家族の認知症による「徘徊」で悩んでいる方へ

行方知れず

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徘徊による行方不明者が
10年連続で過去最多を更新

警察庁は毎年、全国の行方不明者に関する統計をまとめています。直近の「令和5年における行方不明者の状況」によると、この年1年間に、警察に行方不明者届が提出されたのは、全国で延べ9万144人で、その約2割を認知症やその疑いがあり、徘徊(はいかい)などにより行方不明になったケースが占めています。

行方不明になった認知症高齢者の多くは、警察や家族等による懸命の捜索により、届出のあったその日のうちに所在確認されているとのこと。所在不明のまま日をまだぐことがあっても、9割以上は1週間以内に無事でいることが確認されて、自宅等に戻っているようです。

一方で、路上で倒れているなど、遺体で発見されたケースは、1年間で553人に上り、そのなかには徘徊しているうちに交通事故に遭って命をなくした例もあったようです*。

*厚生労働省が警察庁の協力を得て実施した調査によれば、行方が分からなくなってから翌日までは生存している例が多いものの、3日目以降は生存の可能性が急に低くなるとのこと。その死因は低体温症、溺死が多く、「行方不明者のいのちを守るには、いち早く見つけることが鍵」と説明している。

いつもと違う気配に
不安を感じて徘徊を

認知症による徘徊については、認知症者への対応のスペシャリストである認知症看護認定看護師の知人から、「なるほど」と合点のいく話をうかがったことがあります。

彼らが徘徊する、つまりあてもなく歩きまわるのは、認知症によりまわりの状況を読みとることが難しくなっているために、いつもと違う異様な気配を感じとると、訳もなく不安に陥るからだというのです。

その漠然とした不安や居心地の悪さから、「ここにいては危険だから、一刻も早く安心できる場所に移らなければ」「とにもかくにもここから逃げ出したい」などと思いつめ、そのまま行先も定めず歩き出してしまうのだと――。

できるだけ笑顔で接する心がけを

「その強い不安や焦る気持ちを和らげるようにかかわって、自分はここにいていいのだ、ここにいても安全なのだと思ってもらえると、自然と落ち着くことが多い」とのこと。

その際に彼女は、徘徊に振り回されているとつい硬い表情になりがちなことを意識し、目線を合わせて優しい口調で、笑顔で接することを心がけているそうです。

「認知症が進行して相手の顔を認識できなくなっていても、表情や視線から相手の感情や気持ちを読みとる脳の機能は比較的よく保たれていることが研究で実証されています。笑顔で接することはこちらの意思を伝えるうえで重要な役割をしてくれていると思っています」

認知症症状が進むにつれ意思の疎通が難しくなってくると、ともすれば「認知症だから」と諦めがちではないだろうか。しかし症状が進んでも相手の表情を読み取る能力は残っているケースが多いことが研究で明らかにされている。穏やかな態度と笑顔で接する心がけを。

警察と自治体が連携し
見守りネットワークを構築

では、徘徊によりそのまま行方不明になった場合ですが、認知症やその疑いのある高齢者が、徘徊により外出したまま帰宅困難になるケースについては、全国の警察が各市区町村にある地域包括支援センターや民間企業と連携して、その予防と早期発見に向けた「見守りネットワーク」等の取組みを積極的に進めています。

その際には、地域差もあるようですが、「認知症サポーター」と呼ばれる地域のボランティアが協力してくれることもあるそうです。

GPSによる位置情報を活用

認知症による行方不明者を早期発見するための対策としては、事前に本人の直近の顔写真や好みの服装の特徴、愛称、よく口にする言葉等の情報を、家族の同意と協力を得てデータ化し、その情報ネットワークを構築することにより、いざとなったときにこれを活用しようという取組みが警察レベルで積極的に進められています。

また、地域によっては、行方不明になることが予測される認知症高齢者に対し、自治体がGPS*の端末(発信機)を貸し出し、行方不明になった際には、警察の捜索に、そのGPSによる位置情報活用の協定を結んでいるところもあります。

家族や知人に徘徊の兆候が見られるようなら、早めに最寄りの地域包括支援センター(厚生労働省のホームページで検索できます)や警察にその旨を伝え、事前に手を打っておくことをおすすめします。

*GPSとは衛星利用測位システムのこと。人工衛星からの電波で、地球上のその人の現在位置を測定し、把握する装置。最近は、ほぼすべての携帯電話やスマートフォンに搭載されている。

GPS装置を利用するときは
本人が負担に感じないものを

徘徊により行方不明になったときに位置情報を知らせてくれるGPS端末は、自治体に頼らなくても個人レベルでも簡単に利用できます。

救急QR 高齢者の徘徊・緊急用キーホルダー などを首からぶら下げたり、ポケットに入れたり、携帯するのを嫌う方には、GPSシューズ 魔法の靴 のように靴そのものにGPS端末がセットされていて、履いていれば、また脱いでしまった場合でも脱いだ場所がわかるタイプもあります。いずれにしても、本人が負担に感じないものを選んでみてはいかがでしょうか。

おかえりQR のような高齢者見守りシールを高齢者の衣服やステッキなどに貼り付けておけば、行方不明になったときに、貼られたシールを発見した人がスマートフォンでシールを読み取り、個人情報を出さずに家族に連絡してもらうことができます。

警察関係者も
認知症を理解している

認知症による徘徊問題を抱える家族のなかには、警察などに相談することを躊躇し、なんとか家族だけで、あるいは自分一人で対処しようと頑張るケースも少なくないと聞きます。

そんな方に話をうかがうと、「警察に相談するのは抵抗がある」とおっしゃる方が少なからずおられるのですが、これは誤解です。

たとえば警視庁(東京都)では、道に迷ったり自宅がわからなくなった認知症高齢者に素早く適切な対応ができるように、認知症者にどう対応するかをまとめた「認知症の対応ハンドブック」を作成し、すべての警察官と職員に配布。加えて2015年からは、全警察官と職員に「認知症サポーター講座」の受講を義務づけています。

これにより、認知症者の行動の特徴などを正しく理解したうえで、地域の認知症高齢者を見守り、必要な手助けをする心構えが行きわたっていますから、不愉快な思いをすることなく相談に乗ってもらえるはずです。

こうした警察レベルでの取組みは、東京都のみならず山形県などいくつかの県でも行われるようになっているようです。

参考資料*¹:厚生労働省「全国の地域包括支援センターの一覧」