転倒予防の環境づくりに
介護保険の住宅改修給付を活用
人生の最終段階は、住み慣れた我が家で家族と一緒に過ごしたい。そしてもし可能なら、そんな暮らしを続けるなかで静かに人生の幕を閉じたい――。
こんなふうに希求する方が増えていると聞きます。
そう考えたとき、人生100年時代と言われる今、この先長く住み続けることになるであろう我が家が、住みやすさや安全面からみて療養生活に適しているだろうかと、不安に思う方がいるのではないでしょうか。
おそらく年を重ねるごとに、体力は否応なく落ちていくことでしょう。できる限り自立した生活を続けたいと思っても、日々の生活に人の助けが必要となり、介護を受けることになるかもしれません。
そこで何よりも先に考えたいのは、歩行能力の低下に伴う「転倒」を防ぐことです。
自宅で転倒して歩行の要となる大腿骨頸部(太ももの骨の足のつけ根に近い部分)を骨折し、寝たきりの状態になったという話が多いことなども手伝って、主に屋内での転倒予防*に配慮して、自宅の大幅改修を決断する方がこのところ増えているようです。
今日は、そのようなときに利用できる介護保険の住宅改修給付サービスについてまとめておきたいと思います。
⇒ 「転倒予防セルフチェック」を活用して健康長寿
住宅改修給付サービスを
受ける条件と受けられる給付額
介護保険制度には、療養生活を送る方が、住み慣れた我が家で安全に日々生活していけるように、住宅をバリアフリー化(「介護リフォーム」とも呼んでいます)するのにかかる費用の一部を支援してくれるサービスがあります。
住宅改修給付サービスの対象者
この給付サービスを受けることができるのは、以下の3条件を満たす要支援者あるいは要介護者で、受けられるのは一生に一度に限られます。
- 介護保険の要支援1か2、または要介護1~5の認定を受けている*
- 改修する住宅に(本人が)住んでいる
- 改修する住宅が自分の家である(一時的に家族の家に身を寄せている場合の改修は給付の対象外となる)
住宅改修給付サービスで支給される費用
この給付サービスの対象として認められると、最大20万円という支給限度額の範囲内で、かかった改修費用の9割、あるいは所得に応じて8割から7割が支給されます。
つまり、介護保険の自己負担割合が1割の方は最高18万円まで、2割の方は16万円まで、3割の方は14万円まで支給されることになります。
逆を言えば、最大20万円かかる改修工事を2万円の負担でできるということです。
しかも、上限20万円の枠は一度の改修で使い切る必要はなく、数回に分けて申請することもできるのです。
ただしこのサービス給付は後払い制です。
したがって、介護保険の利用者がいったんは改修費用の全額を業者サイドに支払い、その後に給付額の支給を受けることになります。
給付の対象となる住宅改修は
手すりの取付けや段差の解消等
要介護者や要支援者が、転倒予防など「自らの安全のため」であることを理由に住宅改修を行っても、そのすべてが介護保険給付サービスの対象になるわけではありません。
介護保険制度では、サービスの対象となる住宅改修の内容を以下の6種類に限定しています(厚生労働省資料「介護保険による住宅改修」*¹による)。
- 手すりの取り付け
廊下、便所、浴室、玄関などで転倒予防や移動、車いすなどへの移乗などの動作を助けることを目的として取り付ける場合
手すりの形状は、二段式、縦付け、横付けなどがある - 段差の解消
居室、廊下、浴室、玄関などの段差、玄関から道路までの通路などの段差または傾斜を解消する工事。具体的には、敷居を低くする工事、スロープを設置する工事、浴室の床のかさ上げなどがある - 床や通路をスムーズに通れるように行う床または通路面の材料の変更
居室の畳敷きをフローリングやビニール床材などへの変更、浴室の床材を滑りにくいものに取り換えるなどがある - 引き戸等への扉の取り替え
開き戸を引き戸や折り戸、アコーディオンカーテンなどに取り替える。あるいはドアノブや戸車(扉についている車輪)だけの変更などがある - 洋式便器等への便器の取り替え
和式便器から洋式便器への取り替えなど(水洗化やウォシュレットへの変更などは除く) - その他上記の住宅改修に付帯する工事
手すり取り付けのための壁の下地補強、浴室の床段差解消に伴う給排水設備工事、床材変更のための下地の補強などがある
住宅改修の申請手続きは
ケアマネジャー等に相談を
介護保険の要支援者や要介護者が自宅に手すりを取り付けるなどの住宅改修を行い、その費用について介護保険の給付サービスを利用するためには、やむを得ない事情がある場合を除き、事前に申請手続きを行う必要があります。
この申請手続きには、住宅改修が必要な理由を記載した書類や工事費の見積書、さらには住宅改修後の完成予定図(写真)などが必要で、なかなかやっかいです(2018年10月の制度改正により申請内容が複雑になっていますのでご注意ください)。
そこで、住宅改修を思いついた段階で、担当のケアマネジャーや訪問看護師、あるいはお住まいの市区町村窓口(介護・高齢者支援課など)や地域包括支援センターに問い合わせを行い、申請に必要な手続きの一切について支援してもらうといいでしょう。
入院中であれば退院支援を担当している病棟看護師やメディカルソーシャルワーカー(通称、MSW)などに問い合わせてみてください。
転倒予防のための住宅改修のポイントを提示した動画
在宅高齢者の転倒予防に配慮した住宅の改修については、住環境整備学がご専門の橋本美芽(はしもと みめ)首都大学東京大学院人間科学研究科 准教授が、2018(平成30)年10月に、国際福祉機器展で行った講義動画と副読本が紹介されています。
そこでは転倒予防の観点から自宅の住環境を見直すポイントや見分け方などが詳しく語られています。少々長めの動画*²ですが、住宅改修を検討されている方は一度目を通してみてはいかがでしょうか。
マルチポジションベッドのレンタルも
なお、住宅改修ではありませんが、福祉用具としてのベッドに関しては、2020年5月にフランスベッド社が売り出した「臨床支援 マルチポジションベッド」が寝たきり予防などに役立つと人気です。
介護保険でレンタルも可能ですので、検討してみてはいかがでしょうか。
⇒ 「マルチポジションベッドが凄い」と評判です
このベッド以外にも、介護保険でレンタルできる、あるいは購入費を支援してもらえる福祉用具についてはこちらを参照してください。
⇒ 介護保険でレンタル・購入できる福祉用具
参考資料*¹:厚生労働省資料「介護保険による住宅改修」
参考資料*²:国際福祉機器展 住宅改修編