床ずれをつくらせない、悪化させないために

車いす

床ずれは予防できるし
悪化も食い止められる

在宅での療養生活が続き、同じ姿勢で寝ている時間が長くなったり、坐椅子や車椅子などにもたれた状態で長時間座りっぱなしでいると、褥瘡(じょくそう)、いわゆる「床ずれ」ができやすくなります。

床ずれとは、仙骨部と呼ばれるお尻の中央の骨が出た部分や踵(かかと)など、からだの一定部位が自分の体重などで圧迫され続けることによって局所的な循環障害、つまり血流が悪くなったり、滞ったりすることが原因で皮膚表面にできる傷のことを言います。

床ずれは、靴ずれができるメカニズムととてもよく似ています。

購入したばかりの靴が少々きつく、踵のあたりがすれるのを気にしつつもそのまま履き続けていると、やがてペロッと皮がむけて、痛みで歩行に支障を来すほどになってしまいます。

しかし、踵がすれるのに気づいた時点で、除圧できるようなテーピングをして皮膚を保護してあげると、多少擦れた程度のところで傷の悪化を食い止めることができるものです。

床ずれもこれと同じで、早めに気づいて対応をすることにより防ぐことができます。

そこで今回は、床ずれの予防、およびできてしまった床ずれをさらに悪化させない工夫について書いてみたいと思います。

スライディングシートを利用し
体位交換の負担を軽減

床ずれを防ぐ対策として日本褥瘡学会は、以下の4点を広く呼び掛けています。

  1. 定期的な体位交換
  2. 体圧を分散する寝具の使用
  3. 栄養管理
  4. スキンケア

「1」の定期的な体位交換とは、一定時間ごとに寝ている方のからだの向きや姿勢を変える(寝返り)介助をすることです。

姿勢を変えることにより体圧(自身の体重による圧迫)を分散させ、床ずれのできやすい骨の突出部分に圧迫が集中的にかからないようにするわけです。

とは言うものの、ベッドに寝ている方を持ち上げてからだの向きや姿勢を変えてあげることは容易ではなく、しばしば介護者の腰痛の原因となりがちです。

その負担を少しでも軽減するためには「スライディングシート 」あるいは「スライディングマット」と呼ばれる体位変換用に作られた介護用具を活用するといいでしょう。

スライディングシーツもスライディングマットも、表面の滑りを良くして摩擦を抑えることにより、わずかな力で体位変換やからだを移動させることができるようになっています。

介護者はもちろんですが、介護される側の負担を軽くする効果も期待できます。

床ずれ防止用具は
介護保険で貸与を受けられる

「2」の体圧を分散して局所的に圧力がかからないようにすることで床ずれ防止効果をねらった寝具としては、「エアマットレス」や「ウレタンフォームマットレス」などがあります。

また、車椅子用としては「体圧分散クッション」が各種あるようです。

体位変換用のシーツ類も体圧分散タイプのマットレスやクッションも、介護保険では「床ずれ防止用具」として、貸与(レンタル)サービスの対象となっています。

介護保険の要介護認定を受けていれば、という条件はつきますが……。

介護保険の要介護認定の受け方についてはこちらを。

介護保険制度については、「申請方法がよくわからない」「かかりつけ医がいないので申請できないのでは」といった声をよく見聞きする。用意されているサービスを上手く利用できていない方も多いと聞く。そこで、改めて基本的なことを整理してみた。

また、要介護認定で要支援1・2、要介護1の方は、レンタルの対象外となっています。

さらに、使用目的が明らかに床ずれ防止であっても、シーツやマット類、クッションの素材や形状によっては、介護保険の対象外となることもあります。

詳しいことはかかりつけ医や担当訪問看護師、担当ケアマネジャー、あるいは福祉用具の使用に関するプロである「福祉用具専門相談員」に相談すれば、適切なアドバイスを受けることができるはずです。詳しくはこちらを。

在宅で療養生活を送るには、自立や安全のために車いすや歩行器どの福祉用具が必要になることが多い。この福祉用具のなかには、レンタルや購入する際に介護保険を利用できるものがある。その詳細と、福祉用具の選択・取扱いのプロである「福祉用具専門相談員」についてまとめた。
2020年5月、フランスベッド社から、離床を支援してくれる「マルチポジションベッド」が売り出されています。床ずれ予防の体位変換にも活用できます。
詳しくはこちらの記事をチェックしてみてください。
寝た姿勢から、坐って、立ち上がるまでをサポートしてくれるベッドが在宅現場でうわさになっている。ただ背もたれを上げるだけでなく両サイドをさえる機能も付いていて、安定した座位で食事もできるし、足底を床につけて立つことも。何より介護保険の適用が嬉しい、と。

床ずれの発生・悪化に
「亜鉛不足」が関係している!?

「3」の栄養管理としては、床ずれに低栄養状態、とりわけたんぱく質の不足が関係していることはよく知られています。

この低栄養状態に関連して、最近の研究により「亜鉛不足」が床ずれの発生や悪化に大きく影響している可能性があることが確認されています。

亜鉛は、カルシウムやマグネシウム、ナトリウムなどと同じ必須ミネラルの1つです。

亜鉛不足が高齢者に多い味覚障害の原因だとする指摘があることは、先の記事で紹介しましたが、褥瘡の発生・回復過程にもマイナスに働いているというのです。

亜鉛はあらゆる食材に含まれているのですが、特に含有量が多いのは、牡蠣(かき)やうなぎ、レバー類です。手軽なところでは、牡蠣の燻製油漬け缶詰にも多く含まれていますから活用されてはいかがでしょうか。

また、カシューナッツやアーモンドなどにも多く含まれていますから、クラッシュミルサー などで粉砕し、ふりかけとして摂る方法もおすすめです。

もっと手軽なものとしてはゴマがあります。ゴマには亜鉛だけでなくカルシウムも豊富に含まれていますから、すりゴマをいろいろなものにかけてとるといいでしょう。

ファーストフードや降圧薬、脳循環改善薬に要注意

逆に亜鉛の吸収を妨げる食品には注意が必要です。

調理済みの「ファーストフード」と呼ばれる食品は、その手軽さからつい利用したくなるのですが、亜鉛の吸収を妨げる食品添加物が多く、食べ過ぎないように注意が必要です。

ハムやソーセージ類、ちくわやかまぼこのような魚肉の練り製品、カップ麺に代表されるインスタント食品、さらには菓子パンなどが該当します。

また、高齢者の多くが処方を受けている降圧薬や脳梗塞後遺症のめまいや意欲の低下といった症状の軽減を目的に処方される脳循環改善薬、一部の抗がん剤、あるいは抗うつ薬のなかには、亜鉛の吸収を抑制する作用をもつ薬もあります。

この種の薬を服用している方は、かかりつけ医に床ずれができていること、あるいは回復が遅れていることなどを伝え、薬の変更を相談してみることをおすすめします。

睡眠薬などの副作用で床ずれができることも

なお、睡眠薬や鎮静薬を服用している場合は、その副作用で床ずれができたり、床ずれが悪化したりすることもあるという話をこちらで書いています。是非一読してみてください。

在宅療養者とその介護者を悩ませる「褥瘡(床ずれ)」。その発現や悪化の原因が睡眠薬や鎮静薬の副作用というケースが珍しくないことが指摘されている。薬が必要以上に効きすぎて過度の深い鎮静状態になり、寝返りも打たないまま長時間寝入っていることで床ずれが……。

床ずれを悪化させる失禁対策も

床ずれの発症や悪化の原因の1つが、尿や便の失禁による皮膚の湿潤やおむつかぶれです。

この予防に、介護保険が適用になる福祉用具である「自動排泄処理装置」をレンタルしてみてはいかがでしょうか。

上手に使いこなすことができれば、おむつからの解放も期待できます。
詳しくはこちらを。

介護保険が適用になる福祉用具の1つに、排泄ケアを受ける側の遠慮や気遣いとケアする側の負担を軽減できる「自動排泄処理装置」がある。寝たきりの状態で使用でき、おむつからの解放も期待できるこの装置について、使用するメリットや介護保険適用の条件等をまとめた。