杖(ステッキ)を

加齢に伴い足腰の筋力が落ちてくると、歩いていて転倒しそうになることがあります。あるいは、変形性膝(ひざ)関節症などの病気があって痛みが出てくると、無意識のうちに痛む側の足をかばって歩くようになり、つまづいて転倒しやすくなることもあるでしょう。

このようなことを何回か経験すると、歩行に「杖(ステッキ)」の助けを借りることを考えるようになってくるのではないでしょうか。

ホームセンターでも購入できますが……

正確には「歩行補助杖」と呼ばれる「歩く」動作を助ける杖は、かつては介護用品の専門店などに行かないと手に入らなかったものです。ところが最近は、自宅使くのホームセンターなどでも簡単に買えるようになりました。

ただ、杖のコーナーに行ってみると、実にさまざまなものが用意されていますから、選択に迷うのではないでしょうか。

そこで今回は、杖を使い始めるときは整形外科医やリハビリテーション科医(通称「リハ科医」)、あるいは理学療法士など、杖の選び方や使い方に精通している専門家にアドバイスを求め、ご自分の体や歩行状態、歩行時の姿勢などに最も適した杖を選ぶことをお勧めしたいと思います。

また、種々ある杖のなかには、介護保険の要介護認定を受けていて一定の条件を満たしていれば、自分で購入しなくても介護保険でレンタルできるものもあります。その話も併せて紹介させていただきます。

なお、ご自分の転倒リスクを自己診断してみたいという方はこちらのチェックリストでリスクを把握し、リスクに応じた具体策を講じることをお勧めします。

「転倒による骨折」は、要介護・寝たきり状態の原因の上位にランクインしています。国立長寿医療研究センターのサイトにある「高齢者のための転倒防止セルフチェック」で自らの転倒リスクを把握し、リスク応じた予防策に取り組むことをおすすめします。

歩くことに不安があったら
杖を使って安全に歩行を

ところで、杖が必要になるのは、これまで難なくできていた「歩く」という動作が難しくなり、転倒しやすくなったときです。

その原因としてまず頭に浮かぶのは、脳卒中の後遺症などによる片麻痺(かたまひ、「へんまひ」ともいう)や血行障害、むくみ、しびれなどにより左右どちらかの足の感覚に問題があって歩行に不安があるといった場合でしょう。

変形性膝関節症や大腿骨頸部骨折(太ももの骨の足のつけ根部分の骨折)のような骨や関節の病気が原因で足腰の筋力が低下している場合も、歩行時のふらつきやつまづき、すべるなどの症状により転倒しやすくなってきます。

また、パーキンソン病に特徴的な症状として、「すくみ足」があります。歩こうとしても足がすくんで第一歩をなかなか踏み出せない、あるいは方向転換をするときや階段を上り下りするときにも足がすくんでしまう状態をいいます。このすくみ足があると、前のめりの姿勢になりがちで、前方に転倒しやすくなります。

いずれの場合も、体や歩行の状態に合った杖を使えば体を支えることができますから、安全に歩行することができ、転倒も容易に防ぐことができます。また、体重は杖にかかることになりますから、足腰への負担が軽くなり膝関節などの痛みを軽くする効果も期待でき、少々の長距離なら安全に歩くことができるようになります。

専門家に相談する前に
知っておきたい杖の種類と特徴

高齢者が歩行の補助を目的によく使用する歩行杖には、「T字杖」「四点杖」「ロフストランドクラッチ」「松葉杖」などがあり、それぞれ次のような特徴があります。

  • T字杖は最も多くの高齢者に使われている1本足の杖です。体重をかけやすいように、体を支える杖本体(支柱)と握り(グリップ)にT字型の角度を付けてあるのが特徴で、ホームセンターでよく見かけるのはこのタイプです。
  •  四点杖の取っ手は1つですが、脚部が4本で着地面積が広く、安定度がより高くなっています。着地面積が広いため狭い場所や整地されていないデコボコのある道では使えないというデメリットはありますが、体重をかなりかけても倒れないように工夫されていて、立つ姿勢に不安のある方の歩行訓練によく使われています。
  • ロフストランドクラッチとは、別名「エルボー(ひじ)クラッチ」と呼ばれるように、T字杖に前腕(腕のひじと手首の間)を支える腕支えが付いている杖です。握りと前腕の二箇所で体重を支えることができるため、握力が弱い方や手首に力が入りにくい方などに向いています。
  • 松葉づえは、ご存知のように脇に挟んだ1本か2本の杖で体を支えることができ、下半身麻痺や骨折、捻挫、股関節にトラブルがある方などの歩行補助に使われています。

選んだ杖で実際に歩いてみて
アドバイスを受ける

杖を選ぶ際には、以上のことを基礎知識として頭に入れたうえで専門家のアドバイスを受けながら、あなたの体の状態や歩行時の状態、つまり歩き方の癖のようなものに合った杖を選択することをお勧めします。

同時に、実はこれが大事なのですが、その選んだ杖を使って実際に歩く様子を専門家に見てもらい、杖の長さの調節や杖の握り方、歩行時の姿勢や歩き方のアドバイスを受けるとともに、杖のメンテナンスの方法についても聞いておくといいでしょう。

このメンテナンスに関しては、杖の先の、地面に接する部分についているゴムの取り替え時期を聞いておくこともお忘れなく。

ゴムは杖をついた時に滑らないようについているのですが、杖を使用しているうちにどうしてもすり減ってきます。ゴムがすり減ったままの状態で杖を使い続けていると、滑って転倒しやすくなりますから、くれぐれもご注意ください。

歩行補助杖を
介護保険でレンタルできるのは

歩行補助杖は介護保険の福祉用具貸与(レンタル)の対象となっています。要介護認定を受けている方は、介護保険に用意されている「福祉用具貸与サービス」を利用すると通常のレンタル料の1割負担でレンタルすることができます。ただ一定以上の所得がある方は、収入状況に応じて2割または3割の負担となります。

介護保険を利用するには要介護認定の申請をする必要があります。その詳細についてはこちらをチェックしてみてください。
⇒ 介護が必要になったら介護保険を利用する

あなたが自分に合った杖を介護保険でレンタルできるかどうかについても、一度専門家にお尋ねになってみるといいでしょう。介護保険には福祉用具の購入費用の一部が支給されるサービスもありますが、歩行補助杖はこのサービスの対象外です。

ただ、介護保険サービスの対象から外れる場合でも、「肢体不自由」で身体障害者手帳をお持ちの方なら、T字杖のような棒状の杖以外の歩行補助杖については、申請すれば購入費の給付を受けることができます。
⇒ 身体障害者手帳を取得できる人と申請方法

かかりつけの整形外科医か理学療法士に相談を

杖に関する専門家としては、かかりつけの整形外科やリハビリテーション科の医師か理学療法士に相談するといいでしょう。

また、入院中の方は退院支援担当の看護師か医療ソーシャルワーカー(通称「MSW」)に、退院後で訪問看護や介護保険サービスを利用している方は担当の訪問看護師やケアマネジャー(介護支援専門員)にお尋ねになるのがいいと思います。

特に介護保険や身体障害者手帳に関する相談相手には、MSWやケアマネジャー、あるいは福祉用具専門相談員がおすすめです。福祉用具専門相談員についてはこちらをご覧ください。
⇒ 介護保険でレンタル・購入できる福祉用具

なお、室内での杖歩行には床の材質や段差などによる転倒リスクが伴います。転倒予防のために自宅のリフォームを検討している方は、こちらがお役に立つと思います。

人生の最終段階を自宅で過ごすと決め、主に転倒予防の観点から住宅の改修を決断した際に利用できる介護保険サービスがある。要支援者、要介護者の認定を受けていれば、20万円の支給限度額の範囲内で給付を受けられるというものだ。その詳細を紹介する。