コロナ感染予防とフレイル予防の両立にアプリを

エクササイズ

3年になる自粛生活で
フレイルの準備状態に?

7月に入って、沈静化していた新型コロナウイルスの新規感染者が急激に増加し、感染の第7波に入ったとも予測されています。

先に政府の専門家会議が提唱した「新しい生活様式」では、外出を控えることや人との接触を減らすことが奨励されています。

外出自粛がもたらす身体活動の制限や、社会的交流の減少を余儀なくされる生活様式は、とりわけ高齢者にとっては、心身両面の機能低下につながることが懸念されます。

懸念どころか、感染拡大を防ごうと、すでに3年にわたる自粛生活により、日々の活動量、運動量は大幅に減少しています。

フレイル(心身の虚弱状態)や転倒、骨折を招きやすく、要介護状態、つまり介護が必要な状態につながりかねない状態にあるのではないでしょうか。

そこで今日は、運動不足を解消してフレイル準備状態から脱するために、高齢者向けに開発された在宅でできる「健康づくり用アプリ」の活用を提案したいと思います。

なお、自分の今の状態がフレイルかどうかを自己チェックする方法については、こちらの記事を参考にしてみてください。

かつては「もう歳だから」と諦めていた体力や気力が低下した「フレイル」と呼ばれる状態は、その兆候に早めに気づき生活習慣を改善すれば、要介護状態への進行を食い止めることができます。その第一歩となるフレイルチェックの方法を紹介します。

直接の交流はないが
同じ動画で健康づくり

ここで言う健康づくり用アプリとは、東京都健康長寿医療センター研究所の研究チームと慶応義塾大学理工学部の研究チームが共同で開発した、無料のスマートフォン用アプリ「運動カウンター」と「食べポン」です*¹。

新型コロナウイルスの感染が拡大する前までは、フレイルや認知症の予防策として、たとえば地域の「通いの場」に定期的に出掛けて行っていた方も少なくないでしょう。

その通いの場で、居合わせた仲間と体操や趣味活動といったさまざまな健康づくり活動に参加し、活気ある生活を楽しんでいたことと思います。

しかし、新型コロナウイルスが収束していない現状にあっては、感染拡大防止のための「新しい生活様式」として、集って行う健康づくり活動や仲間との交流なども、すべてに厳しい制限が設けられています。

そこで研究チームが考えついたのが、近年では高齢者にも身近な情報伝達手段となっているスマートフォンややインターネットを活用することでした。

つまり、仲間と直接の交流を伴わないものの、同じ動画を見ながらそれぞれが健康づくりをすることにより、それが共通の話題にもなるようなアプリの開発だったのです。

「運動カウンター」アプリで
フレイル予防に有用な運動を

開発されたアプリの1つに、「運動カウンター」があります。

ここでは、スマートフォンにインストールしたLINEアプリのトークルームを利用して、自宅でできる8種類の簡単な運動動画を見ることができます。

8種類の運動としては、以下のメニューが用意されています。

  1. フレイル予防に重要な下肢の筋力アップ運動5種類
    (つまさきあげ、かかとあげ、ももあげ、ひざのばし、スクワット)
  2. 腰痛予防体操
    (便秘解消の効果も期待できる「腰ひねり」)
  3. 口腔体操
    (別名「嚥下体操」とも呼ばれる、唇や舌、口周りの筋肉を意識して動かすことで、食事や会話がスムーズにできるようにする「あーんー体操」)
  4. ウォーキング
    (自粛生活続きで運動不足を自覚している人には最適の全身運動、つまり散歩。下半身の大きな筋肉を使うため血行促進、脂肪燃焼効果も期待できる)

また、メニューの実践回数を記録し、回数によって加算されるポイントを家族や友人らと共有したり、競争したりすることもできるように工夫されています。

「食べポン」アプリで
食事面からフレイル予防を

もう一つのアプリ「食べポン」は、食習慣をチェックしてくれるアプリです。

チェック結果から不足している食品がわかりますから、その食品を意識して補うことによりバランスのよい食事摂取の手助けをしてくれるというアプリです。

「食べポン」では、1日に摂取した食事内容を「10の食品群」に分けて記録していきます。

この記録を通して、今日はどの食品群が足りているか、不足しているのはどの食品群かが一目でわかるように工夫されているのです。

この記録から、足りていない食品群を把握し、その食品を摂取するようにしていけば、バランスのとれた栄養摂取が可能となるというわけです。

健康長寿の疫学研究から編み出された「10の食品群」

ところで「10の食品群」とは、東京都健康長寿医療センターが、長年にわたり積み重ねてきた疫学研究の成果から編み出されたものです。

長寿社会を健やかに過ごすうえで欠かせないバランスのよい栄養摂取につながるとして編み出された「10の食品群」に基づいています。

具体的には、「肉類」「魚介類」「卵」「大豆製品」「牛乳、乳製品」「海藻類」「緑黄色野菜」「果物類」「いも類」「油脂類」の10の食品群のうち、1日で7食品群以上を摂取することが健康長寿につながるとされています。

この記録から、足りていない食品を補うと同時に、10ある食品群のうち何品目を食べたかを1食品群で1点として得点化し、その得点を家族や友人らと共有・競争することにより、楽しみながらバランスのよい食事摂取につなげる工夫もなされています。

自粛生活続きによる
活動の減少からフレイルに

新型コロナウイルスの感染拡大で強いられることとなった自粛生活が高齢者の身体活動に与える影響について、興味深い調査結果を紹介しておきたいと思います。

国立長寿医療研究センターと筑波大学の合同研究グループが、緊急事態宣言下の4月23日から27日にかけ、東京、神奈川、千葉、埼玉、愛知、大阪、兵庫、福岡の1都1府6県在住の65歳から84歳の男女1600人を対象に実施したインターネット調査の結果*²です。

調査では、新型コロナウイルスの感染が拡大する前の1月と感染拡大による緊急事態宣言中の4月の、それぞれにおける日々の活動状況(身体活動時間)、および感染拡大後については、活動が制限されるなかでの運動の実施状況について尋ねました。

結果は、感染拡大防止のための自粛生活により、高齢者の活動時間がおよそ3割も減少しているというものだったのです。

感染予防とフレイル予防の両立に「運動カウンターアプリ」を

具体的には、運動や家事など活動している時間は、緊急事態宣言が出る前は1週間当たり平均4時間5分でしたが、宣言中は約3時間と、およそ65分(約3割)も減少していました。

また、緊急事態宣言により活動が制限されているなかで、意識的に「何らかの運動をしている」と答えた高齢者は50%でした。

その運動の種類として多いのは(複数回答可)、「自宅内での運動(35%)」と「ウォーキング(34%)」で、「屋外での運動」は3%にとどまり、いずれも1人で運動しており、「集団での体操をしている」と答えた人はいませんでした。

こうした結果から研究グループは、高齢者はフレイル予防の観点から、感染予防と身体活動の維持という一見相容れないかのように見える両者のバランスを保ちつつ極力体を動かすように努めていく必要があると指摘しています。

まずは紹介した「運動カウンターアプリ」に挑戦してみてはいかがでしょうか。

アプリの利用には、スマートフォンとLINEが必要です。
アプリ自体は無料ですが、通信料・接続料は本人負担となります。

公開・ダウンロード先は、AIP加速PRISM研究「健康貯金のための運動誘発AI基盤構築」特設ページ「健康Appsシリーズ」(コチラ)です。

スマホの操作はどうも苦手という方は

なお、フレイル予防には関心があるが、スマートフォンの操作は得手ではないという方は、こちらの記事を参照してみてください。

転倒や骨折、要介護の原因となる「フレイル」を予防の取り組みが進んでいる。岡山県のリーフレットには、自分のフレイルリスクを知ることから始め、口から食べるための体操、虫歯予防、炭水化物とたんぱく質を十分摂る食事の工夫をコンパクトにまとめてあり、好評だ。

参考資料*¹:在宅での高齢者の健康づくりに活用可能なスマートフォン用LINEアプリを公開

参考資料*²:高齢者の感染予防と身体活動の重要性