続く便秘、すぐに受診したほうがいいときは?

トイレ

日常的な便秘にも
医師の診断が必要なものも

高齢者には特に、便秘になりやすい要因が少なからずあります。

歳を重ねるにつれ、否応なく体を動かすことが少なくなるのが一つの要因です。

食が細くなってあまりたくさんは食べられないうえに、入れ歯だったり、歯に何らかのトラブルがあれば、便のもとになるような繊維成分を極力減らした口当たりのよい食事になるでしょうから、どうしても便通は滞りがちに――。

結果として、「無理にいきまないと便が出ない」といったことになりがちです。

あるいは、「排便は1日1回はあるものの量が少なく、排便した後も便が残っているような感じがしてすっきりしない」とか、「3~4日に一度しか排便がない」といった状態が続いている方も少なくないのではないでしょうか。

このような状態が続いても、とかく「たかが便秘」と甘く見がちです。

ですが、なかには背景に何らかの深刻な病気があって便秘が起きているといった例も珍しくありません。

そこで今回は、早い段階に医師の診断が必要とされるような便秘について大事な点をまとめておきたいと思います。

便秘とは便を十分量かつ
快適に排便できない状態

我が国の便秘の治療は、便秘を訴える患者を診療する機会の多い消化器内科の医師等の集まりである「日本消化器学会関連研究会慢性便秘の診断治療研究会」が2017年10月にまとめた「慢性便秘症診療ガイドライン」*¹に沿って進められています。

このガイドラインでは、「便秘」を「本来なら体外に排出すべき糞便(ふんべん)を、十分量かつ快適に排出できない状態」と定義しています。

つまり、「便秘」は「症状」ではなく、かといって「病名」でもなく、排便困難や残便感(ざんべんかん)が続いている状態を表す「状態名」だというわけです。

ここでいう「排便困難」とは、排便回数や排便量が少ないために便が大腸内に残っている状態、また「残便感」とは、肛門のすぐ上にある直腸内に蓄えられている便を快適に、つまりすっきり排出できない状態と説明されています。

この排便困難や残便感があり、日常生活に何らかの支障が出ているような状態を、ガイドラインは「便秘症」と捉え、医師による検査や治療が必要とされる状態としています。

こんな便秘症状があれば
早めに医療機関を受診

具体的な症状としては、下記の6項目(症状)のうち2項目以上に該当するようなら「便秘症」と診断されるようです。

さらに下記症状のいずれかが6か月以上前から続いていて、直近の3か月間は「便秘症」の基準を満たしている、つまり2つの症状が続いているようなら、「慢性便秘症」と診断され、検査や治療が必要となるようです。

  1. 便が出にくく、強くいきむ必要がある
  2. 硬くてコロコロしたウサギの糞のような状態の便が出る
  3. 残便感(すっきり出きっていない感じ)がある
  4. 肛門がふさがっているような感じや排便困難がある
  5. 用手的な排便介助*が必要である
  6. 下剤などを使用しない自然排便の回数が、週に3回未満である

排便する際はいつも、というわけではないものの、排便時に4回に1回以上の頻度で上記の「1」から「5」のいずれかの症状があり、日常生活に支障をきたしているという方は、「たかが便秘で受診するのも……」などと躊躇することなく、まずは一度、最寄りの消化器内科、あるいは内科を受診することをおすすめします。

*用手的な排便介助とは、下剤などを使っても便が出にくく、浣腸をしてもスッキリ排便できないような状態が続く場合に、「摘便(てきべん)」といって、直腸内に滞っている便を指先で取り出したり、「会陰部(えいんぶ)」と呼ばれる肛門と外陰部周辺を圧迫して便の排出を促すことをいう。

すぐに受診が必要な
便秘の危険信号

便秘が長引いている方のなかには、高齢者に多い大腸がんや炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)*などにより、大腸内を便がスムーズに通過できないために便秘になっているといったこともありえます。

*潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜(最も内側の層)に無数のびらんや潰瘍ができる病気。一方のクローン病は、大腸だけでなく口腔から肛門までのあらゆる消化管のあちこちに潰瘍ができる。いずれも難治性疾患(難病)に指定されている。

あるいは、甲状腺機能低下症のような全身性の疾患により、腸の内容物を移動させる蠕動運動(ぜんどううんどう)が弱くなっているために便秘が続くといったこともありえます。

このような病気があって便秘が長引いているという例も珍しくないのです。

ところが、「私は便秘もちだから」などと、なかばあきらめ気分で市販の下剤や民間療法に頼って便を出すことだけにエネルギーを注いでいると、便秘のもともとの原因である病気を悪化させ、腸閉塞(ちょうへいそく)や腸管穿孔(腸に穴があくこと)といった深刻な事態を招きかねません。

放置していると危険な便秘のサイン

便秘に伴い以下の症状が出た場合は、危険なサインと受け止め、直ちに消化器内科等を受診することをおすすめします。

  • これまで便通は正常だったのに、急に便秘になった
  • 強い腹痛や吐き気、発熱を伴う
  • 便に血液が混ざっている

便秘で受診する際に
医師に忘れずに伝えたいこと

これは便秘に限ったことではないのですが、何らかの体調の異変を訴えて訪れた患者に医師が最初に行うのは、問診(もんしん)や身体所見(しんたいしょけん)のチェックです。

診断に役立つ手がかりを得るために、現在自覚している症状やその症状の経過、既往歴(きおうれき)と呼ばれるこれまで経験した病気などについて話を聞いたり、全身をくまなく診察して情報を集め、患者が訴えている症状がどの程度危険なものなのかを見極めるわけです。

そのうえで、医師が必要と判断すれば、血液検査やエックス線造影などの画像診断を行ってより詳しく調べることになります。

いずれも、医師がスムーズに的確な診断を行ううえで欠かせないものです。

このうち問診で患者から医師に伝えるべき情報として、以下の点については事前にきちんと整理し、そのメモを受診時に持参するようにすれば、より早く適正な診断・治療が受けられるはずです。

  • 便秘が始まったのはいつごろか
  • 排便の頻度
  • 便の状態(量や色、硬さ、かたちなど)
  • 便秘以外に、腹痛や発熱はないか
  • 肛門に違和感や異常を感じたことはないか(かゆみや痛み、出血、脱出など)
  • 残便感(便が残っている感じ)の有無
  • 温水洗浄便座を使っているか
  • 市販の下剤や浣腸を使っているか(使っている場合はその名前)
  • 治療中の病気、服薬中の薬*
  • 手術や放射線治療を受けたことはないか
  • 利用している健康食品(サプリメントを含む)
  • その他、思い当たること

(引用元:日本臨床内科医会「わかりやすい病気の話シリーズ49「便秘」*²)

*便秘の原因となる薬としては、①がんの痛みの緩和に使われるモルヒネなど麻薬系の痛み止め、②咳止めの薬、③喘息に使われる抗コリン薬(気管支拡張薬など)、④アレルギーの治療に使われる抗ヒスタミン薬、⑤抗精神病薬、⑥抗うつ薬、⓻抗パーキンソン病薬、⓼抗不整脈薬、⑨降圧薬(カルシウム拮抗薬)、⑩制酸薬(胃腸薬の一種)、⑪鉄剤などがある。

なお、長引く頑固な便秘対策に市販の酸化マグネシウム便秘薬を服用している方はこちらを参照してみてください。

日本人の8人に1人は悩まされているという便秘。特に長引く頑固な便秘に酸化マグネシウム製剤の便秘薬を愛用している方も多いと聞く。が、その副作用である高マグネシウム血症について、注意喚起のリーフレットが、この8月、新たに公表された。そのポイントを紹介する。

参考資料*¹:日本消化器学会関連研究会慢性便秘の診断治療研究会「慢性便秘症診療ガイドライン 2017」

引用・参考資料*²:日本臨床内科医会「わかりやすい病気のはなしシリーズ49 便秘」