健康寿命を伸ばすには
病気の枠組みを超えた予防を
国立がん研究センターや国立長寿医療研究センターなど、国立高度専門医療研究センター(ナショナルセンター)6機関*で作る研究グループは、2月19日(2021年)、日本人の健康寿命を伸ばすために必要な予防行動等をまとめた提言を公開しています*¹。
健康寿命とは、単なる「寿命」とは違い、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と説明されています。
簡単に言えば、「健康で長生きする」ということです。
そのためには、特定の病気だけを予防していればいいという話ではありません。
年齢や生活状況に応じて、がんや認知症、精神疾患などさまざまな病気の枠組みにとらわれることなく予防に取り組むことが必要です。
本提言は、専門分野の異なる国立高度専門医療研究センターが連携したことにより、日本で初めて、そのための行動がまとめられたものです。
健康寿命と平均寿命の差を短くする
ご承知のように、近年、日本人の平均寿命も健康寿命も、年々伸びてきています。
一方、介護が必要になるなど日常生活に制限のある状態になってから亡くなるまでの健康寿命と平均寿命の差は、男性で8~9年、女性では12~13年と横ばいで推移しています。
この期間を短くすること、つまり健康寿命を伸ばすことが、目下の課題となっています。
研究グループは、6機関が国内で実施したおよそ40万人の追跡調査データの分析等をもとに、健康寿命を延ばすうえで、すでにエビデンス(科学的根拠)は確立済みと判断される予防行動や習慣について、具体的な提言を行っています。
今回はこの提言のポイントを紹介しておきたいと思います。
健康寿命を左右するする
「喫煙」「飲酒」等10項目につき提言
この提言で、健康寿命を左右する予防行動、あるいは習慣として取り上げているのは、「喫煙」「飲酒」「食事」「体格」「身体活動」「心理社会的要因」「感染症」「健診・検診の受診と口腔ケア」「成育歴・育児歴」「健康の社会的決定要因」の10項目です。
タバコは吸わない。他人のタバコの煙を避ける
まず「喫煙」については、喫煙により、がんや循環器病、高血圧、糖尿病、うつ病、認知機能低下や認知症のリスクが増加することを指摘し、「タバコは吸わない」と提言。
受動喫煙の場合も同様に、がんや循環器病、高血圧、糖尿病、呼吸器疾患のリスクが増加するとして、「他人のタバコの煙を避ける」ことを奨励しています。
また、現状では健康への影響が不確かとされている加熱式タバコについては、加熱式タバコを規制対象とすべきとのWHO(世界保健機関)の見解を紹介したうえで、「加熱式タバコも吸わない、煙も避ける」と提言しています。
なお、わが国では、普通の紙巻きタバコ同様に、加熱式タバコからの禁煙治療も、一定の条件を満たしていれば医療保険で禁煙治療を受けられます。
飲むなら節度のある飲酒を。他人にお酒を強要しない
「飲酒」については、過剰飲酒によりがんや循環器病、高血圧、糖尿病のリスクが増加することに加え、アルコール依存症のリスクも増加するとしています。
また、寝酒は早期覚醒(早い時間に目が覚めてしまい、再度眠ることが難しい)や中途覚醒(夜中に何度も目が覚めてしまい、その後なかなか寝つけない)を増やして睡眠の質を低下させると指摘しています。
健康のためには「節酒する。飲むなら節度のある飲酒を心がける」として、男性はアルコール量に換算して約23g(日本酒なら1合)、女性はその半分までを1日あたりの適正飲酒の目安とすること、飲酒する習慣のある人も休肝日を作ることを推奨しています。
また、お酒には体質的に合わない人や飲めない人がいることから、「他人に飲酒を強要しない」ことも提言しています。
心理社会的ストレスの回避と社会関係を保つ
高齢者に注目していただきたいのは、「心理社会的要因」の項目です。ここでは以下の3点が提言としてあげられています。
- 心理社会的ストレスを回避する
- 社会関係を保つ
- 睡眠時間を確保し睡眠の質を向上させる
このうち「社会関係を保つ」の提言では、友人関係や地域社会とのかかわり、グループ活動への参加等々の社会的なつながりを保つことにより死亡全体のリスク、循環器病や糖尿病の発症リスクが低下するとしています。
さらに、日常生活に介護が必要な状態になり、公的介護保険の要介護認定を受けるリスク、また認知機能が低下するリスクも低下すると説明しています。
また、「睡眠時間を確保し睡眠の質を向上させる」の提言では、適度な睡眠時間と質の良い睡眠の確保は、循環器病、高血圧、糖尿病の予防につながる、としています。
高齢者は肺炎双球菌、帯状疱疹を予防する
注目すべきもう一点は、「感染症」の項目です。
ここでは、「肝炎ウイルス」への感染は肝がんの、「ピロリ菌」感染は日本人に多い胃がんの、また女性の場合、「ヒトパピローマウイルス(HPV)」の感染が子宮頸がんの最大のリスク要因であることに言及。
それぞれの感染検査を受け、感染している場合は適切な医療を受けるべきと提言をしています。
加えて高齢者では、インフルエンザや肺炎球菌性肺炎(はいえんきゅうきんせいはいえん)、帯状疱疹(たいじょうほうしん)は、いずれもワクチン接種により予防が期待されることから、ワクチンを接種して予防に努めるよう提言しています。
帯状疱疹ワクチンについては、こちらで詳しく紹介しています。
やせすぎない、太りすぎない、活発な身体活動も
以上に加えて本提言では、以下の予防的行動や習慣が必要だとしています。それぞれの詳細は、順次紹介していきたいと思います。
- 食塩の摂取は最小限に
(男性7.5g/日未満、女性6.5g/未満)
ただし、高血圧の方は1日6g未満が望ましい - 大豆製品を多く摂取する
- 多用な食品の摂取を心がける
- やせすぎない、太りすぎない
- 日頃から活発な身体活動を心がける
- 定期的に健診(健康診断)を受けると同時に、がん検診など、特定の病気を早期発見し、早期治療につなげるための検診を適切に受診する
- 口腔内を健康に保つ
- 社会経済的状況、地域の社会的・物理的環境、幼少期の成育環境に目を向ける
このうち「5」の「活発な身体活動」については、日々の身体活動量が多いほどうつや認知症の発症リスクが低くなることが、研究により確認されていることを紹介。
そのうえで、現状より1日10分(1000歩)でも多く体を動かすことを奨励しています。
参考資料*¹:国立高度専門医療研究センター6機関の連携による「疾患横断的エビデンスに基づく健康寿命延伸のための提言(第一次)」