「家庭血圧測定」の普及にこだわった日野原医師

血圧計

「家庭血圧測定」の生みの親は、
日野原重明医師だった

「高血圧は万病のもと」とよく言われます。

場合によっては心筋梗塞や脳出血、脳梗塞のような死に直結することが稀ではない病気の引き金になりますから、健康長寿を実現していくうえで看過できない健康課題です。

日本高血圧学会が5年ぶりに改訂した「高血圧治療ガイドライン2019」では。降圧目標値、つまり治療の目標値が10㎜Hg引き下げられ、患者にとってはより厳しくなっています。

5年ぶりに改訂された「高血圧治療ガイドライン2019」。基準値は据え置かれたものの、降圧目標値は10㎜Hg引き下げられ、より厳しくなっている。降圧治療の基本は減塩だ。この1日摂取目標量も来年度から0.5㌘減が予定されている。そのポイントは……。

最近は家庭用血圧計の開発が進み、一定の年齢に達していれば誰でも手軽に、それも高い精度で血圧を測定できるようになっています。

この血圧計を活用して、自分で血圧を測ることを習慣にしている方も少なくないだろうと思います。

家庭血圧測定(「自己血圧測定」とも言います)の生みの親が、昨年の初夏(2017年7月)に健康長寿を全うして105歳で亡くなられた日野原重明医師であることは、意外と知られていないのではないでしょうか。

医師だけに許されていた血圧測定を一般人も可能に

およそ半世紀も前になる1970年代、和暦で言えば昭和50年前後のこの国では、血圧は水銀血圧計と聴診器を使って測定していました。

当時、聴診器の使用が認められていたのは医師だけでしたから、血圧測定は医師だけに許される医療行為の一つとみなされ、医師の免許がない者は、家庭であっても自分や家族の血圧を測ることはできませんでした。

そこで、日野原医師が厚生労働省(当時は「厚生省」)に何度も足を運んで交渉し、一般人による家庭での自己血圧測定を認めさせたのだと、ご本人から直接うかがっています。

なお、当時は一般的だった水銀血圧計は、法規制により2021年以降の製造・販売が禁止されることになっています。この詳細についてはこちらの記事を読んでみてください。

高血圧の診断、治療をより適正に進めるうえで、本人が毎日決めた時間に、同じ条件で自分で測定して得られる家庭血圧測定値が貴重な情報であることはよく知られている。この家庭血圧測定に水銀血圧計を使用している方に、水銀血圧計の早めの切り替えをおすすめする。

家庭での血圧測定値が
高血圧の診断・治療に欠かせない

家庭血圧測定の普及に日野原医師がこだわるのには、確たる根拠があってのことでした。

血圧の測定値は、その人のその時々の体調は言うまでもありませんが、心理状況によっても大きく変動します。

「白衣高血圧」とか「診察室高血圧」という言葉があるように、診察室で医師の白衣姿を目にしただけで患者は緊張しますから、血圧は多少なりとも上がってしまい、その測定値から「高血圧ですね」となることも珍しいことではありません。

また、すでに高血圧の診断を受けて降圧薬を服用している方の場合は、おおむね朝食後に薬を飲み、それから病院に行って診察を受けることが多いと思います。

このときの、降圧薬服用から血圧を測定するまでの時間差も測定値を変動させますから、高血圧の診断と治療に大きく影響します。

「ですから、高血圧を正確に診断して適正に治療していくためには、診察室で医師が行う血圧測定では得られない血圧情報が不可欠なのです」

――こんな趣旨の説明を日野原医師は繰り返し行い、本人や家族が家庭血圧測定を行うことに厚生労働省の同意を取り付け、現在に至っているようです。

家庭血圧測定値の変動から
身体の変調をいち早く察知

晩年の日野原医師は、人びとから求められるままに出かけて行っては、健康で長生きをする、つまり健康長寿のための秘訣のあれこれを伝えてこられました。

私も何度かその講演を聞かせていただきました。

そのなかでいちばん大事なこととして話しておられたのは、「自分の身体は自分で守ることが何より大切で、そのためには、自分の身体が今どのような状態にあるのかを常に知っておく必要があります」ということでした。

こう伝えたうえで、誰でもすぐにできることとしてすすめておられたのが、「家庭で毎日決めた時間に、同じ条件、同じ方法で自分の血圧を測定し、その値を記録に残していって、測定値の変動をチェックすること」でした。

「余裕があれば、ご家族の血圧も測ってあげてください。症状として現れてくる前の身体の変調を、測定値の変動から気づくことができます」

そんな言葉を付け加えて、話を締めくくっておられたものです。

家庭血圧測定も測定値の管理も
スマホでできる時代です

このような日野原医師の話に、会場からは「1日のうちのいつ測ればいいですか」という質問がよくあがりましたが、これに日野原医師は、こんなふうに答えておられました。

「理想は朝です。起床後1時間以内で、排尿を終えた後の朝食前、降圧剤を飲んでいる方は服用前です。ただ、特にウイークデーの出勤前は何かと慌ただしく、落ち着いて測定できないとおっしゃる方もいるでしょう。その場合は夜の就寝前でもいいですよ。大事なことは毎日一定の時間に、同じ条件で測定することです」

また、家庭用血圧計には上腕用と手首用があるが、どちらがいいのかとの問いには、「精度が高いのは上腕式のほうです。つまり、肘から上の部分で測定するタイプですが、手首の方が測定しやすいという方はそれでもOKです」とのこと。

さらに大事なこととして伝えていたのは、測定値を高血圧の基準値と比較して「高血圧になってしまった」「今日は下がった」などと一喜一憂しないこと。

「あなた自身の測定値の変動をチェックすることが大事です。そのためには、毎日の測定値を記録に残してグラフ化し、受診する際にはそのグラフを持参して医師に見せていただけると、その後の治療に反映することができます」と話しておられたものです。

幸い最近は、通信機能が搭載されていて、測定結果をスマートフォンに転送し、簡単にデータ管理できるタイプの家庭血圧計が市販されていますから、活用してみてはいかがでしょうか。

早朝高血圧と家庭血圧測定

なお、脳卒中や心筋梗塞につながりやすい早朝高血圧の診断には、毎日の家庭血圧測定が必須という話をこちらで書いています。是非読んでみてください。

高血圧のなかには診察室血圧は正常範囲でも、家庭で測定すると高血圧を示す「仮面高血圧」がある。そのなかに「早朝高血圧」と言って、起床する時点ですでに血圧が上がっていて、脳梗塞や心筋梗塞の発症リスクが高いタイプがあり、その発見には家庭血圧測定が必須だ。

通信機器搭載で測定結果をスマホ管理できる血圧計