続けている胃ろうを中止して自然にゆだねたい




飲み物

誤嚥性肺炎を心配して
胃ろうに切り替えてはみたが…

80歳を過ぎた母親を、訪問看護師の支援を受けながら介護している友人がいます。
食事をするたびに激しくむせて咳き込むことが多くなり、食べたものが誤って気道に入って窒息や誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を招く危険を心配したかかりつけ医のすすめもあり、胃ろうを造設する決心をしたという話を先に紹介しました。

胃ろうを介して三度三度栄養をきちんと補給していけば、体力も気力も回復して、
「娘や孫たちとの時間をもっと楽しむことができるようになるのでは……」
と期待する気持ちからでした。

胃ろうを造設する手術は胃カメラを使って行われました。
本人としては「胃カメラの検査を経験していたので、あまり苦痛もなく終わった」そうです。
その後は、術後3日目から水分を注入し、5日目からは栄養バッグに入った栄養剤の注入を開始したもののトラブルもなく経過し、7日ほどで退院できたそうです。

母親の入院中、友人は連日病院に通い、看護師さんから栄養剤の注入方法や注入中の観察事項、注入前後のチューブの処理などひと通りの指導を受け、退院後は訪問看護師さんに助けてもらいながら、なんとか問題なくやってきたようです。

口から食べられなくなったときの栄養補給に、胃瘻による方法があります。胃瘻を作る手術が必要ですが、その後は安定して栄養補給できるのがメリット。ただ、この方法には、延々と栄養を補給されて生かされ続けることへの懸念もあり、選択に迷うところです。

できれば胃ろうを中止して
自然の成り行きに身をゆだねたい

ところが、胃ろうからの栄養補給に切り替えて半年ほどが過ぎたころから、
「先生のすすめもあって思い切って胃ろうにしてみたけれど、期待したほどには元気になれないわね。孫もあまり近寄ってくれないし……」
などと、母親が愚痴をこぼすようになってきたそうです。

孫が近寄らないことには、それなりの理由があるようで、
「チューブに触ったりしてトラブルがあってはいけないと思い、栄養剤を注入している間は母の部屋に入らないようにきつく言ってあるのですが、そのことが子どもにはストレスのようで、母に近寄らなくなってしまった」のだそうです。

さらに最近になり、栄養剤がスムーズに注入できなくなって大騒ぎになり、慌てて訪問看護師さんに来てもらう、といったことが何回か続いたそうです。

また、10日ほど前からは、胃ろうの周囲の皮膚が赤くなり、かゆみや痛みが出てきたため、かかりつけ医の往診を頼むといったことも重なり、母親はすっかり弱気になってしまったようだと、友人は残念そうに話してくれました。

その挙句、ついに母親から、「できれば胃ろうを中止して、少量ずつでもいいから口から飲んだり食べたりして自然の成り行きに身をゆだねたい」と言われてしまった――。
「そんなことはー、本当に可能でしょうか」と改めて相談を持ちかけられたのです。

日本老年医学会のガイドラインも
胃ろうの途中での中止を容認

友人からのこの疑問については、日本老年医学会が2012年6月に、学会の見解として公表した『高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン――人工的水分・栄養補給の導入を中心として』のなかで、胃ろうなどによる人工的な栄養補給を開始したあとであっても、途中で中止することも可能であると明記しています。

したがって、途中で中止する選択肢もあるのですが、実際に中止する際には、以下の手続きを踏むことをガイドラインは求めています。

  1. 患者本人や家族と医療者サイドとが「中止することが本人にとって最善なのか」を十分な時間をかけて話し合い、お互いが納得できる合意形成をすること
  2. その話し合いの経緯と合意し合った内容をきちんと記録にとどめておくこと

この合意に至るまでの話し合いにおいては、本人や家族がいったん始めた胃ろうからの栄養補給を途中で取りやめるようなことがあっても問題ないということを、医療者サイドから言葉や態度できちんと伝えるように促しています。

とかく本人や家族は、胃ろうを開始したときの意思決定に縛られて、「やはりこのまま継続します」などと言って、つい中止するか否か迷ってしまうものです。
こうした迷いを助長させるような言動により、本人の意に反して中止を断念させてしまうようなことがないよう配慮すべきである、とガイドラインは注意を促しています。

胃ろうを中止した後は
自分の口から食べる喜びを

加えてガイドラインは、本人が胃ろうによる栄養補給法を中止して「自然の成り行きにゆだねる」選択をした場合の話として、少量の水分や食物を無理のない範囲で口から摂れるように工夫することで、食べる喜びや満足感につなぐことができると、アドバイスしています。

ただしそれには、
⑴ 嚥下(えんげ)、つまり飲み込むこと自体に何ら問題がないこと
⑵ 胃腸など消化器系の働きにも経口摂取を妨げるような医学的理由がないこと
の2点を満たすことが前提条件となります。

この場合の食物としては、長年にわたり在宅高齢者への訪問診療を続けてきた医師は、口からものを食べられなくなったときに自然にゆだねる選択をした多くの患者を診てきた経験から、ゼリー状、あるいはムース状のものが、飲み込みにも、消化にもいいとのことです。

最近では、Nestle(ネスレ) アイソカル ジェリー など、この条件に合った栄養価の高い食品が各種売り出されていますから、パッケージの成分表をチェックして内容の安全性を確認したうえで、好みの味を選んで活用されたらいいと思います。

医薬品「エンシュア」の活用も

また、医師に相談して「エンシュア・リキッド」という栄養ドリンクを処方してもらい、ゼリー状にして供するのもいいでしょう。保険適用の医薬品ですから、処方箋があれば、比較的安価で手に入れることができます。
詳しくはこちらの記事を読んでみてください。

がん患者や誤嚥性肺炎のリスクにより口から食べることを「やめたほうがいい」と医師から言われる高齢者の間で、「エンシュア・リキッド」という栄養剤が人気と聞く。医薬品だから医師の処方が必要だが、胃瘻などの人工栄養を選択する前に検討してみてはどうか。

ひととおりの話を伝えたところ、友人は「まず母親に話をし、気持ちが固まったところでかかりつけ医にお願いしてみる」と、少し明るさを取り戻した顔で自宅に戻っていきました。
そして数日後、胃ろうをやめることに決まった旨のメールが届いています。