がん患者は治療中でも
コロナワワクチン接種を
新型コロナウイルスのリバウンド(感染再拡大)への危機感が全国的に強まっています。
その一方で、待ちに待った新型コロナウイルスに対するワクチン接種が、国内においても徐々にですが、進められています。
そんななかにあって、がん患者さん、特にがん治療中の方は、新型コロナウイルスのワクチン接種を受けた方がいいのか、副反応の心配はないのか、がん治療に影響が及ぶことはないのかなど、さまざま悩んでおられるのではないでしょうか。
こうした悩みに答えようと、がんの専門学会である日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会の3学会は3月29日、がん患者さんのワクチン接種に関する情報をQ&Aの形式でまとめ、Webサイトで公開しています。
ワクチン接種による利益がリスクを上回る
がん患者さんは新型コロナウイルスに感染すると重症化するリスクがあります。
この感染を90%以上の確率で予防することが確認されているワクチンを接種して得られる利益はリスクを上回ることから、接種が推奨されるとの判断から、がん治療中であっても前向きに検討するよう呼びかけています。
ただ、がん治療に使用している薬剤の種類や接種するタイミングによっては、ワクチンの効果が弱まったり、筋肉注射により血腫(血のかたまり)が形成されるリスクがあります。
また、副反応として接種後に発熱などの症状が出ることもあるため、接種を受ける時期については、主治医と相談するように注意喚起しています。
がん患者のワクチン接種に
7項目のQ&A
がん関連3学会のワーキンググループが、国立がん研究センターがん情報サービスの協力を得て、合同でまとめて公開したのは、
「新型コロナウイルス感染症とがん診療についてQ&A―患者さんと医療従事者向けQ&A ワクチン編 第Ⅰ版―」*¹です。
ここには、次の7項目についてQ&Aが掲載されています。
Q1:がん患者はワクチンを受けた方がよいのですか
Q2:がんの治療中ですが接種しても影響はありませんか
Q3:がん治療は一段落し経過観察中です。ワクチン接種の予診票に、がん治療後であることを記載し申告する必要はありますか
Q4:がんの治療後ですが、優先してワクチンを接種してもらえますか
Q5:ワクチンの副反応に「接種した側のわきのリンパ節の腫れ」があるといいます。乳がんの術後です。気をつける点を教えてください。
Q6:新型コロナワクチンの種類、効果、副反応は
Q7:新型コロナウイルスの変異について
がん患者のワクチン接種には
副反応の懸念を超える利益が
このうち「Q1」のワクチン接種を受けた方がいいかどうかについては、
「前向きに検討しましょう」としたうえで、ワクチン接種による利益とリスクを理解し、主治医と相談して判断するよう促しています。
がん患者さんがワクチン接種を受ける利益としては、まず感染予防効果があげられます。
加えて、仮に感染したとしても、発症や重症化を予防するワクチン効果により、検査やがん治療を予定どおり、安全に進められることがあげられています。
一方のリスクである副反応については、厚生労働省が一般向けに次のように説明しています。
- 注した部位の痛み、疲労、頭痛、筋肉や関節の痛みなどが見られることがあるものの、これらの症状の大部分は、接種後数日以内に回復している
- まれな頻度(国内の3月21日時点では1万2316回の接種に1件)でアナフィラキシー(急性のアレルギー反応)が発生しているが、いずれも接種会場や医療機関ですぐに対応し、軽快・回復している
対象をがん患者さんに絞った副反応に関する調査や報告は、現時点ではまだないとのこと。
ただし、がん患者さんが新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいことから考えると、利益がリスクを明らかに上回ると考えられ、積極的にワクチンの接種を受けることを推奨するとしています。
つまり、ワクチン接種により新型コロナウイルス感染症の発症を防ぐことができれば、がん治療を予定どおり進めることができるばかりか、治療効果も期待できるということになります。
治療中のがん患者は
接種時期を主治医と相談を
「Q2」のがん治療中の接種については、がん患者さんが受けている治療別に、ワクチン接種の可否、接種のタイミング、接種を受ける際の注意点が詳しく示されています。
結論から言えば、予定されている手術を受ける前や手術後、放射線治療中あるいは治療の前後、抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、あるいはステロイドや免疫抑制剤などの薬物による治療中であっても、多くの場合、新型コロナワクチン接種を前向きに検討すべきだとしています。
ただ、ワクチン接種に際しては、治療法によっては、接種のタイミングや接種前後について次のような注意すべき点があることから、主治医と相談するよう呼びかけています。
- 放射線治療中の場合
ワクチン接種の副反応として起こり得る発熱や倦怠感(体のだるさ)などにより放射線治療の中止を余儀なくされるような事態を避けるため、可能であれば、翌日に照射予定のない週末にワクチン接種を受けるようにする - 放射線治療と抗がん剤併用による治療中の場合
抗がん剤の投与日および投与予定日の数日以内、また骨髄機能抑制により白血球や血小板が低下した時期の接種は極力避ける - 抗がん剤による治療中の場合
抗がん剤投与日、抗がん剤による骨髄抑制のために白血球が最小になる時期、血小板減少時期、抗がん剤投与予定日の2、3日前のワクチン接種は極力避ける - 分子標的薬による治療中の場合
分子標的薬の多くは連日内服となるため、ワクチン接種を避けるべき時期は特に想定されていないが、接種後に発熱した場合に備え、発熱時の受診のタイミングを決めておく - 免疫チェックポイント阻害薬による治療中の場合
どのタイミングで接種してもワクチンの効果や安全性は左右されないと考えられているが、可能であれば投与予定日の2、3日前は避けるのが望ましい - ステロイドや免疫抑制薬による治療中の場合
ワクチン接種のタイミングや治療薬の用量調節の必要はないとされている
サイクロフォスファマイドの静脈投与は、ワクチン接種の1週間後の投与が望ましい
リッキシマブ使用の場合は、治療コースの4週間前の接種が望ましい
がん治療後であることも
ワクチン接種予診票に記載
続いて、「Q3」のがん治療後であることをワクチン接種の予診票に記載すべきかどうかについては、差し支えなければ明記して申告するよう奨励しています。
なお、新型コロナワクチン接種の予診票の内容を事前に知りたい方は、厚生労働省のWebサイト*²で見ることができます。
がん治療後は優先接種を受けられるのか
「Q4」ですが、わが国では、基礎疾患があり、治療中もしくは入院中の方は高齢者接種に続いて優先接種を受けられることになっています。
ここでいう基礎疾患には、がんも含まれるのですが、がんの治療後の方が優先接種の対象となるかどうかについては、現在の病状や状況から主治医が判断することになります。
したがって、がん治療を終えている患者さんは、自分が優先接種を受けられるかどうかを、主治医に相談するようにしてください。
新型コロナウイルス接種予診票を事前にチェック
続く「Q5」から「Q7」については、Webサイトの資料で確認してみてください。
ただ、ご覧になるとおわかりのように、医学的な専門用語や聞きなれない言葉が多く、がん患者さんをはじめとする医療関係者でない方には難解で、ご理解いただけない部分もあろうかと思います。
その点については、わからないままにせずに、遠慮することなく主治医、あるいは担当看護師に直接お聞きになることをおススメします。
参考資料*¹:「新型コロナウイルス感染症とがん診療についてQ&A―患者さんと医療従事者向けQ&A ワクチン編 第Ⅰ版―」
参考資料*²:厚生労働省「新型コロナワクチン接種問診票」