牡蠣の生食用と加熱用の違いは鮮度ではない

オイスター

牡蠣が獲れた海域の違いで
生食用と加熱用に分けられる

牡蠣(カキ)の美味しいシーズンです。

食用牡蠣には、生食用と加熱調理用とがあるのですが、その違いをご存知でしょうか。

たぶん、「鮮度の違いでしょ」と思っている方が多いのですが、答えは「NO」です。

「産地、つまり捕獲された海域が違う」というのが正解です。

ただ、牡蠣が育ってきた海域の違いで「生食用」と「加熱用」に分けられている、ということはわかっているものの、「では、どの海域で獲れた牡蠣だったら安心して生で食べられるのか」となると、即答できない方が多いのではないかと思います。

なにしろ牡蠣には、ノロウイルスによる感染性胃腸炎のような食中毒のリスクがあります。

このリスクを避けるためには、スーパーなどで購入する際には、パッケージに書いてある「生食用」か「加熱用」かを見分ける、あるいはレストランなどで食す際には、調理人を信じるしかない、というだけでは、なんとも心もとない――。

ということで、そのへんのことをはっきりさせたいと思い、改めて調べてみました。

国内の食用牡蠣は大半が
養殖された「マガキ」

農林水産省によれば、日本近海には22種類ほどの牡蠣が生息しているのだそうです。

ところが、日本で食用として流通しているのは、ほとんどが養殖された「真牡蠣(マガキ)」と呼ばれる牡蠣とのこと。

ほとんどが養殖とは、少々意外でした。

国内における食用牡蠣の生産量は、ご存知のように広島県が断トツの1位で、これに宮城県、岡山県と続くのですが、生食用に限ると宮城県が1位のようです。

養殖だったら海域は関係ないのでは、と考えがちですが、そんなことはありません。

牡蠣の養殖にはいくつか方法があるようですが、最も広く行われているのは、大正時代に開発された「垂下(すいか)式」と呼ばれる方法です。

この方法では、ホタテ貝の貝殻に穴を空けてロープを通し、海中に吊り下げておきます。

すると海中をただよっている生まれたばかりの牡蠣が、その貝殻に付着します。

貝殻に付いたその種牡蠣(たねがき)を、吊るしたロープごと波の静かな干潟(ひがた)にしつらえた棚に移し、そこで1年から2年、長い場合は3年かけて育てるのだそうです。

同じ養殖でも、育てる海域の水質が牡蠣の生育状況に大きく影響しますから、どこの海域でもいいというわけではないことが分かります。

食品衛生法に基づく
生食用牡蠣の衛生基準

ノロウイルスなどによる食中毒を防止するため、「生食用」の牡蠣には、食品衛生法に基づく衛生基準として「成分規格」と「加工基準」および「保存基準」が、通常の魚介類以上に厳しく定められています。

成分規格としては、牡蠣1gに含まれる微生物の基準で、細菌、大腸菌群、腸炎ビブリオ(むき身)について、それぞれについて数や測定方法が定められています。

また、加工基準としては、加工時の衛生管理に関する基準として、原料用牡蠣採取海域の海水100㎖当たりの大腸菌群最確数*が70以下の清浄海域(下水などの生活排水の影響の少ない海域)であること、などとなっています。

*最確数とは、統計学に基づいた手法で食品や飲料水などの試料に含まれる微生物の数を推定し、その結果に基づき確率的に得られた推定値のこと。

保存基準としては10℃以下にて保存すること、また冷凍用の牡蠣の場合は-15℃以下で、清潔で衛生的な合成樹脂、アルミニウム箔、または耐水性加工紙の容器に入れるか包装して保存することが求められています。

これらの規格基準をすべてクリアした牡蠣だけが「生食用」として販売されることになっているのです。

牡蠣の取り扱いを都道府県が監視指導

また、牡蠣を取り扱う生産者や加工業者等が自主的に行う衛生管理については、都道府県が重点的に監視指導を実施しており、その検査結果等は、各都道府県等が毎年実施する監視指導計画に基づき、公表されています。

加えて厚生労働省は、飲食店等における牡蠣の取り扱いについて、食品衛生上の問題が懸念されるような場合は、最寄りの保健所に問い合わせるよう、広く一般に周知を促しています。

食品衛生法の基準をクリアしている生食用牡蠣の採取海域を具体的に知りたい方は、厚生労働省のWebサイトで、都道府県別の一覧表*¹からチェックすることができます。

栄養価の高い牡蠣、特に亜鉛が豊富

なお、牡蠣は「海のミルク」と呼ばれるほど栄養が豊富です。

とりわけミネラルが豊富なのですが、なかでも多く含まれる亜鉛は、新しい細胞が作られる組織や器官には必須の栄養素で、特に皮膚や粘膜の健康、たとえば床ずれの予防や悪化防止に効果が期待できるとされています。

また、抜け毛の悩みのある方や高齢者に多いとされる味覚異常は、亜鉛不足が原因のことが少なくないのですが、その改善策としては牡蠣がおすすめです。

牡蠣は、栄養価の高い冬の味覚として親しまれていますが、最近は天然で大ぶりの「岩牡蠣(イワガキ)」が、夏が旬の「夏牡蠣」として、春から夏にかけて市場に出回るようになっています。
また、最近は、米国(オレゴン州、ワシントン州、コネチカット州)、豪州(タスマニア州、南オーストラリア州)、ニュージーランド島等の承認水域からも生食用牡蠣が冷凍にて輸入されています。

参考資料*¹:厚生労働省「生食用牡蠣の採取海域区分(名称)一覧