がんの痛みが「しびれる」「ビリビリする」とき




緩和ケア

がんの痛みの90%以上は
取り除くことができるはず

がんには程度の差はあるものの多くの場合、何がしかの痛みがつきものです。
しかし幸いなことに、WHO(世界保健機関)は1986年に、「WHO方式がん疼痛治療法」と呼ばれるがんの痛みを和らげる治療法を広く世界に向け提唱しています。

この治療法をベースに、モルヒネやオキシコドン、フェンタニルといったオピオイド鎮痛薬(通称、オピオイド)と呼ばれる医療用麻薬を適切かつ十分量使うことにより、がんの痛みの90%以上は取り除くことができるようになっているのです。

ところがこのオピオイドについては、このところ、アメリカにおけるオピオイドの乱用や依存の問題が繰り返し報道されています。

こうした報道を受け、現在日本でオピオイドを用いたがんの痛みの緩和ケアを受けている患者やその家族のなかに、オピオイドの使用を躊躇する声が少なからずあると聞きます。

しかし、日本においては、医師から処方を受けた本人が、処方されたとおりに正しく使用してさえいれば、報道されているような問題が起こることはまずないはずです。

むしろオピオイドを使わずにがんの痛みを我慢していると、つらいだけでなくがんの治療そのものにもマイナスの影響を与えることになりかねません。
くれぐれも、薬に関する規制の違う国で起きていることに惑わされないようにしたいものです。

国立がん研究センターが昨年末公表した調査結果は驚くものでした。がん患者の約4割が、痛みや苦痛をかかえながら最期の日々を過ごしていたというのです。背景には、がん緩和ケア態勢の不備があるものの、患者サイドの大きな誤解も課題としてあるようです。

がんによる神経障害性疼痛には
オピオイドがもともと効かない

さて、話を元に戻しましょう。
モルヒネなどのオピオイドを使うWHO方式がん疼痛治療法により、がんの痛みの90%以上は取り除くことができると書きました。

逆に言えば、がんによって起こる痛みのうち残りの10%弱は、オピオイドがもともと効きにくい、難治性の痛みだということです。
その代表例の一つに、「神経障害性疼痛(しんけいしょうがいせいとうつう)」と呼ばれる痛みがあります。

がんそのものによって起こる痛みには大きく2種類あります。
1つは、皮膚や筋肉、骨、あるいは胃や肝臓などの臓器の組織そのものが、がん細胞によって直接傷つけられることにより起こる痛みです。
専門的には「侵害受容性疼痛」と呼ばれます。

そしてもう1つが、神経障害性疼痛です。
このタイプの痛みは、がんが大きくなって末梢神経や脊髄神経といった痛みの伝達経路を直接刺激したり圧迫したりすることによって起こります。

神経障害性疼痛は
「しびれる」「ビリビリ」が特徴的

末梢神経とは、脳や脊髄などの中枢神経から分岐して全身の器官や組織に分布している神経です。
この神経ががんの刺激を受けると、その刺激は脳や脊髄に伝えられ、その刺激を受けた神経が走行している部分、たとえば首から肩、腕にかけて、あるいは腰から足にかけて「ビリビリ電気が走るような痛み」「しびれたような痛み」「ジンジンするような痛み」、あるいは「槍で突かれたような痛み」を感じることになります。

こうしたがんによる神経障害性疼痛は、以下のような場合に起こりやすいと言われています。
⑴ 頭頸部がんが進行して周囲の神経組織を刺激する
⑵ 肺がんや乳がんなどが胸壁に広がっていき肋骨神経を刺激する
⑶ 膵臓がんなど腹腔内臓器のがんが広がって内臓神経を刺激する

このような神経障害性疼痛は、オピオイドだけで痛みを和らげることは難しいと先に書きました。しかし、そこに鎮痛補助薬を併用、つまり一緒に使うと、痛みを和らげたり、場合によっては痛みを取り除くこともできることがわかっています。

「ビリビリ」と「しびれる」では
使われる鎮痛補助薬が違う

神経障害性疼痛の緩和を期待できる鎮痛補助薬は単一ではありません。
痛みが出ている場所や痛みの強さ、とりわけ痛みの性質、つまり「どのように痛いのか」により、処方される薬は違ってきます。

一般に、「ビリビリと電気が走るようだ」とか「槍や太い針のようなもので突かれたように痛い」と表現されるような痛みには、てんかんやけいれんの治療に使用されている「抗けいれん薬」が鎮痛補助薬として使われることが多いようです。

また、「しびれるような」とか「ジンジンするような」といったタイプの痛みには、うつ病の治療薬として知られる「抗うつ薬」を併用すると、症状の緩和が期待できるようです。

痛みの性質を伝えることが
苦痛から解放される第一歩

このように、がんの痛みの緩和治療、とりわけ神経障害性疼痛の緩和を図るうえで、実際に痛みを自覚している患者自身からの情報が極めて重要です。

いつから痛いのか、どこが痛いのか、痛みはどのくらい続いているのか、どのような動作をすると痛みが強まるのか、といった情報に加え、どんな性質の痛みなのかを医師、あるいは看護師に正確に伝えるようにしたいものです。

実際に痛みで苦しんでいるときに、その痛みの性質を正確に伝えることは簡単なことではありません。しかし、仮につたない表現であっても、医師や看護師は経験から、重要な情報を読み取り、的確に対処してくれるはずです。

特に「ビリビリ「」とか「しびれる」「ジンジン」といった痛みを自覚したら、すぐにその旨を医師なり看護師なりに訴えるようにしてください。
この訴えが、がんによる神経障害性疼痛から解放される第一歩となるはずです。