犬を飼っている高齢者は認知症リスクが低い

犬の飼育

犬を飼育している高齢者は
認知症になるリスクが40%低い

認知症の予防策として、とても興味深い研究結果が報告されています。「犬を飼っている高齢者は飼っていない人に比べ、認知症になるリスクが40%低かった」というのです。

認知症の発症リスクが低下するのは、犬との散歩や犬の世話をして日常的に体をよく動かして運動量が増えること(運動習慣)、および犬の飼い主たちとの交流(社会とのつながり)の効果だと考えられています。

同様の調査結果はアメリカでも報告されていますが、日本人を対象にした調査で明らかにされたのは初めてで、専門家はもとよりペット愛好者を中心に広く一般の注目を集めています。

研究を行ったのは、高齢者の健康増進、健康長寿を目指す東京都健康長寿医療センターの「社会参加とヘルシーエイジング研究チーム」です。この研究成果を10月11日(2023年)、アメリカの医学誌に発表したことを、同センターのサイトでプレスリリースしています

フレイルによる要介護状態や
死亡するリスクも半減

同研究チームはこれまでに、日本の高齢者1万人以上を対象にした調査で、犬を飼っている人は飼ったことがない人に比べ、フレイル(加齢により心身が老い衰えた状態のこと)により介護が必要になったり、亡くなったりするリスクが半減することを明らかにしています。

また、過去に一度も犬を飼ったことがない高齢者がフレイルなどにより要介護状態になったり死亡するリスクを1とすると、犬を飼っている高齢者のそのリスクは0.54倍とほぼ半減することも確認、報告しています。

そこで今回研究チームは、高齢者のフレイルや要介護状態、さらには運動習慣や社会的つながりとの深い関連性が指摘されている認知症について、その発症に犬や猫の飼育が関係しているかどうかを調べたというわけです。

犬の飼育を通じた
運動習慣や社会とのつながり

今回の調査は、東京都の65歳以上の男女1万1194人(平均年齢74.2歳)を対象とする、新型コロナウイルスの感染拡大前の2016(平成28)年から2020(令和2)年までのデータを統計学的に分析したものです。

調査対象となった高齢者のうち犬を飼っている人の割合は8.6%、猫を飼っている人は6.3%でした。

調査対象者のうち調査期間の4年間に認知症を発症した人は5%で、犬を飼っている人は飼っていない人に比べ、認知症になるリスクが40%低いという結果を突き止めています。

さらに同じ犬を飼っている高齢者でも、日常的に犬と散歩するなどの運動習慣がある人や飼い主同士の交流があるなど社会的に孤立していない人の方が、認知症の発症リスクは低い傾向にあることも明らかにしています。

猫の飼育に優位差はなかった

一方で同じペットでも猫については、飼っている人と飼っていない人との間で認知症の発症リスクに意味のある差は見られなかった、と報告しています。

こうした結果から、同センターの協力研究員で国立環境研究所の谷口優主任研究員は、「犬特有の散歩を介した運動や、知人の輪の広がりが飼い主への良い効果をもたらしている」ことを指摘。犬の飼育によって認知症予防や健康維持が期待できるとしています。

動物との触れ合いで得られる
癒し効果を活かすアニマルセラピー

ところで、「アニマルセラピー」とか「動物介在療法」と呼ばれる治療法があるように、犬などの動物と触れ合うことでストレスの緩和やリラックス効果など、いわゆる「癒し効果」が得られることは、一般の方にもよく知られています。

この癒し効果を活用する取り組みがボランティア活動として、高齢者施設や病院、学校などに広がっていることはご承知でしょう。

この点については、「平成23年版高齢社会白書(全体版)」でも、第1章、第2節「高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向」のなかのコラム3で、「高齢者の心を癒すアニマルセラピー」として紹介されています。

そこでは、その代表的な活動として次の2つのケースを紹介。そのうえで、動物と触れ合うアニマルセラピーの効果については、「個人差があり、環境や衛生面に配慮して慎重に行う必要がある」と注意を促しています

これまで一度も犬を飼ったことはないが、健康維持にそんなにいい効果があるなら自分も飼ってみようと考える方もいるでしょう。そんな方は、まずは病院や施設で行われているアニマルセラピーに参加して、自分に合っているかどうかを確認してみることをお勧めします。

  1. 「日本動物病院福祉協会」によるCAPP活動
    「CAPP」とは、コンパニオン・アニマル・パートナーシップ・プログラム(人と動物の触れ合い活動)のこと。動物病院を中心に行われているボランティア活動としてのアニマルセラピーで、高齢者に動物の温もりや優しさと触れてもらうことを目的に、ボランティア(飼い主)が犬や猫、鳥、うさぎなどと高齢者施設や病院などを訪問している。
    活動に参加しているのは、普段はそれぞれの家庭で家族の一員として暮らしている動物たち。1986(昭和61)年に活動をスタートして以来、すでに1万回を超える訪問を実施。かかわったボランティアは9万人を超えるという。
    この活動を行っている全国の施設の一覧はこちらで紹介されています。
  2. 「日本レスキュー協会」によるセラピードッグの派遣
    同協会は独自にセラピードッグメディカルセンターを設立・運営し、種を問わず犬たちを受け入れ、高齢者や病気やケガを抱えた人、心のケアが必要な人の心と体を癒すセラピードッグとして活躍できるよう、高度な訓練を行っている。
    福祉施設等への派遣はすでに2,000回を超えるとともに、地震など大災害による被災者の心を癒すため被災地への派遣も行っている。

参考資料*¹:東京都健康長寿医療センター プレスリリース 2023年10月24日「ペット飼育と認知症発症リスク」

参考資料*²:内閣府ホームページ「平成23年版高齢社会白書(全体版)」第1章、第2節、コラム3「高齢者の心を癒すアニマルセラピー」