健康長寿は「フレイル」の自己チェックから

チェックリスト

フレイルの兆候が自分でわかる
簡単なチェックリストがあります

このところ60、70、80代の知人からこんな相談をよく受けます。

市役所からフレイルチェックを受けに来るようにという通知が届いた。読んでみると、高齢者が地元の公民館に集まって、健康チェックをしたり、バランスのいい食事や簡単な筋トレ法を学ぶのが趣旨らしい。

でも自分は、みんなで集まって一緒に何かをするというのが大の苦手で、どうも出掛けて行く気になれないのだが、「行かないとまずいだろうか」と――。

気心の知れた仲間となら一緒に食事をしたり、趣味を楽しんだりもするが、健康チェックのためだけに知らない者同士が集まることには抵抗がある、ということのようです。

どちらかと言えば私も、関心の持てるはっきりした目的がないと、たくさんの人と一緒に行動するのは得手ではなく、彼らの言い分は十分理解できます。

そこで、友人の保健師さんにこの話をしてみました。すると、「最近、そういう高齢者が多いのよね」に続き、こう提案してくれました。

「フレイルの兆候を自宅で知ることのできる簡単なチェックリストがあるから、まずはそれを使って自分の今の筋力や心身の健康状態をチェックしてみて、その結果を見てから集まりに行くかどうかを考えたらどうかしら」と――。

フレイルから要介護状態へ、
進む流れにブレーキを

「フレイル」*とは、あまり聞きなれない言葉ですが、従来「虚弱」とか「老衰」と呼び、「歳のせいでしょう」などとして見過ごされがちだった状態を言います。

健康で、自立した日常生活を送れている状態と、日常生活に介護などのサポートが必要な状態の中間にあるのがフレイルと考えていいでしょう。

誰でも年を長く重ねれば、否応なく体力も気力も少しずつ低下してフレイルの状態になってくるものです。

しかしそうした状態も、初期段階であれば、多くの場合、身体的にも心理的にもまだまだ改善できる余地が十分残されています。

そこで、「もう歳だから」などと諦めないでほしい――。

自分のフレイルの兆候を早めに見極め、自ら食生活や運動習慣の改善に取り組むことにより、要介護状態に進む流れにブレーキをかけようという取り組みが、国を挙げて行われるようになってきているのです。いわゆる「介護予防事業」です。

介護予防事業の対象となるのは、このままフレイルが進行していくと、近い将来日常生活に介護が必要になる可能性が高いと判断される高齢者です。

この、要介護状態のハイリスク高齢者をピックアップするスクリーニング法の一つに、厚生労働省が開発した生活機能を評価するための「基本チェックリスト」があります。

保健師さんが言うチェックリストというのは、これを指します。

*「フレイル」は、海外の老年医学の領域で「身体がストレスに対して弱くなっている状態」を意味する言葉として使われている「Frailty(フレイルティ)」の日本語訳。2014年に日本老年医学会が提唱した。

談笑しつつのフレイルチェックに
認知機能活性化効果も期待

生活機能評価のための「基本チェックリスト」は、日常生活の状態や心身の機能に関する25項目の質問に対し、「はい」か「いいえ」で答えていく質問票です。

各質問の内容に合わせ、生活機能に問題があると考えられる場合に点数が1点加算され、トータルの得点が高いほど生活機能に問題があると評価されるようになっています。

この「チェックリスト」は、ネット上から簡単に入手できます。

こちら*¹からダウンロードして印刷したものでチェックしてみるといいでしょう。

ネット上で生活機能をチェック

より簡単な方法としては、ネット上で、「はい」か「いいえ」で順次質問に答えていくだけで、生活機能の状態を評価してもらうこともできます。
介護予防のための生活機能チェック

「指輪っかテスト」と「イレブンチェック」

また、フレイルチェックそのものについては、東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授らの研究チームが考案した方法があります。

このチェック法は、「簡易チェック(指輪っかテスト)」と「総合チェック(深堀チェック)」の2部構成になっていて、公民館などで開かれる高齢者の「フレイルチェック」の集いでは、多くの場合このチェック法が使われているようです。

指輪っかテストは、人差し指と親指を結び、ふくらはぎの一番太い部分を囲んで、「囲めない」「ちょうど囲める」「隙間ができる」の3グループに分けるテストです。

「囲めない」ならフレイルの危険度は低く、転倒・骨折などのリスクは低いものの、「隙間ができる」ほどふくらはぎがやせ細っていれば、そのリスクは高いと判断します。

一方の総合チェックシート*²(「イレブンチェック」とも呼ばれている)では、シートにあるように、栄養・運動・社会性の3要素に関する現状を、11の質問から自己採点できるようになっています。

集いへの参加で社会性アップも

集いに参加すれば、参加者と一緒に片足立ちや滑舌(かつぜつ:舌や口の動き)、握力などの筋力チェックもできます。

また、チェック項目全体の結果に応じて、バランスのいい食事のとり方や太ももやお尻など下半身の筋肉を鍛えて筋力アップを図るスクワットの方法などを学ぶこともできます。

先の保健師さんは、「集まっていただくこと自体に、みんなで声を掛け合いながら筋力チェックをしたり、たわいのない話をして談笑し合ったりすることで気持ちが明るくなり、脳も活性化して、認知機能にプラスに働く効果が期待できますから、その辺のことも加味して参加を前向きに検討していただけたら」と、話しています。

なお、フレイル予防にはこちらを参考にしていただける思います。

来年に向け改定作業が進行中の「日本人の食事摂取基準」では、高齢者のフレイル予防の観点から、たんぱく質の1日摂取目標量が引き上げられる予定だ。たんぱく源は多彩だが、筋力アップには必須アミノ酸の多い良質なたんぱく質が欠かせない、という話を。

参考資料*¹:厚生労働省作成「基本チェックリスト」

参考資料*²:総合チェックシート