自分でうまく呼吸できなくなるとき

水滴

息切れ・咳き込みは
自力での呼吸リスクのサイン

私たちはどのようなときに、自分の力で呼吸、つまり息を吸ったり吐いたりすることがうまくできなくなるのでしょうか。

ちょっと復習すると、呼吸のそもそもの目的は、肺におけるガス交換です。
鼻や口から空気中の酸素を吸い込んで身体の中に取り入れ、代わりに役目をはたして不要になった炭酸ガス(二酸化炭素)を外に出すことにより、全身をめぐっている血液の酸素と炭酸ガスの濃度を常に一定に保っているわけです。

私たちは身体の中に酸素をためこんでおくことはできません。

肺におけるガス交換がコンスタントに繰り返され、新鮮な酸素が途切れることなく身体に送り込まれることによってこそ、脳や心臓、消化器といった臓器が円滑に働いて、生命活動が営まれます。

鼻や口から吸い込んだ空気(酸素)を肺まで送り届ける通路となっている気管や気管支、さらにはガス交換が行われる肺そのものに何らかの異変が起きたりすると、呼吸がうまくできなくなります。

息切れがしたり、呼吸が苦しくなったりするのは、おおむねこんなときです。
この状態が改善されないまま呼吸が止まり、肺に酸素がまったく送り込まれなくなると、私たちは数分のうちにいのちを絶たれてしまいます。

高齢者に目だって多い
「誤嚥性肺炎」による窒息

呼吸がうまくできないという、いわゆる「呼吸困難」の状態から呼吸が止まるといった深刻な事態に陥りやすい原因はいくつか考えられます。
そのなかで高齢の方に多く、とりわけ注意していただきたいのは「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」です。

誤嚥性肺炎とは、文字どおり「誤嚥」、つまり口から食べたり飲んだりしたものや口の中にたまっていた唾液が、本来の通り道である食道ではなく気管に誤って入り込み、肺に送り込まれてしまうことによって起こる肺炎です。

「嚥下(えんげ)」と呼ばれる、ものを飲み込む機能は、長く歳を重ねるにつれ大なり小なり衰えてくるものです。

また、脳梗塞などの後遺症として、この嚥下機能が低下してくることもあります。
パーキンソン病のような神経系の疾患によっても、さらには寝たきりの状態が長く続いていても、誤嚥が起こりやすくなります。

食事中の「むせる」「咳き込む」「は誤嚥のサイン

食事中に激しくむせたり咳き込むことが続くようなときは、誤嚥が起きているサインです。

そんなときは、誤嚥したものが気管に詰まって窒息したり、誤嚥性肺炎により自力での呼吸が難しくなるリスクが高いと考え、
「寝たままの姿勢で物を飲んだり食べたりしない」
「よくかんでゆっくり飲み込む」
「おしゃべりをしながら食事をしない」など、
まずはご自分で改善策をとってみることをおすすめします。

喫煙経験者はCOPDが
呼吸停止のリスクに

自力での呼吸がうまくできなくなる状態は、呼吸をするときに空気の通り道となる肺の中の細い気管支が、長期にわたり吸い続けてきた有害物質の影響で部分的に炎症を起こして狭くなり、肺におけるガス交換がスムーズにいかなくなることによってももたらされます。

酸素の取り込みや炭酸ガスの排出がうまくいかなくなれば、
「息が切れて階段の昇り降りがつらい」
「少し動いただけで咳き込んだり、痰が出やすくなった」
といったかたちで息苦しさを感じるようになります。

このような症状が現れる病気として高齢男性に目だって多いのが、
「COPD(シーオーピーデー)」の通称で知られる「慢性閉塞性肺疾患」です。
肺気腫や慢性気管支炎と呼ばれてきた肺の病気の総称です。

この病気の最大の原因は「たばこの煙」、喫煙です。

喫煙経験はCOPDリスク

過去に喫煙を続けていた時期がある、あるいは現在も喫煙を続けているという方は、COPDのリスクが高いことを自覚する必要があります。
喫煙歴があり、すでに息切れを自覚しているようなら、早めに呼吸器内科を受診して、症状の緩和を図ることをおすすめします。

同時に、誤嚥性肺炎やCOPDが重症化して、自分の力だけでは十分な酸素を身体に取り込めなくなったときに備え、
⑴ 人工呼吸器につないでほしいのか、それは拒否したいのか、
⑵ 人工呼吸器の助けを借りるとして、気管挿管がいいのか、気管切開までして長く生き続けたいのかといったことについて、事前の意思表示をしておくことをお忘れなく。

なお、この点についてはこちらの記事で詳しく書いていますので、是非読んでみてください。

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