エンシュアに「エネーボ」の併用はどうかしら

飲み物

エンシュアと同じ栄養ドリンク
「エネーボ」を紹介されて

喉を詰まらせて救急搬送された経験を持つ仕事上の大先輩が、以来ずっと、エンシュア・リキッドを食事代わりにしているという話を、先に紹介しました。

この先同じことを繰り返していると、いずれ誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を起こして命取りにもなりかねないから、口から食べたり飲んだりするのをやめて、人工的に栄養を補給する方法に切り替えたらどうですか――。

医師からそういった提案を受けたものの、彼女はその提案を拒み、「できるだけ自然にゆだねたい」と、誤嚥のリスクを避けながら口から食べ続ける方法を選択して、すでに7年目に入ろうとしています。

エンシュア・リキッドを食事として栄養を確保しているがん患者や高齢者が増えている。必要な栄養素がバランスよく配合されていて、味もバニラ味、コーヒー味など何種類か用意されているのだが、もともとの栄養価を下げずにおいしく飲むには少しの工夫も必要だ。

この間には、エンシュア・リキッドをエンシュア・Hに代えてみたり、ティータイムにムース状のチーズケーキ類を食したり、野菜や果物のスムージー*を飲んだりと、あれこれ工夫して食べる楽しみを味わっているようです。

*スムージーとは、生の野菜や果物を丸ごとミキサーで砕いたもの。ジューサーで作るジュースよりビタミンなどが失われにくく、栄養価が高いと言われている。

そして最近、通院を重ねるうちに懇意になった病院の薬剤師さんから、「エンシュアと同じタイプの栄養ドリンクで、エンシュアには含まれていない栄養素を含むエネーボというものがあるけど、併用してみたらどうかしら」とすすめられたそうです。

「どう思う?」と大先輩に聞かれた以上、詳しく調べたうえでないと返事はできません。

ということで、エネーボについてあれこれ情報を集めてみましたので、以下に紹介してみたいと思います。

エンシュアには含まれないが
エネーボに含まれる微量元素

「エネーボ」とは、「エンシュア・リキッド」や「エンシュア・H」と同じドリンクタイプの経口、つまり直接口から飲むことも、チューブやカテーテルを介して人工的に栄養を補給する経管栄養にも使用できる総合栄養剤(正確には「経腸栄養剤」)のことです。

エネーボには、たんぱく質、脂質、糖質といった主要栄養素に加え、ビタミンやミネラルなどの栄養素もバランスよく、しかも効率的に摂取できるようにつくられています。この点は、エンシュア・リキッドやエンシュア・Hと同じです。

ただ、たんぱく質について言えば、エネーボは1缶(250ml)に13.5g含まれていて、エンシュア・リキッドの8.8グラム、エンシュア・Hの13.2グラムより多くなっています。

また、エネーボには、エンシュアなどの医薬品栄養剤には含まれていない「セレン」や「モリブデン」「クロム」といった微量元素が含まれています。

いずれも必要量は極めて微量ですが、鉄や亜鉛同様、私たちが健康に生きていくうえで欠かせない「必須ミネラル」に含まれます。

抗酸化作用により身体の錆びつきを防ぐセレン

なかでも注目されるのは、強い抗酸化作用をもつセレンです。

ポリフェノール同様、活性酸素などの有害物資により細胞が酸化され、錆びつくのを防ぎ、正常な機能を維持する働きをしており、健康維持には欠かせない微量元素です。

セレンは、普通に食事をしていればカツオなどの魚類や肉類、大豆などから摂取し、必要量を維持することができます。

しかし、エンシュアのような経腸栄養剤だけの食事摂取が長期間続くと、セレンが不足し、心筋や下肢の筋力低下、さらには爪の白色化などが起こることが指摘されているようです。

エネーボには整腸作用をもつ
フラクトオリゴ糖も含まれる

エネーボにはまた、脂質の代謝において重要な働きをすることから、必須栄養素の一つとなっている「カルニチン」、さらにはアミノ酸の一種で、脂質の消化・吸収に深く関与する「タウリン」も含まれています。

このうち後者のタウリンは、肝機能の改善や疲労回復に効くことをアピールした市販の栄養ドリンクの主成分として広く使用されていますから、「名前を聞いたことがある」という方も少なくないと思います。

エネーボについてもう1点注目すべきは、腸の働きを整える作用が期待できる「フラクトオリゴ糖」といった栄養成分が含まれていることです。

フラクトオリゴ糖の「フラクト」とは果糖のこと。このオリゴ糖は、難消化性といって、ヒトの消化酵素では分解されないオリゴ糖で、胃や小腸で分解されることなく、そのまま大腸まで届きます。

大腸に届いたオリゴ糖は、そこで善玉菌のエサとなります。大腸内のビフィズス菌はオリゴ糖をエサにしてどんどん増殖し、悪玉菌を抑え込んで腸内環境を整えてくれます。

この整腸作用により、免疫力が高まるという二次的効果が期待できるというわけです。

オリゴ糖についてはこちらで詳しく書いています。一度読んでみてください。

「糖質オフ」や「糖質カット」の加工食品や炊飯器などが人気だが、一方で同じ糖質なのに「オリゴ糖」には「腸にいい」「健康にいい」として注目を集めている。オリゴ糖とはカットの対象とされる砂糖などの糖質と何が違うのか、オリゴ糖の何が健康に資するのかを調べてみた。

必ずかかりつけ医に相談し
健康上のリスクチェックを

エネーボは、エンシュア・リキッドやエンシュア・H同様に医療用医薬品です。入手には医師の処方せんが必要で、処方箋があれば即、医療保険が適用になります。

エネーボの薬価は2019年12月時点で、0.73円/mlです。1缶は250mlですから、1缶182.5円となり、その健康保険負担分の3割あるいは1割を支払えば手に入れることができます。

ちなみに、エンシュア・リキッド1缶は135円、エンシュア・H1缶は237.5円ですから、3剤のなかでは中間の値段です。

ただし、エネーボ(正式名:エネーボ配合経腸用液)の添付文書情報*を見ると、冒頭に「禁忌」として「次の患者には投与しないこと」とあり、以下が記載されています。

  1. 牛乳タンパクアレルギーを有する患者
  2. イレウス(腸閉塞)のある患者
  3. 腸管の機能が残存していない患者
  4. 高度の肝・腎障害のある患者
  5. 重症糖尿病などの糖代謝異常のある患者

いずれにしても入手には医師の処方箋が必要です。

まずはかかりつけ医にエネーボを使ってみたい旨を相談し、あなたの健康状態から医学的に判断してリスクがないことを確認してから、試用してみるようにしてください。

くれぐれも医師の処方を受けて愛用している方からこっそり分けてもらって飲んでみる、といったことのないようにお願いします。

食事とエネーボを飲むタイミングと誤嚥防止法

なお、エネーボを食事に併用する場合の食事とエネーボを飲むタイミングや飲み方については、こちらの記事で、岐阜大学の田中善宏医師らが提案している方法を紹介しています。

この方法の「エンシュア」を「エネーボ」に置き換えて飲んでみてください。
→ 食事の妨げにならない「エンシュア」の飲み方

また、食事を飲み込む際にむせたり咳き込んだりして誤嚥(ごえん)する危険のある方は、エネーボにとろみをつけて飲むようにすれば安心です。

エネーボ等の経腸栄養剤にとろみ調整用食品を用いてとろみをつける方法は、こちらを参照してください。

嚥下障害があるとエンシュアなどの経腸栄養剤は流動性が高く、誤嚥しやすい。そのリスクを避けようと「とろみ調整用食品」でとろみをつけようとしても、うまく混ざらないという経験はないだろうか。その解決策として、二度混ぜ法を紹介。併せてとろみ調整用食品の使用法も。

参考文献*:アボット ジャパン「エネーボ配合経腸用液 添付文書」