低栄養の予防・改善に活用したいパンフレット

食事

フレイル予防の基本
「おいしく食べて低栄養予防!」

歳を重ねるにつれ食が細くなるのはある程度やむをえないことでしょう。

そこに胃腸機能の低下や咀嚼(そしゃく)機能の低下、嚥下(えんげ)のトラブル(飲み込みの悪さ)などが重なり、体重が減少したり低栄養、いわゆる栄養失調の状態に陥ったりすると、「フレイル(flail)」と呼ばれる状態につながりやすいことがわかっています。

フレイルとは、「加齢により心身が老い、衰えた状態」のこと。従来は「歳のせい」「もう歳だから」などと見過ごされがちだった状態を言います。

筋力の低下などで足腰が弱って歩くのも一苦労となり、家に閉じこもりがちになって気分も落ち込み、抑うつ的になっている状態と言ったらわかりやすいでしょうか。

この状態は、日常生活に介護などのサポートが必要になる「要介護状態」の一歩手前です。

しかし、すでにフレイルの状態にあっても初期段階であれば、多くの場合、心身ともに改善できる余地が十分残されています。

その対策の要となるのが、栄養状態を改善して低栄養を予防することです。

そこで、東京都健康長寿医療センター研究所の研究グループは、高齢者が自分の栄養状態を把握して低栄養の状態にあることを自分のこととして理解し、改善につなげられるようにとの考えから、パンフレットを作成しています。

今回はこのパンフレット、「おいしく食べて低栄養予防!」を紹介したいと思います。

低栄養リスクを
自分のこととして理解する

パンフレットを作成するに際し同研究グループは、会食や茶話会を伴う「通いの場」(地域で暮らす高齢者の集いの場)の実態と参加者の栄養状態について調査を行っています。

その結果、「通いの場」での会食などに保健師や管理栄養士などの専門職がかかわっているときは、参加者個々の栄養状態や摂食機能に応じた食事の提供や食事中の咳き込み、むせなどへの配慮がなされていることが明らかになりました。

しかしながら、こうした配慮のできる専門職がかかわっている「通いの場」は、全国に10万カ所以上はあるうちの約半数にとどまっていることもわかりました。

同時に、専門職による評価結果などから客観的には明らかに摂食機能が低下して低栄養状態にあるにもかかわらず、本人にその認識がない、つまり自分のこととして理解できていないケースが少なからずあることも確認されたそうです。

低栄養リスク把握のための
チェックリスト

これらの結果を踏まえて作成された「おいしく食べて低栄養予防!」というパンフレットでは、まず低栄養について解説し、以下の2点をアピールしています。

  • 低栄養は他人事ではなく身近な問題です
  • 早いうちからの「気づき」が大切です

そのうえで、高齢者自身が自分の栄養状態や口腔機能の状態を把握できるようにと、以下の4項目を基本とするチェックリストを掲載しています。

  1. 1日3食きちんと食べていますか
  2. 6カ月間で2~3㎏の体重減少がありましたか
  3. 半年前に比べて固いもの(さきいか、たくあんなど)が食べにくくなりましたか
  4. お茶や汁物等でむせることはありますか

それぞれの項目に「はい」「いいえ」でチェックしていくのですが、質問の「1」が「いいえ」、あるいは残りの3問に「はい」が1つでもあれば、その評価は、「低栄養のリスクが高まります」となります。

低栄養状態は
口腔機能の低下から

上記のチェックリストで、たとえば栄養状態に関するチェック項目である「1」に「いいえ」、「2」に「はい」とチェックをつけた方は、さらに体格指数(BMI)やバランスのよい食事ができているかどうかを確認して、どのようなリスクがあるのか、何に気をつければいいのかがわかるようになっています。

*バランスのよい食事の摂り方としては、「まごたち食」と呼ばれる方法がわかりやすく、簡単でおすすめです。
⇒ 「ピンピンコロリ」の秘訣「まごたち食」とは?

また、口腔機能の状態については、「3」の「半年前に比べてさきいかやたくあんなど固いものが食べにくくなりましたか」に「はい」と回答した方は、咀嚼、つまり噛む機能が低下している可能性があるとしています。

「4」の「むせることがありますか」に「はい」とした方は、嚥下機能、つまり咀嚼した食べ物を飲み込む機能が低下している可能性がある、としています。

そのうえで口腔機能が低下しているかどうかを把握するためのチェック項目として、「口の渇きが気になる」「義歯を使用している」「1年前と比べて外出の頻度が少なくなった」「1日2回以上は歯を磨く」などをチェックして点数化し、その合計点から口腔機能の低下リスクを判断できるようになっています。

口腔機能の低下が疑われたときは歯科医に相談を

チェックしてみて口腔機能の低下が疑われる場合は、かかりつけ、あるいは最寄りの歯科医療機関を受診して相談し、重症化を予防するよう助言しています。

なお、「おいしく食べて低栄養予防 !」パンフレットは、東京都健康長寿医療センター研究所のホームページ、「2020年老人保健健康増進など事業に関する研究報告書」*よりダウンロードして利用することができます。

低栄養の予防・改善に
活用したいもの

ところで、このパンフレットを活用して低栄養のリスクが高いことを自分のこととして自覚したとしても、高齢の夫婦だけだったり、一人暮らしであったりすると、毎日の三度三度の食事を自ら用意して摂ることを負担に感じることもあるでしょう。

そこでつい、インスタント食品のような加工食品など簡単な一品で食事を済ませたり、あるいは一食抜いてしまうなど、つい食生活が乱れがちとなって、低栄養の改善どころかかえって悪化させることにもなりかねません。

このような事態を防ぐために、たとえば大人の栄養補給を目的として開発された「大人用粉ミルク」を活用することをこちらの記事で提案しています。
→ 大人用粉ミルクで低栄養によるフレイル予防

あるいは、1食に必要な栄養素がバランスよく含まれる「完全食」で、食事だけでは足りない栄養素を補うのもいいのではないでしょうか。
→ おやつ感覚でたんぱく質が摂れる「完全食」

また、低栄養に陥る予防的措置としての栄養状態の改善に、栄養価値が高いことで古くから人気の、天然のビール酵母を主成分とした「エビオス錠」を活用するのも一法です。
→ 「エビオス錠」で低栄養によるフレイルを防ぐ

さらに嚥下機能の低下などで食事を存分に摂取できない場合は、医師の処方のもとに健康保険で利用できる経口摂取可能な経腸栄養剤で栄養を補う方法もありますから、かかりつけ医に相談してみてはいかがでしょうか。

「エンシュア」というドリンクタイプの総合栄養剤については、胃瘻などの人工栄養に代わる選択肢として考える際に、「どこまで食事に代われるのか」との疑問を持つ方は多い。そこで、実際「エンシュア」を食事代わりにしている方の話や体験をまとめてみた。

参考資料*¹:東京都健康長寿医療センター研究所「おいしく食べて低栄養予防!」