食事の妨げにならない「エンシュア」の飲み方

ドリンク

「エンシュア」などで
食事の不足分を補いたい

医師の処方を受けて「エンシュア・リキッド」や「エンシュア・H」のような経腸栄養剤(けいちょうえいようざい)と呼ばれる栄養ドリンク(栄養補助食品)を飲んでいる方のなかには、エンシュアなどを食事代わりにしている方が少なくないようです。

一方で、食事は少量なら食べられるが、それだけでは栄養的に十分ではないので不足分をエンシュアなどで補っている、という方も少なからずいらっしゃいます。

このうち後者の方の場合、食事の前にエンシュアなどを飲んでしまうと、満腹感から食欲が落ちてしまい、肝心の食事を存分には食べられないでしょう。そこで、では逆をやってみようと、食事をした後にエンシュアなどを飲もうとしても、やはり食事により食欲はある程度満たされますから、飲める量には限りがあります。

食事とエンシュアなどとの両方で十分な栄養をバランスよくとるには、エンシュアなどの経腸栄養剤はどのタイミングで、どのような飲み方をしたらいいのだろうか――。

そんな悩みをお持ちの方々に、岐阜大学医学部附属病院消化器外科の田中善宏医師ら研究チームが、食事を妨げないエンシュアなどの経腸栄養剤を飲むタイミングとその飲み方を提案しています。今回は、その方法を紹介したいと思います。

「エンシュア」を飲むと
食欲が低下してしまう

エンシュア・リキッドやエンシュア・Hは、先に紹介している「エネーボ」「エレンタール」「ラコール」「イノラス」と同じで、口から飲むことのできる経腸栄養剤です。ですから、これから紹介する食事とエンシュアなどの飲み方、飲むタイミングは、いずれの経腸栄養剤にも同様に応用できることをまずはお伝えしておきます。

ご承知のように、上記の経腸栄養剤は250mlあるいは200ml入りの1缶(あるいは1パック)に、たんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラルといった主要栄養素のすべてがバランスよく配合されています。

しかも1缶飲めば、エンシュア・リキッドなら250kcal、エンシュア・Hなら375kcal、1パック200ml入りのラコールなら200kcalをとることができますから、毎日の栄養補給に利用しない手はないでしょう。

しかし、いずれも栄養分が濃縮されているだけに、かなり甘くドロッとしています。甘いものをとると、誰でも血糖値が上昇します。その上がる度合いには多少の個人差がありますが、血糖値が上がれば、多少のタイムラグの後、食欲はどうしても低下します。

そのため、エンシュアなどを飲んだ後に食事をしてもあまり食べられないのは、ある意味当然と言っていいでしょう。

「エンシュア」等の経腸栄養剤を
飲むタイミング

そこで田中医師らは、食前にエンシュアなどを一気に飲むのではなく、食事とエンシュアなどを飲むのを、同時にスタートすることを提案しています。

その場合の飲み方ですが、エンシュアなどは1回に飲む量(1口)を40ml程度(一般的なサイズのおちょこに約1杯)にとどめ、1缶を食事開始から食事中、そして食後までおおむね2~3時間かけて、「ちょびちょび飲む」のがいいようです。

エンシュア・リキッドやエンシュア・Hなら1缶250mlですから、1缶を6~7回に分けて飲むことになります。1パック200mlのラコールなら、食事開始から、食事中、食後と、5~6回に分けて、お茶を飲む感覚で飲むといいでしょう。

この場合、あまり時間をかけすぎると次の食事に影響してしまいます。空腹感がないままに次の食事の時間を迎えることにならないように、1缶(1パック)を飲み始めたら2~3時間で飲み終えて、次の食事まで最短でも1時間は空くようにします。

1日2缶なら「朝食と同時」と「夕食と同時」に

このような方法で、たとえば食事に併せてエンシュアなどを1日に2缶(2パック)飲むという方なら、まず1缶は「朝食と同時」に飲み始め、数時間おいてから次の1缶を「夕食と同時」に飲み始めるのがいいようです。

このスケジュールなら、食事の妨げとならずにエンシュアなどを飲むことができ、食事とエンシュアなどの両方で栄養補給ができる、というわけです。

少量で高たんぱく・高カロリー
「イノラス」の活用も検討を

先に紹介した「エンシュア・リキッド」などの経腸栄養剤は、その多くが1缶あるいは1パック200~250mlです。食事が少しずつとれるようになってくると、40mlずつ数回に分けて飲むにしても、1食ごとに200~250mlを飲み切るのは少々つらい方もいるでしょう。

そのような方には、2019年6月に売り出された「イノラス」に切り替える方法もありますから、主治医に相談してみてはいかがでしょうか。

イノラスは、低栄養によるフレイルやサルコペニア*が問題となりがちな高齢者向けに開発された新しいタイプの経口摂取可能な経腸栄養剤です。

*サルコペニアとは、加齢や病気などにより全身の筋肉量が減少して筋力が低下し、「握力が低下して物をよく落とす」「歩く速度が遅くなる」「歩行に杖などが必要になる」状態で、フレイルの前段階とされる。

イノラスは、1ml当たりのカロリー(熱量)が1.6kcalと高いうえに、たんぱく質も1パック(イノラスは缶入りではなくアルミパウチ入りです)187.5mlに12gと、飲む量が少なくてもたんぱく質が十分とれるように配慮されています。

ビタミンなどについても、日本人の食事摂取基準に規定された1日必要量の約3分の1を1パックで補給できるように調整されています。

少ない量でしっかり栄養を補える点は、食事と経腸栄養剤で栄養を確保している方には、大きなメリットではないでしょうか。イノラスの詳細は、こちらを読んでみてください。

胃瘻や胃チューブに頼らずに最後まで自分の口で食べる選択をする患者に人気の「エンシュア・リキッド」。だが、歳を重ねるにつれ小食となり、1缶を飲み切れなくなることも珍しくない。そんな人のためにと、少量でも高たんぱく・高カロリーを補給できるイノラスを紹介する。

嚥下障害がある方はとろみをつけて

なお、食事を飲み込む際にむせるとか咳き込むなど嚥下障害(えんげしょうがい)のある方は、誤嚥(ごえん)、つまり食べ物が食道ではなく気管に入るリスクを避けるために、とろみをつけることをおすすめします。

嚥下障害があるとエンシュアなどの経腸栄養剤は流動性が高く、誤嚥しやすい。そのリスクを避けようと「とろみ調整用食品」でとろみをつけようとしても、うまく混ざらないという経験はないだろうか。その解決策として、二度混ぜ法を紹介。併せてとろみ調整用食品の使用法も。

参考資料*¹:田中善宏、山口和也、吉田和弘:がん患者の栄養管理―コンプライアンス向上のための方策、臨床腫瘍プラクティス12(1),100-104