良質なたんぱく質を毎日とってフレイル予防を

豚肉料理

「たんぱく質」の1日目標量を
体重1㎏あたり1g以上に

介護予防や寝たきり予防の最重要課題として、「フレイル」と呼ばれる「加齢により心身が老い衰える状態」に陥るのを防ぐ取り組みが国レベルで進められています。

足腰の筋肉を鍛えようと散歩を習慣にしたり、意識して階段の昇り降りをしたり、あるいはスクワットをするなど連日運動に励んでいる方も少なくないことでしょう。

ただ、フレイル予防に限らないのですが、運動療法は、食事療法とセットで行ってこそ効果が期待できるものです。

特に高齢者は、低栄養と呼ばれるような栄養が不足した状態で運動を行っても。体力の消耗が進むだけで、むしろフレイルを招き、悪化させることにもなりかねません。

そうならないためには、運動と併行して食事をきちんととることが重要で、その食事でとりわけ欠かせないのは、筋肉組織の材料となる良質のたんぱく質です。

このような理由から、「日本人の食事摂取基準」の最新版(2020年版)では、フレイルの発症予防を考慮して、高齢者(65歳以上)は男女とも、1日に体重1㎏あたり最低でも1gのたんぱく質を毎日摂取することが望ましいとする、新たな目標値が設定されています。

たんぱく質の摂取は
腎臓の負担にならない範囲で

「日本人の食事摂取基準」は、健康の維持・増進を図るうえで摂取することが望ましいとされるエネルギーや栄養素の量の基準をまとめたものです。

5年に1度見直しが行われていて、直近では2020年に改定されているのですが、それまで使用されてきた「日本人の食事摂取基準 2015年版」では、高齢者の年齢区分は「50歳~69歳」と「70歳以上」の2区分になっていました。

2020年版ではこの区分を、最近の高齢者の人口配分などを考慮して見直し、「65歳~74歳」と「75歳以上」の2つの区分となっています。

そのうえで高齢者のフレイル予防におけるたんぱく質の1日摂取目標量(最低量)を、今の基準の体重1㎏当たり0.85gから1gに引き上げたわけです。

体重が50㎏の人は、最低でも1日50gのたんぱく質が必要ということになりますが、「最低でも」とは言うものの多ければ多いほどいいと言うものではありません。

体内に摂り入れられたたんぱく質は、アミノ酸に分解されたのち、筋肉や皮膚、毛髪、臓器、神経などの成分、あるいは各種酵素やホルモン、免疫物質などに合成されてそれぞれの役割を果たします。

糖質が不足しているときは、エネルギーとして消費されることもあります。

しかしたんぱく質をとりすぎた場合、不要になったたんぱく質は、アミノ酸に分解、消化される過程で出る老廃物(窒素化合物)を増やし、その老廃物をろ過する役割をしている腎臓に過分な負担をかけることになってしまうのです。

そのため、特に腎臓の機能が低下している方はたんぱく質のとり方に注意が必要で、ご自分の腎機能が正常かどうかわからず心配だという方は、一度かかりつけ医にその旨相談して、血液検査を受けて確認しておけば安心です。

良質のたんぱく質は
アミノ酸スコアの高い肉や魚類

たんぱく質は、肉類や魚類、鶏卵、牛乳やチーズなどの乳製品に多く含まれていることはよく知られています。

いずれも動物性食品ですが、大豆などの豆類や豆腐、納豆といった大豆製品、さらにはバナナやアボカドなどの植物性食品にも、たんぱく質は豊富に含まれています。

歳を重ねるにつれ、咀嚼力や消化力が低下したり、食べ物でむせたり、つっかえ感があったりして食べにくくなるため、どうしても食べやすいあっさりした物を好むようになりがちです。

そのためたんぱく質で言えば、植物性たんぱく質の食品が多くなりがちでしょうが、同じたんぱく源であっても、食品によってたんぱく質に含まれているアミノ酸の種類が異なります。

できれば、身体に必要ではあるものの体内では十分な量を合成できないため食事から摂取するしかない必須アミノ酸の含有量が多い、いわゆるアミノ酸スコアの高い肉類や魚類、卵などは毎日欠かさず摂り続けたいものです。

これらの食品、特に卵については、コレステロールを気にして控える方が依然として多いようですが、コレステロール摂取量を制限するとたんぱく質不足に陥りやすいことから、「日本人の食事摂取基準」の2015年版を改訂した時点で、コレステロールの摂取基準は撤廃されていますから、安心して必要量をとりたいものです。

健康長寿を全うする条件の一つは足腰が丈夫であること。そのためには「サルコペニア」と呼ばれる筋肉量の減少による筋力低下を防ぎ、フレイルにすすめさせないことが課題だが、そのために欠かせないのがたんぱく質、特にアミノ酸スコアの高い卵はおすすめ。

「食事バランスガイド」の活用を

食事により得られる栄養素の一つひとつにはそれぞれの働きがあり、その働きが複雑に関係しあうことにより健康の維持・増進につながるようになっています。

そのため、たんぱく質だけ多く摂っても、食事内容に偏りがあると、せっかく取り入れたたんぱく質が本来の働きを果たすことなく体内に蓄積されたり、老廃物を増やしてしまったりして、むしろ健康を損なうことにもなりかねません。

こうした事態を防ぐためには、栄養バランスを考えながら、自分にとっての適量を摂り続けることが、フレイルを予防するうえでも重要になってきます。

そこで、自分が日々とっている食事の栄養バランスをチェックする方法として、厚生労働省と農林水産省が策定した「食事バランスガイド」に基づき作成された「シニア世代向け食事バランスガイドを活用してみてはいかがでしょうか。

1日に何を、どれだけ食べたらいいのかが、一目でわかるようになっているうえに、ご自分の日々の食事の栄養バランスをチェックできるようにもなっていますから、是非これを活用してフレイル予防にお役立てください。

「まごたち食」で栄養バランスのよい食事を

あるいは、より簡単な方法としては、こちらで紹介している「まごたち食」で栄養バランスのよい食事をとる方法もあります。

「ピンピンコロリ」を望んでいても、歳を重ねるにつれて食が細くなり低栄養に陥りがち。低栄養が続けば活動は鈍くなり、「閉じこもり」や「寝たきり」になりがちです。その予防策として、おかずの食べ方の指針となる「まごたち食」を紹介します。

高齢者向け「たんぱく質を手軽にとる解説本」

また、老年医学の専門家である東京大学の飯島勝矢教授監修による、高齢者のフレイル予防に役立つたんぱく質たっぷりのレシピ満載の『一生スタスタ歩きたいなら、たんぱく質をとりなさい-フレイルを防ぐ 健康長寿食&高たんぱくレシピ』(学研プラス)も参考になります。

あるいは、「料理が苦手だから」「ひとり暮らしになって作る意欲がなくなった」「食が細いからたくさん食べられない」といった高齢者向けに、管理栄養士がたんぱく質を手軽にとれる食事術を紹介する『100年長生き食: 料理が苦手でも、ひとり暮らしでもできる!』(Gakken)も参考になります。

食が進まないときは

なお、食が進まないときはこんな工夫も。
「エビオス錠」で低栄養によるフレイルを防ぐ

「エンシュア」で「口から食べる」をあきらめない

⇒ フレイルの予防・改善に経腸栄養剤の活用を

また、フレイルの兆候を自宅で簡単に自己チェックできる方法があります。

かつては「もう歳だから」と諦めていた体力や気力が低下した「フレイル」と呼ばれる状態は、その兆候に早めに気づき生活習慣を改善すれば、要介護状態への進行を食い止めることができます。その第一歩となるフレイルチェックの方法を紹介します。

参考資料*¹:農林水産省「シニア世代の健康な生活をサポートする食事バランスガイド」