在宅での看取り希望なら救急車を呼ぶ前に

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救急車を呼ぶことは
「いのちを救って」というSOS

在宅での療養生活をサポートしてくれる医療・ケア体制の整備が着々と進むなか、このところ在宅での看取り、つまり在宅死を希望する高齢者が増え続けています。

ただ、住み慣れた我が家でこのまま静かに最期を迎えたいと思いながら療養していても、思わぬときに胸が苦しくなったり、思うように呼吸ができなくなったりすると、あわてて119番をコールして救急車を呼ぼうとしがちです。

救急車を呼ぶということは、「SOS」つまり「いのちを救ってほしい」というサインを送っていることになります。実際、コールを受けて駆けつけてくれる救急車には、必ず応急処置を学んで日々訓練している3人の救急隊員が同乗しています。

救急車にはいのちを救う「救急救命士」が同乗

最近ではこの3人のなかに、「救急救命士」という国家資格を取得した救急隊員がいるケースが目立って多くなっています。救急救命士には救急救命処置を行うことが許されています。

そのため、仮に病院に向かう途中の救急車の中で、患者さんに「心肺停止」といって、心臓も呼吸も一時的に止まってしまうような事態が起こっても、救急救命士によって救命されるケースが増えてきているのです。

言い方を変えれば、「いのちを救ってほしい」という願いがかなえられる可能性が高くなっているということです。逆に言えば、「住み慣れた自宅で、家族に看取られたい」と在宅死を希望して在宅療養を続けている方には、その望みから遠のくことになるということもできます。

救急車に同乗する救急救命士が、
救命処置を医師の指示で実施

救急車に同乗している救急隊員に認められているのは、あくまでも患者さんの状態をチェックしたうえでの応急手当てであり、医療処置を行うことは認められていません。

一方で救急救命士は、たとえば病院に搬送中の患者さんが、救急車の中で呼吸や心臓の機能が停止するような事態に陥った場合には、病院で待機している医師からオンラインで指示を受けることを条件に、救急救命の医療処置を行うことが認められています。

なお、ここで認められている医療処置は、AED(自動体外式除細動器)による電気ショック、静脈路を確保するための輸液、気道を確保するための気管挿管などです。

救急救命士が同乗している救急車は、残念ながらまだ100%というところまではきていませんが、確実に増えてきています。

したがって救急車に助けを求める側としては、もし自分が在宅死を希望しているのなら、救急車を呼べば、本来自分が拒否していた医療処置によって一時的に命を救われて、搬送先の病院でそのまま最期を迎える可能性が高いことを知っておく必要があります。

さらには、そのことを踏まえ、事前指示書に自分の意思表示をしておくなど、事前の策を講じておく必要があるのです。この事前指示書のひな型としては、『私の生き方連絡ノート』(EDITEX)などがあります。

事前指示書を見た救急隊員が、
「かかりつけ医」を呼んでくれた

その事前策の一例として、ある訪問看護師さんから聞いた話を紹介しておきましょう。

自宅で最期を迎えることを希望し、「かかりつけ医」、いわゆるホームドクターの往診と訪問看護を受けながら在宅療養を続けていた85歳の男性Hさんのケースです。

Hさんは、肺がんによる呼吸不全ですでに永眠されています。その、亡くなる1年ほど前からHさんは、「じっとしていられないほど息苦しくなったときにどうするか」をかかりつけ医やご家族と話し合い(いわゆる「人生会議*」です)、「すぐにかかりつけ医に連絡して、救急車は呼ばない」ことに決めていました。

Hさんのこの意思については、訪問看護師も承知していて、Hさんと相談して簡単な書類(「事前指示書」)にまとめ、ベッドサイドの目の付きやすい所に置いておいたそうです。

*人生会議については、こちらで詳しく書いています。
新型コロナウイルスの感染拡大が影響しているのか、自分のいのちの終わりを意識して終活に取り組む人が増えている。ただしその終活は、いわゆる身辺整理のレベルで終わることが多い。そんななか横浜市は、短編ドラマを作成して「人生会議」の大切さをアピールしている。

そのときそばにいたのは、
事情を知らない甥っ子だったが……

ところが、その最期が迫ったとき、Hさんのそばにいたのは、たまたま見舞いに来ていた20代の甥っ子だけだったのです。

叔父さんのただならぬ様子に慌てた甥っ子は、救急車を呼んでしまいました。ものの10分も経たずに駆けつけた救急隊員が、ベッドサイドに置いてあった「事前指示書」に気づいてくれたのは幸いでした。

その救急隊員は、Hさんの呼吸や脈を素早くチェックし終えると、事前指示書に書いてあった「かかりつけ医」の連絡先に電話を入れて状況を説明し、かかりつけ医が来るのを待って、引き上げていったそうです。

結果としてHさんは、気の置けないかかりつけ医やご家族に看取られて、望んでいたとおりの在宅死で生涯を終えることができたと聞きます。

もちろん判断に迷ったときは躊躇することなく救急車を呼んだほうがいいと思います。そのときに、自分が望む最期の迎え方を明記してある事前指示書があれば、おそらく救急隊員も、そこに書かれているあなたの意思を尊重して、適切な対応をしてくれるはずです。

救急車は本当に助けが必要なときにコールを

なお、全国消防協会は「救急車はタクシーではありません」というポスターを作成して、救急車の適正利用を促しています。

この背景には、「風邪らしいから病院に行きたい」とか「指を怪我した」程度の、自分で公共交通機関やタクシーを使って病院に行けるような、救急性のない軽症の方が、救急車をコールする約半数を占めるという実態があるからだそうです。

本当に救急車が必要な人のところへ救急車が間に合わないような事態にならないようにしたいものです。

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