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口から食べられないままに、
自然にゆだねる
食事に関することは、この先自分はどんな医療やケアを受けたいか、受けたくないかを意思表示しておく事前指示書に欠かせない項目です。いわゆる人生会議の話題としても食に関することは最優先事項の1つです。
終末期になり口からものを食べられなくなってくると、すぐに胃瘻(いろう)や鼻チューブを介して、あるいは点滴により人工的に水分や栄養を補給することを提案する医師が、依然として多いように思います。
しかしその一方で、最近では「自然にゆだねるのも一つの方法ですよ」と言ってくれる医師や看護師さんも、まだ少数派ながら出てきているようです。
口からものを食べられなくなったときに、医師が人工的な方法で水分や栄養を補給してはどうかと提案するのは、その補給により回復に向かう見込みがあると判断してのことだろうと推察することができます。
これによって、そう長い時間は期待できないにしても、家族や大切な人と充実した時間をもつことができたり、伝えられずにいた複雑な胸の内を言葉にすることができるのであれば、人工栄養を受けてみることにもそれなりの価値はあるんだろうと思います。
人工栄養を行っても、
回復する見込みがないとき
ところが、これはとても残念な現実なのですが、人工栄養を行っても回復の見込みがなく、もはや家族と言葉を交わす力も残されていないと判断されるような状態になっても、「胃瘻を…」「点滴を…」とすすめる医師が少なからず存在するようです。
また、「口からものが食べられなくなったとき」を想定して、自分の意思を家族に伝え、理解を得る作業を怠っていると、家族が「食事も水もいっさいとれていないのですが……。何かいい方法はないのでしょうか」などと言い出すことになりがちです。
その結果、人工栄養が行われることになれば、回復する見込みがない状態のまま延々と生かされ続けることにもなりかねません。
この場合、加齢と老化が進むにつれて身体機能も全体として衰え始めていますから、人工的に送り込まれる栄養分や水分が身体に過分な負担を強いる結果、そのマイナスの影響が浮腫(むくみ)などの症状となって現れることが避けられません。
こうした事態を防ぐためにも、口から食べたり飲んだりできなくなったときの対処法として、「自然にゆだねる」方法もあることを選択肢の一つとして考え、具体的に検討しておくことをおすすめします。
自然にゆだねるとして、
空腹感や飢餓感で苦しむ心配は?
ところで、「口からものを食べられない状態になっても、自分としては人工栄養は受けたくない。できれば自然にゆだねたい」という選択を考えてはいるものの、「空腹感でつらくなるようなことはないのだろうか」と、一抹の不安を覚える方もいるでしょう。
この点については、長年にわたり在宅高齢者への訪問診療を続けている医師から、こんな説明を受けたことがあります。
「終末期になり、口からものを食べられなくなった状態で静かに生活しているときは、栄養分をあまり必要としませんからね。お腹がすくとか、空腹感でイライラするといったようなことにはならないようですよ」
実際、この医師が看取った患者さんで、人工栄養を拒否された方が何人もいたものの、「飢餓感で苦しんだ方はいらっしゃいませんでしたね」とのこと。
ちなみに、日本老年医学会が2012(平成24)年6月にまとめた『高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン――人工的水分・栄養補給の導入を中心として』*¹でも、人工的な栄養や水分補給が本人の益にならないと判断される場合は、「自然にゆだねる」ことを奨励しています。
そのうえで、「自然にゆだねる」場合は、嚥下(えんげ;飲み込み)が可能であることを前提に、ごく少量の水分や食べ物を口からとれるように工夫することで、食べる喜びや満足感につなぐことができる、としています。
エンシュア・リキッドなどの栄養剤活用も
前掲の訪問医によれば、この場合の食物としてはゼリー状、あるいはムース状のものがおすすめとのこと。最近では、Nestle(ネスレ) アイソカル ジェリー など、高齢者用にゼリーやムースタイプの食品が各種売り出されていますから、パッケージの成分表示をチェックして内容の安全性を確認したうえで、好みの味を選んで活用されたらいいと思います。
あるいは医師に相談して、「エンシュア・リキッド」などの栄養補助食品(正確には「経腸栄養剤」)を処方してもらう方法もあります。医師に処方してもらえれば健康保険が使えますから、費用は自己負担分(1~3割)だけで手に入れることができます。
エンシュア・リキッド等の経腸栄養剤に関心のある方は、「エンシュアで口から食べることをあきらめない」をあわせてご覧ください。
参考資料*¹:日本老年医学会『高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン――人工的水分・栄養補給の導入を中心として』