気管切開していても話せるカニューレがある!?

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気管切開をしているが
自分の意思を言葉で伝えたい

高齢になると、嚥下(食べ物を飲み込む)機能が低下したり、咳反射(せきはんしゃ)といって、気管に食べ物が入りそうになったときに咳(せき)をして食べ物を押し出そうとする機能が低下したりして、いわゆる窒息が起こりやすくなります。

こうした窒息や誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)に代表されるような呼吸トラブルにより、自力での呼吸がしにくくなり、このままでは呼吸できなくなると判断されると、空気の通り道となる「気道」を確保することが必要になります。

このようなときに、気道を確保するための処置として「気管挿管(きかんそうかん)」あるいは「気管切開」が行われるという話をこちらで紹介しました。

自力で呼吸できなくなったときに人工呼吸器をつける選択をすると、気管挿管あるいは気管切開により気道を確保する処置が行われます。一般の方には聞きなれないこの処置について、その方法と苦痛の程度、声への影響についてまとめてみました。

気管切開なら声を出す方法がある

気管挿管や気管切開により空気の通り道を作ることができれば、呼吸自体は確保されます。

ところがその代償として、「思いどおりに声を出せない」という不都合が発生します。

声を出すには、のどぼとけの中にある声帯の部分を空気(呼気:吐く息)が通って声帯を振動させる必要があります。

気管挿管により気管内チューブを入れておくと、このチューブが空気の通り道になりますから、声帯を振動させることは難しく、言葉を発することができません。

一方の気管切開では、切開して気管に穴を開けるのは、のどぼとけの下にあたる部分です。

声帯自体は無傷のまま残っていますから、吐く息が声帯部分を通って口や鼻から呼吸できるようにすれば、気管切開をしていても声は出せるようになります。

そのために作られたのが、「スピーチカニューレ」と呼ばれる管(クダ)です。

スピーチカニューレなら
気管切開をしても会話できる

気管切開をして気管内に入れる通常の気管カニューレは、筒が1本の単筒タイプです。

これに対しスピーチカニューレは、内筒と外筒の2筒構造になっていて、外筒には「側孔(そっこう)」と呼ばれる小さな穴が開けてあります。

また、スピーチカニューレの内側には「スピーチバブル(発声用バブル)」と呼ばれるフイルムが装着してあるのも特徴です。

スピーチカニューレの内筒を抜くと、スピーチバブルが開いて気管切開部分から空気を吸うことができます。

この吸い込んだ空気を吐き出そうとすると、スピーチバブルが閉じて、カニューレの入り口に蓋をした状態になります。

吐き出したいのに行き場を失った息(空気)は、外筒にある側孔から声帯を通過して口に抜け出るようになっているのです。

この声帯を通り抜けていくときの吐く息の振動により、声を出せる状態になり、訓練次第では、家族や友人らとの日常会話も楽しめるというわけです。

スピーチカニューレは保険適用、つまり健康保険が使えますから、自己負担分(1~3割)だけですみ、費用の面でも安心です。

スピーチカニューレを
使えない気管切開も

ただ、残念ながら、気管切開を受けたら誰もがこのスピーチカニューレに交換できるというわけではありません。

また、通常の気管カニューレからスピーチカニューレに交換すれば、すぐに話せるようになるわけではなく、ある程度の訓練が必要なことをご承知おきいただきたい――。

たとえば、スピーチカニューレには、「カフ」と呼ばれる、気管壁とカニューレの間に隙間ができないようにする風船のような留め具がついていません。

そのため、次のような問題があると、唾液や痰などを誤嚥(ごえん)して、誤嚥性肺炎につながるリスクがありますから、スピーチカニューレは適応外となるようです。

  • 意識がはっきりしていない
  • 痰の量が多く、呼吸状態が安定していない
  • 飲食物や唾液などの嚥下(飲み込み)がうまくできない(誤嚥がある)

このあたりのことは、あなたの現在の病状を理解している担当医の判断に託すのが一番です。

「会話ができるカニューレがあると聞きましたが、私はそれを使えますか?」などと相談してみることをおすすめします。

意思を伝えることを
あきらめないで

3年ほど前の春、仕事仲間の50代の男性が心筋梗塞の発作で倒れ、救急搬送されるという出来事がありました。

幸い2週間ほどで回復できたのですが、一時的だったものの、彼は人工呼吸器を着けるという初めての体験をしています。

そのときに、「最大の苦痛は、意識がはっきりしているのに、医師や看護師に自分の意思を言葉にして伝えられなかったことだった」と話してくれたことがあります。

医療者サイドは手慣れたもので、筆談や文字盤などの代替手段で意思の疎通を図ろうと努力してくれたとのこと。

しかしながら、なかなかうまく伝わらないため、自分の意思を伝えることをあきらめそうになったこともあったと話してくれました。

パソコンやスマホ、タブレットの活用を

最近はスマートフォンやパソコン、タブレットを日常的に使い慣れている方も増えています。

大きなタブレットを使ってディスプレイに伝えたいことを打ち込み、それを読んでもらうか音声化してみてはどうでしょうか。

対面式会話補助具「フィンガーボード」と呼ばれる絵文字盤と文字盤を使い、対面の相手に指差しにより意思伝達する方法なら、比較的簡単にできるでしょうから、自分の思いを伝えることをあきらめないでください。

最近は指差しだけでなく視線の動きで自分の意思を伝えることのできる透明の文字盤RA3-右配列コミュニケーションボード 介護用透明文字盤 50音みぎ配列 (A3判(大))(気管切開 ALS 脳梗塞 などによる会話不自由時のコミュニケーションツール)も、介護現場でよく使われていると聞きます(左配列も有り)。

永久気管孔なら人工鼻装着の検討を

なお、進行した喉頭がんなどで永久気管孔を形成した方には、人工鼻(じんこうはな)を装着することにより、喉の乾燥を防いだり、痰の分泌を減らすなどの効果が期待できます。

また、特殊な発声法をマスターすれば、肉声に近い自然な会話もできるようになります。

この人工鼻と人工鼻の装着に必要な衛生材料(整形外科用テープなど)には健康保険が使えますから、費用は自己負担分(1~3割)に抑えられ、そのうえ自治体によっては費用の助成制度もあります。

詳しくはこちらを読んでみてください。

進行した喉頭がんなどで声帯を含む喉頭摘出術を受けると、永久気管孔が形成されることが多い。この気管孔を介しての呼吸をより改善するための人工鼻に、2020年9月から健康保険が適用になった。人工鼻には種類があり、状況に応じて使い分けるといい、という話をまとめた。