増えている高齢者の乳がんと術後の外見ケア

ライフスタイル

高齢者の乳がんも
手術が最善の治療法

女性の9人に1人が生涯に一度は経験すると言われているのが乳がんです。

乳がんは、比較的若い女性に多いがんとして知られています。

ところが最近は、閉経後に乳がんを発症する人も珍しくなく、高齢者人口が増加するなか、患者数のピークは60代後半で、70代、80代の高齢になって乳がんになる人も年々増えているようです。

その場合、「高齢では手術のダメージによる全身への影響を考え、もう手術はしないのではないか……」と考えがちです。

しかし、日本乳癌学会の治療に関するガイドライン*¹では、年齢で治療方法が変わることはなく、「手術に耐え得る健康状態であれば、高齢者の乳がんに対しても手術療法を行うことが標準治療*である」としています。

*標準治療とは、現時点で利用できる治療法のなかで、最も効果が期待でき、安全性も確認されていて、最善の治療法であることが多くの臨床試験に基づく科学的エビデンス(根拠)によって示されている治療法をいう。

手術で失った乳房の代わりに人工乳房を

標準治療として行われる手術療法のなかには、がんに侵された乳房をすべて摘出、あるいは部分的に切除する方法があります。

この手術後は、乳房再建といって、新たに乳房をつくることになりますが、その一つの選択肢として、肌の上から人工乳房を装着する方法があります。

今回は、がん治療による外見(見た目)の変化をカバーする外見ケアの視点から、この人工乳房についてホットなニュースをお伝えしておきたいと思います。

医療用ウイッグの会社が
人工乳房を開発し販売開始

昨年(2021年)11月1日、抗がん剤の副作用による脱毛に悩む女性のために医療用ウイッグ(かつら)の製造・販売・メンテナンス事業を展開している「グローウイング」(大阪)が、新たなサポートを始めたことをプレスリリースしています*²。

乳がんの手術などで失った乳房の代わりに肌の上に装着する人工乳房を自社で開発し、その製造・販売事業をスタートしたというのです。

乳がんの手術で乳房を全摘出あるいは部分切除した女性の乳房喪失感はきわめて深刻です。

それは外見、つまり見た目の変化による悩みだけではありません。

たとえば「家族や友人と一緒に温泉に行きにくくなった」とか、「左右の胸の重さが違うため、体のバランスが崩れて歩きにくくなった」といった現実的な悩みもあると聞きます。

そこで、自分の体の組織(背中の筋肉やお腹の脂肪)を移植したり、胸部を切開して人工乳房を埋め込んだりしてふくらみを取り戻す乳房再建術が行われることになります。

しかし、病状や術後の経過によっては再建術を断念せざるを得ないこともあります。

そこでもう一つの選択肢として用意されているのが、手術不要で体へのダメージが少ない、肌に密着させるタイプの人工乳房なのです。

着脱可能で運動も入浴・温泉もOKの人工乳房

グローウィング社が開発した着脱式の人工乳房は、オーダーメイドで、乳がんの手術前にオーダーして胸部を3Dスキャンで測定しておき、それをもとに自社工房で製作するものです。

素材には、独自に開発した安全でリアルな質感のシリコン素材を使い、使用する方の肌色に合わせて着色し、血管やホクロ、また乳頭と乳輪も確実に再現するため、見た目はごく自然で本物そっくりの乳房に仕上がるとのこと。

接着剤なしでも肌に密着し、その人の動きにフィットするように作られていて、つけっぱなしで運動をしても、また入浴はもちろん温泉やプールなど、水中でも外れないそうです。

人工乳房の購入費用を
助成する自治体が増えている

手術により乳房を再建する方法は、人工乳房を体内に埋め込む場合も含め医療行為です。

したがって、健康保険が適用となりますから、かかった医療費の自己負担分(1~3割)のみの支払いですみます。

この自己負担分が高額になっても、「高額療養費制度」を利用して給付を受け取れば、費用負担はかなり抑えられます。

医療機関で検査を受けたり薬局で処方薬を受け取って支払う医療費は、一部の自己負担分だけに抑えられるものの、高額になることも珍しくない。その負担が家計を苦しめないよう「高額療養費制度」が設けられている。この制度の利用方法についてポイントをまとめた。

一方、装着するタイプの人工乳房には健康保険は適用されませんから、費用は全額自己負担となり、オーダーメイドで10万円以上は軽くかかります。

患者にとってはかなりの負担になりますが、最近は、装着タイプの人工乳房の購入費用を助成する自治体も続出してきています。

たとえば兵庫県は2021(令和3)年度から、伊丹市や神戸市、姫路市、尼崎市、芦屋市など県内の一部市町とともに、上限5万円を助成する「がん患者アピアランス(外見)サポート事業」をスタートさせています。

同様の助成事業を行っている自治体は全国的にも年々増えていますが、申請手続きに必要な書類や助成金額等は各自治体により異なるため、住民登録をしている市区町村の「健康推進課」などに問い合わせてみるといいでしょう。

人工乳房や医療ウイッグ等「がん患者用補正具」の購入費用助成制度のある自治体のリストはコチラ*³を参照してください。

乳がん治療中の脱毛や肌トラブルにも外見ケアを

なお、がん治療による外見の変化としては、抗がん剤治療による脱毛に加え、肌のくすみやシミ、乾燥といった肌トラブルもがん治療中の女性を悩ませます。

その対応については、こちらの記事で詳しく書いていますので読んでみてください。

がん患者の就労支援に国が力を入れていることもあり、治療と仕事を両立させているがん患者が増えつつある。その際課題になる「がん治療による外見上の変化」にいかに対処するかにつき、友人の女性の体験を例にまとめた。併せて、社会的支援も充実してきた実態も紹介する。

参考資料*¹:日本乳癌学会「乳癌診療ガイドライン ①治療編 2018年版」

参考資料*²:株式会社グローウィング ホームページ

参考資料*³:医療用ウイッグや医療用補正具の購入費 費用助成をしている自治体リスト