「エンシュア」で「口から食べる」をあきらめない

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「エンシュア」を食事代わりに
「5年生存率」をクリア

高齢の方やがん患者さんから、「エンシュア」という栄養ドリンクだけで食事を済ますようになって随分になる、という話をこのところちょくちょく耳にするようになりました。たとえば、テレビの情報番組などにたびたび登場し、健康や医療に関する解説をされている医師の中原秀臣氏が、そのお一人です。

中原医師は2011年10月に、のどの奥の中咽頭(ちゅういんとう)と呼ばれる部分にできたステージⅢ期bのがんで、手術を受けています。

その翌年、さらにまたその翌年にも肺がんへの転移が見つかり、その都度放射線治療を受けて今日に至っているのですが、最初の手術以降、毎日「エンシュア」を食事代わりに暮らしていることを体験記で公表しています。

2016年の11月には「がん治癒」の目安とされる「5年生存率」をクリア。今では「10年生存率」もなんとかクリアしたいと書いておられます

「エンシュア・リキッド」は
五大栄養素をバランスよく配合

中原医師が食事代わりに飲んでいる「エンシュア」とは、正式には「エンシュア・リキッド」というドリンクタイプの総合栄養剤のことです。

たんぱく質、糖質、脂質といった栄養素に加え、ビタミンやミネラルなどの栄養素をバランスよく、しかも効率的に摂取できるように開発された「経腸(けいちょう)栄養剤」です。

経腸栄養剤とは栄養分が「経腸」、つまり消化管を通って腸から直接吸収されるように調整されている栄養剤です。この栄養剤の体内における経路は、口から食事する場合とまったく同じですから、静脈を介して行う点滴よりも、私たちの体にはごく自然、かつ効率的です。

とりわけ直接腸を使うこの栄養法は、腸自体の機能を保持して、腸粘膜にもともと備わっている免疫の働きを維持できるという点で、大変魅力的です。

中原医師の場合は、口から食べたものを食道へ、口や鼻から吸い込んだ空気を気管へと振り分けるうえで重要な働きをしている中咽頭部分の手術を受けています。そのため固形食では誤嚥(ごえん)による誤嚥性肺炎を誘発するリスクがあるためエンシュア・リキッドを選択したと、体験記のなかで書いておられます。

「エンシュア・リキッド」を
低栄養や誤嚥性肺炎の予防に

中原医師のようながん患者とは別に、最近では、高齢者で「口から食べる」ことをあきらめたくないという方の間で、このエンシュア・リキッドが静かに広がりつつあるようです。

歳を重ねるにつれて食が細くなり、このままでは低栄養に陥るリスクがある、あるいは食事中にむせて咳き込むことが多くなり誤嚥性肺炎が懸念されて口から食べるのは難しい状態に陥いることがあります。

このような場合、医師はおおむね胃瘻(いろう)や鼻チューブ、あるいは点滴による栄養補給を提案します。

かかりつけ医からこのような提案を受け、「できるだけ自然にゆだねたいのですが……」と話したところ、「じゃあ、一度これでも飲んでみますか」と言って、エンシュア・リキッドを処方してくれたという話をうかがったことがあります。

入手には医師の処方箋が必要

エンシュア・リキッドは医療用医薬品ですから、入手には医師による処方箋が必要です。

開発・販売しているアボット社のホームページで、エンシュア・リキッドの効能や副作用などを詳しく解説している「添付文書」を見てみると、「重要な基本的注意」という項目でショックやアナフラキシー(重篤なアレルギー症状)などへの注意を促しています。

同時に、「高齢者では生理機能が低下していることが多いので、用法・用量に留意すること」と明記してあります。

健康状態をわかってくれているかかりつけ医の処方を

あなたの現在の体の状態をいちばんよく把握しているのは、日頃から健康状態をチェックしてもらっているかかりつけ医でしょう。

いきなり飛び込んだクリニックの医師などではなく、かかりつけ医に「エンシュア・リキッドを飲んでみたいのですが……」と、相談してみることをお勧めします。

なお、介護保険施設に入所中の方は、そこに医師がいても、エンシュア・リキッドのような医療用医薬品としての経腸栄養剤の処方は受けられないことがあります。その理由とそんなときの対応についてはこちらを。

食事による栄養補給が難しくなっても人工栄養ではなく「口から食べる」ことにこだわりたいとき、エンシュアは強力な味方だ。が、介護保険施設ではコストの関係で、医薬品であるエンシュアを処方してもらえないことがある。その理由と代替品についてまとめた。

他人から譲り受けたエンシュア・リキッドは飲まない

またネット上で、「医師に処方してもらったが余っているからと知人からエンシュア・リキッドを譲り受けたが飲んでも大丈夫ですか」との相談記事を読んだことがあります。

しかしあなたの健康状態によっては、これは大変危険です。くれぐれも自己判断で飲むようなことだけは避けたいものです。

なお、エンシュア・リキッドをおいしく、また栄養的な価値を落とすことなく飲む方法などについてはこちらの記事にまとめてあります。参考にしていただけたら嬉しいです。

エンシュア・リキッドを食事として栄養を確保しているがん患者や高齢者が増えている。必要な栄養素がバランスよく配合されていて、味もバニラ味、コーヒー味など何種類か用意されているのだが、もともとの栄養価を下げずにおいしく飲むには少しの工夫も必要だ。
「エンシュア」というドリンクタイプの総合栄養剤については、胃瘻などの人工栄養に代わる選択肢として考える際に、「どこまで食事に代われるのか」との疑問を持つ方は多い。そこで、実際「エンシュア」を食事代わりにしている方の話や体験をまとめてみた。
胃瘻や点滴などによる人工的栄養法を嫌い、口から食べることにこだわる人は少なくない。その際はエンシュアやエネーボ等の経口可能な経腸栄養剤が頼りになる。だが、牛乳アレルギーでそれらを利用できない方には安心して摂取可能なエレンタールを紹介する。

参考資料*¹:『新潮45』February-2017、P.50-53
参考資料*²:エンシュア・リキッド・添付文書