「自分で口から食べる」を助けてくれるスプーン




自分で食べる

「口からうまく食べられない」
摂食嚥下障害から誤嚥性肺炎へ

「口からうまく食べ物が食べられない」「上手に飲み込むことができない」といった摂食嚥下障害(せっしょくえんげしょうがい)に悩む高齢者が増えています。

食事を口から摂りにくくなり食べる量が減ってくると、低栄養状態から体力も気力も低下して「フレイル」と呼ばれる状態に陥り、日々の生活に介護が必要になってきます。
このフレイルを早めに見極める方法については『健康長寿は「フレイル」の自己チェックから』を参考にしてみてください)。

フレイル以上に深刻な問題は、飲み込むことがうまくできなくなると、本来は食道を通って胃へ入って行くべき唾(つば)や食べ物の一部が、誤って気管に入り込んでしまうという「誤嚥(ごえん)」を引き起こしてしまうことです。

この誤嚥は、「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」という厄介な問題を招きかねません。
誤嚥性肺炎は、たとえば永六輔さんや森光子さん、野坂昭如さんなど、多くの著名人たちの命を奪ったことでも知られるように、図らずも亡くなるケースの多い病気です。

そこで、この誤嚥性肺炎を回避しようと、医師たちは、チューブなどを介して胃や腸に直接、栄養剤を注入する人工栄養法と呼ばれる方法によって栄養状態の維持・改善を図ろうとします。つまるところ、患者に「口から食べる」ことをあきらめさせようとするわけです。

食事動作自立に向け看護師が考案した
「KT(口から食べる)スプーン」

「口からものをおいしく食べる」ことは、人間としての根源的な欲求です。
生きている喜びそのものでもあるわけで、この喜びを奪われてしまうことは、残された人生が何とも味気なく、面白みのないものになってしまうとさえ言えなくもありません。

摂食嚥下障害に悩む多くの方々にそんな無残な後半生を送らせてはいけない。なんとかケアの力で、口から食べることを続けてもらうようにすることはできないものだろうか――。

そんな強い思いから、「口から食べることをあきらめさせない」ケアの方法を模索する取り組みを続ける看護師さんがいます。
「NPO法人 口から食べる幸せを守る会」で理事長を務める小山珠美さんです。

小山さんは「口からものを食べる、飲む」という摂食・嚥下行為のメカニズムを徹底的に分析し、独自のケア方法を編み出しました。
その方法は、今や看護や介護スタッフの方々に広く活用されているのですが、その取り組みを進める過程で、物を食べるという動作の自立を助けるスプーンを考案しました。
名付けて「KTスプーン」、KTとは「口から食べる(kuchikara Taberu)」を意味します。

KTスプーンに施されている
自分で口から食べる工夫のポイント

◆食物を口に取り込みやすい柄の長さと軽さ
摂食嚥下障害は、さまざまなことが原因となって起こります。
高齢者に多く見られるものの一つは、脳卒中の後遺症として起こる片麻痺(かたまひ)などによる上肢の運動制限です。たとえば腕が十分上がらない、あるいは関節が十分曲がらないといったことが原因で、「捕食動作」、つまり目の前にある食べ物を自分の手で口に取り込む動作に支障をきたしているようなケースです。

KTスプーンは、この捕食動作が難しい人でも、自分自身の手でスプーンを持ち、そのまスムーズに食べ物を口の中まで運び入れることができるように、柄の長さ(20㎝)とスプーンの軽さ(21.5g)に特に配慮して作られています。

◆スプーンを持った時の安定感
また、片麻痺があったり、あるいはパーキンソン病による手のふるえがあったりすると、口に運ぼうとするスプーンが揺れて不安定になり、スプーンに載せた食べ物がこぼれ落ちてしまうといったことが起こりがちです。

このような事態を防ごうと、KTスプーンでは、食べ物を乗せたスプーンを握ったときに支点となる柄先の部分が、母指球(親指の付け根の膨らんでいる部分)にしっかりフィットし、安定して持っていられるように工夫された形状になっています。

KTスプーンには「介助しやすさ」も配慮されている

加えてKTスプーンには、食事を介助する人のための工夫も施されています。
食事動作の自立に向けた介助をしたことのある方なら、一度ならず経験していることと思いますが、普通のスプーンでは、スプーンを持つ手のどこを支えたらいいのか戸惑うものです。

その点KTスプーンは少し長めにできていますから、介助を受ける人の指に介助者の指を重ねることにより、自然な動作を誘導することができますす。
また、スプーンの柄先部分の工夫により、本人の親指に介助者の親指を添えてサポートすることもできます。

なお、KTスプーンを考案した小山さんの「NPO法人 口から食べる幸せを守る会」は、看護や介護のプロだけでなく、日々介護されているご家族向けの活動もしています。
関心のある方は、ホームページにアクセスしてみてください。