肺炎球菌感染症の予防にワクチン接種を忘れずに

ワクチン接種

高齢者の肺炎原因菌で
最も多い肺炎球菌にワクチンを

新型コロナウイルス感染症はひとまず落ち着いているものの、高齢者にとっては肺炎等の感染症は発症リスクが高く、依然として油断できない状況にあります。

多々ある感染症のなかで肺炎は、悪性腫瘍(がん)や心疾患などに次いで日本人の死亡原因の第5位で、肺炎による死亡者の96%以上が65歳以上の高齢者であるとされています。

高齢者の肺炎の原因菌で最も多いのは肺炎球菌です。この肺炎球菌による肺炎は重篤化しやすいのが特徴ですが、幸い、肺炎球菌による肺炎の予防にはワクチンがあります。

肺炎球菌ワクチンの予防接種は、2014(平成26年)10月から65歳以上の高齢者は定期接種(接種費用の一部助成あり)となっていましたが、その後、2020年5月からは接種対象の年齢制限がなくなり、全年齢の国民が接種を受けられるようになっています。

加えて、高齢者や基礎疾患があって肺炎球菌性肺炎に罹患するリスクが高い人は、より強い免疫効果が期待できるタイプの肺炎球菌ワクチンを、本人が希望すれば任意接種(自己負担)で受けることもできるようになっています。

ということで、今回は肺炎球菌性肺炎の予防について、日々の生活で気をつけたいこととワクチン接種を中心にまとめておきたいと思います。

日頃から健康的な生活を心がけ
免疫力を高めて肺炎予防を

肺炎球菌はごく身近な病原菌で、普段でも鼻やノド、口などに多少は存在している、いわゆる常在菌(じょうざいきん)の一種です。

空気と一緒に肺炎球菌が吸い込まれて肺に炎症が起きると、寒気がして発熱し、「なんとなく体の調子が悪くてだるい」「食欲がない」といった状態から始まり、やがて咳(せき)や痰(たん)、息苦しさ、胸の痛み、といった肺炎症状が現れるようになります。

高齢者の場合は、食事中に咳き込むなどして食べたものや飲み物が誤って気道に入ってしまう、いわゆる誤嚥(ごえん)によって肺炎球菌が気管内から肺へと入り込み、誤嚥性肺炎を起こすこともあります。

しかし、日頃から規則正しい健康的な生活を心がけて体の抵抗力(免疫力)を強く保っていれば、肺炎球菌が多少入り込んでも、肺がそれを受けつけないために、肺炎の発症を防ぐことができます。

なお、誤嚥性肺炎の予防法をこちらで紹介しています。是非読んでみてください。

食事中にむせたり、水を飲むと咳き込んだりの積み重ねによって起こる誤嚥性肺炎は、高齢者には死に直結する大問題。その予防に、歯科医師が開発した舌の筋力アップのためのトレーニングボトルを紹介する。形状も機能も哺乳ビンによく似たボトルで手軽に訓練できる。

肺炎予防に十分な食事と運動、睡眠に口腔ケアも

肺炎球菌性肺炎に限ったことではないのですが、高齢者が肺炎を予防するには、以下にあげるごく基本的なことを日々続けることが大切です。

  1. 栄養バランスのよい十分な食事と適度な運動、十分な睡眠により基礎体力をつけ、抵抗力(免疫力)を高めておく
  2. 口腔ケア(うがい・歯みがき・舌みがき)を励行して口腔内を常に清潔に保つ
  3. 基礎疾患(持病)があればきちんと治療を受けてコントロールしておく
  4. 喫煙習慣かあれば禁煙する
  5. 食事や水分を誤嚥しない工夫をする
  6. 外出時のマスク着用、帰宅後の手洗い、うがいを励行する
  7. 予防接種(肺炎球菌ワクチン)を受けておく

このうち「1」の栄養バランスのよい食事には、こちらの「まごたち食」がおすすめです。

「ピンピンコロリ」を望んでいても、歳を重ねるにつれて食が細くなり低栄養に陥りがち。低栄養が続けば活動は鈍くなり、「閉じこもり」や「寝たきり」になりがちです。その予防策として、おかずの食べ方の指針となる「まごたち食」を紹介します。

また「2」にある口腔ケアで忘れがちなのが「舌みがき」です。

歯をブラッシングして歯垢(しこう)と呼ばれる、歯の表面に付着しているネバネバした細菌の塊(かたまり)を完全に取り除きます。

さらに、舌の表面にある舌苔(ぜったい)と呼ばれる口腔内の細菌や食べかすなどの汚れを、少し柔らか目の歯ブラシで取り除くことを1日1回、就寝前に行うことを習慣にするといいでしょう。

「4」の禁煙については、一定の条件を満たせば、加熱式タバコも健康保険で禁煙治療を受けられることをこちらで紹介しています。

今回の診療報酬改定により、2020年4月から医療保険が使える禁煙治療の対象に、加熱式タバコが加えられた。また、12週間に5回行われる治療の初回と最終回は従来通り対面診療だが、2~4回はスマホなどによるオンライン診療も可能となった。その詳細をまとめた。

65歳以上の高齢者を対象にした
肺炎球菌ワクチンの定期接種

重症化しがちな高齢者の肺炎予防にすすめられるのが、「7」の予防接種です。

肺炎の予防接種としては「肺炎球菌ワクチン」があり、このワクチンには2種類があります。

その一つ「23価ワクチン(商品名:ニューモバックス )」は、93種類の型がある肺炎球菌のうち肺炎を起こしやすい23種類の肺炎球菌に免疫をつけ、肺炎の発症や重症化予防を期待できるワクチンです。

65歳以上になると、5年ごとに定期接種(自治体の助成により接種費用が免除されるケースもある)として、このワクチン接種を受けることができます。

また、60~64歳でも一定の基礎疾患(心臓、腎臓。呼吸機能の低下、またはヒト免疫不全ウイルスによる免役機能低下)があり、医師が必要と判断すれば、このワクチンの定期接種を受けることができます。

長期間の予防効果が期待できるワクチンの任意接種も

もう一つの肺炎球菌ワクチンは、長期間予防効果が期待できる13価ワクチン(商品名:プレベナー13)です。

このワクチンは、高齢者や罹患リスクが高い人で本人が希望し、医師が必要と判断すれば任意接種(接種費用は原則自己負担だが、一部の自治体では費用の一部助成の対象になっている)で受けることができます。

この場合、先に23価のワクチンを定期接種していれば、接種から1年以上空けて、13価ワクチン接種を、逆の場合、つまり先に13価ワクチンを任意接種した場合は半年以上空けて、23価ワクチンを接種するのが理想とされています。

なお、肺炎球菌ワクチン定期接種の対象者は毎年度異なるうえに、予診票の記載など、接種前の手続きが必須とされています。

詳しくは、お住まいの自治体(市区町村)のホームページにアクセスし、「予防接種」のコーナーで確認してください。

インフルエンザワクチンの接種も

なお、特に免疫力が低下している高齢者は、インフルエンザの後に肺炎球菌による肺炎になりやすいことがわかっています。

そこで、5年毎の肺炎球菌ワクチンに加え、毎年の接種が推奨されているインフルエンザワクチンの接種を受けておくと、インフルエンザと肺炎球菌肺炎の両方の予防効果が高まるとことが確認されています。

なお、インフルエンザワクチン接種の費用はお住まいの自治体や年度により異なりますので、自治体のホームページ「予防接種」のコーナーで確認してください。

肺炎球菌ワクチン接種後の
気になる副反応

予防接種で気になるのは、接種後の安全性、つまり副反応です。

肺炎球菌ワクチンの接種後に見られる副反応としては、注射部位の症状(痛み、赤み、腫れ、硬いしこり)、筋肉痛、だるさ、発熱、頭痛などがあります。

これらの症状は初回接種より再接種した際に発生頻度が高く、症状の程度も強く出る可能性があるものの、アナフィラキシーショックなどの重篤な副反応はみられず、安全性への懸念はないとされています*¹。

ワクチン接種後の健康被害救済制度

なお、定期予防接種による副反応のために医療機関での治療が必要になったり、その後の生活に支障が生じるほどの健康被害が発生した場合は、法律に定められた救済制度もあります。

この救済制度の詳細は厚生労働省によりリーフレット*²にまとめられていますので、チェックしてみてください。

参考資料*¹:日本臨床内科医会「肺炎球菌ワクチンQ&A」

参考資料*²:厚生労働省「予防接種後健康被害救済制度について」