退院前や退院後に利用できる訪問指導の活用を

診療

退院後の療養生活への不安は
退院前・退院後訪問指導でクリア

現在入院中のあなた、退院のメドがついて自宅での療養生活に移ることに決まったものの、心配や不安の種が尽きないのではないでしょうか。

幸い、わが国の公的医療保険制度には、入院中の患者さんとご家族が安心して在宅療養に移行できるよう、入院中または退院後の早い時期に、現在入院している病棟の看護師等*がご自宅を訪問して退院後に備えるサービスが用意されています。

この訪問サービスは、それぞれ「退院前訪問指導」、「退院後訪問指導」と呼ばれています。

このサービスを利用できるのは、「気管切開をしている」「傷の深い床ずれがある」「退院後も引き続き酸素療法や経管栄養などの医療処置を続ける必要がある」方と、その方の介護を担うご家族です。

今回は、条件に合えば、医療保険(健康保険)の自己負担分(1~3割)を支払うだけで利用できるこの訪問指導について、書いてみたいと思います。

*訪問するスタッフは入院中の病棟の看護師が一般的ですが、患者さんの病状や退院後に必要な医療処置やケアの内容によっては、主治医の判断により入院中に指導やケアを受けたことのある理学療法士、作業療法士、保健師、訪問看護師が病棟看護師に同行して、または単独で訪問することも可能です。

退院前・退院後訪問指導を
利用できるのは?

まず気になるのは退院前・退院後訪問指導を利用する際に必要とされる条件ですが、入院している病棟の看護師等による退院前訪問指導や退院後訪問指導を受けられるのは、次の条件に該当する方とそのご家族です。

  1. 悪性腫瘍(がん)と診断され、在宅療養に対する不安が強い方
  2. 深い床ずれ(真皮を超える褥瘡)のある方
  3. 気管切開をして気管カニューレを使用している方、留置カテーテルを使用している方
  4. 在宅での透析療法・酸素療法・中心静脈栄養法・経管栄養・自己導尿・人工呼吸器持続陽圧呼吸療法・疼痛管理のいずれかをされている方、および肺高血圧症のある方
  5. 人工肛門または人工膀胱を設置してそのセルフケアをされている方
  6. 在宅で訪問点滴注射を受ける方
  7. 認知症のある高齢者で、日常生活に支障をきたすような症状や行動があり、意思疎通が困難で、介護が必要とされる方

なお、ご自分の今の状態が上記条件のいずれかに該当し、この訪問指導*を利用できるかどうかについては、あなたの病状を最もよく理解している主治医ないしは担当の看護師さんにご相談ください。

*訪問指導としては、医療保険サービスとは別の、市町村が実施している老人保健法上の訪問指導事業もあります。こちらは、40歳以上で在宅の寝たきりや認知症の高齢者および健康診査等で健康管理上指導が必要な方を対象に、保健師等の行政スタッフと訪問指導員が訪問して必要な保健指導を行うものです。

退院前訪問指導で
受けられる支援は?

退院前訪問指導は、入院期間が継続して1か月を超えることが見込まれる患者さんで、上記の条件のいずれかに該当する方が、1回の入院につき原則1回のみ利用できるサービスです。

退院前に患者さんの退院先となるご自宅の生活環境を知ることにより、在宅療養に必要な医療処置やケアを安全かつより効果的に行いつつ、患者さんらしい生活ができるように準備することを目的に行われます。

入院後の早期(入院後14日以内の外泊時を含む)、あるいは退院当日に病棟看護師等の医療スタッフが、退院後の療養場所となるご自宅を訪問して、以下の点を中心に確認し、必要なアドバイスや提案などを行うことになります。

  1. 患者さんが家の中で長い時間を過ごすことになる場所はどこか、どこが適当か
  2. 患者さんが療養生活を送るうえで支障となるような環境(家屋内外の段差、階段、浴室の構造など)はないか
  3. 支障になる環境があれば、どのように工夫すれば安全・安楽に療養できるか
  4. 自宅での療養生活に移行するに際し、患者さんやご家族が気になっていたり不安に感じていることは何か
  5. 介護力に問題はないか

このうち「3」については、療養環境に応じて、必要な処置やケアの方法を一緒に考えて調整することになります。

なお、患者さんによっては「お世話になっている病院の方とはいえ、家の中を見られるのには抵抗がある」という方も少なからずいるようです。しかし、この訪問ではご自宅の中のすべての環境をチェックするわけではありません。また不都合な場所があれば、その旨伝えていただき、チェックから外すことも可能です。

退院後訪問指導で
受けられる支援は

退院後訪問指導は、退院後、ご自宅で患者さんに必要な処置やケアが問題なく継続できるように、必要な支援を行うことを目的とするサービスです。

この訪問指導を利用できるのは、上記1~7のいずれかに該当し、在宅での療養生活に移行している患者さんであれば、退院後1か月の間に5回まで訪問指導を受けることができます。

在宅で療養生活をスタートした患者さんを訪問する病棟看護師等は、入院中から継続している医療処置やケアが在宅でも問題なく実施されているかどうかを確認し、必要なアドバイスやケア指導などを行うことになります。

ケア方法などに心配な点があれば、最寄りの訪問看護ステーション等、地域の関係スタッフらと連携して同行訪問を行うこともあります。

退院前・退院後指導に
かかる費用は?

訪問に際しての費用、「退院前訪問指導料」あるいは「退院後訪問指導料」は、お持ちの健康保険証を提示すれば自己負担分だけの支払いで済みます。ただ、訪問に要する交通費は全額自費(患者さん側の負担)となります。

1回の訪問指導料は、自己負担分1割の方は580円、2割負担の方は1,160円、3割負担の方は1,740円となります(2022年度)。

病棟看護師に訪問看護師が同行する場合は、1割負担なら600円、2割負担なら1,200円、3割負担の場合は1,800円の追加となります。

家屋のリフォームや
各種福祉用具が必要なときは

なお、退院前訪問指導により療養生活を送るうえで室内の段差の解消や手すりの取り付けなど家屋のリフォームが必要となった場合は、介護保険サービスの「住宅改修給付サービス」で、かかる費用の一部を支援してもらうことができます。

詳しくはこちらを参照し、その旨を訪問している病棟看護師等に相談してみてください。
⇒ 転倒予防のための住宅改修を考えている方へ

福祉用具専門相談員の活用も

また、在宅での療養生活に必要な床ずれ防止用具、自動排泄処理装置等の各種福祉用具については、福祉用具専門相談員に相談する方法があります。詳しくはこちらを。
⇒ 介護保険でレンタル・購入できる福祉用具

紹介したような介護保険サービスを利用するには要介護認定を受けて、介護や支援が必要な状態にあることを認定してもらう必要があります。詳しくはこちらを。
⇒ 介護が必要になったら介護保険を利用する

介護医療院も退院先の選択肢に

退院後も医療的ケアが必要な方の退院先としては「介護医療院」も選択肢の一つとして考えられます。その入所条件などについてはこちらを参照してください。

2018年4月から開設されている「介護医療院」は、要介護高齢者が介護サービスと併行して医療サービスも受けながら、看取りのときまで暮らすことができる新しいタイプの施設です。いわゆる特養などとの違い、入居条件など、簡単に紹介してみました。

退院後の不安の解消に退院前カンファレンスを

退院後は在宅療養に移行する方の場合は、病院側スタッフと在宅側のスタッフが一堂に会して、退院後の支援に必要な情報を共有し、支援の方向性について話し合う「退院前カンファレンス」が開催されます。

この退院カンファレンスには、患者さん本人やご家族も参加できることになっています。ご自分の希望や不安なことを伝えるためにも、参加を検討されてはいかがでしょうか。

患者や家族が安心して退院し、安定した療養生活を続けられるように医療保険や介護保険には「退院前カンファレンス」が用意されている。病院側と在宅側のスタッフが一堂に会して退院後の支援について話し合うこの場には、患者も参加できることをご存知だろうか。