朝の血圧が高くなる「早朝高血圧」にご用心

血圧測定

脳卒中や心筋梗塞の
リスクを高める早朝高血圧

高血圧のなかには、病院やクリニックの診察室で、あるいは健診時に測定するときは決まって正常範囲なのに、それ以外の場所、とりわけ家庭で測定するときに限って高血圧を示す、というタイプの高血圧があります。

「仮面高血圧」とか「隠れ高血圧」、あるいは「白衣高血圧」と呼ばれるタイプの高血圧がこれにあたります。

このタイプの高血圧の一つに、早朝、起床に合わせるように血圧が高くなる「早朝高血圧」があり、これには「夜間高血圧型」と「モーニングサージ型」の2タイプがあります。いずれのタイプも、早朝に血圧が上昇しているため医師や医療スタッフはなかなか見つけにくいという問題があります。

見逃されてそのまま放置していると、脳卒中や心筋梗塞などを発症するリスクが、一般的な高血圧より高く、要介護状態になるリスクを高めることも指摘されています。

そこで今回は、この早朝高血圧について、早期に発見し早めに治療につなぐために、家庭でできることをまとめてみたいと思います。

早朝高血圧は
朝起きてすぐの血圧が高い

血圧は、健康な方でも「日差変動(「日内変動」とも言う)」と言って、1日を通して緩やかに変動しています。朝起きて活動をスタートすると血圧が上がり始め、夜になるにつれて下降し、睡眠中にさらに低くなるというのが一般的です。

ところが、朝になり起床して活動を始める前に、すでに血圧が上がっていることがあります。これが「早朝高血圧」です。日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン 2019」では、この早朝高血圧を、次のように説明しています。

「診療室血圧(診察室で測る血圧)が140/90㎜Hg未満と正常なのに、早朝(起床後1、2時間以内)に測定した家庭血圧が高い(135/85㎜Hgを超える)場合」。

なお、高血圧の治療を開始する血圧の基準値などについては、こちらをご覧ください。

5年ぶりに改訂された「高血圧治療ガイドライン2019」。基準値は据え置かれたものの、降圧目標値は10㎜Hg引き下げられ、より厳しくなっている。降圧治療の基本は減塩だ。この1日摂取目標量も来年度から0.5㌘減が予定されている。そのポイントは……。

血圧が高い状態が
睡眠中から早朝まで続く

早朝高血圧には、「夜間高血圧型」と「モーニングサージ型」とがあるのですが、前者は「持続型」とも呼ばれます。

まずこの「持続型」、つまり夜間高血圧型の早朝高血圧ですが、本来睡眠中は血圧が下がるはずなのにそれほど下がらず、早朝まで高い状態が持続するタイプです。

睡眠中に血圧が高いままの状態が続くと、心臓や血管に負担がかかりやすく、結果として動脈硬化の進行を早め、脳卒中や心筋梗塞を引き起こすリスクが高まることになると説明されています。心筋梗塞や脳梗塞の症状が現れるのが早朝に多いことからもうなづけるのではないでしょうか。

このような夜間高血圧型の早朝高血圧は、糖尿病や心不全、慢性腎臓病がある方、および睡眠時無呼吸症候群の方に多いとされ、該当する方は注意が必要です。

睡眠中は血圧が下がるが
起床時に血圧が急上昇する

一方のモーニングサージ型の早朝高血圧では、睡眠中はいったん血圧が下がるのですが、明け方の目覚める前から起床時にかけて血圧が急上昇するタイプです。

かつてほどではないものの、日本人に依然として多い脳卒中、および心筋梗塞は、このモーニングサージ型の早朝高血圧との関連性が特に高いとされています。

また、75歳以上の、いわゆる後期高齢者のモーニングサージ型早朝高血圧は、要介護の状態になるリスクを高めることもわかっています。

後期高齢者、および血糖値やLDL(悪玉)コレステロール値が高い方、アルコールを多飲する方に起こりやすいとされ、該当する方は特に注意が必要です。

早朝高血圧の早期発見は
毎日の家庭血圧測定で

早朝高血圧は病院や健診では容易に発見できません。早朝高血圧を見逃さないためには、家庭での血圧測定を習慣化し、その測定データをかかりつけ医と共有して、早期診断、治療につなぐ必要があります。

家庭血圧測定について日本高血圧学会は、「高血圧治療ガイドライン 2019」のなかで、「上腕カフ・オシロメトリック法」に基づく装置(血圧計)を用い、一定の環境・測定条件・測定方法を厳守して測定することを推奨しています。

医療機関で医師らが一般的に採用している血圧測定法は、「聴診法」と言って、聴診器で血管音を聴き取って測定する方法です。しかし、素人がこの方法で血管音を聴取するには技術的な難しさが伴います。

そこで家庭での血圧測定には、聴診法に代わる、より簡便な測定方法として考案されたオシロメトリック法がすすめられているわけです。オシロメトリック法とは、カフで圧迫された血管が心臓の拍動に合わせて起こす振動の変化で測定するもので、市販されている家庭用血圧計の多くがこの測定法を採用しています。

家庭測定用血圧計には、上腕にカフを巻くタイプの血圧計が推奨されていますが、手首血圧計も出回っています。手首タイプは、その使いやすさから人気があるものの、測定値が不正確になりやすいことが指摘されています。
ただ、肥満していて上腕が極端に太くて短いために通常のカフでは上腕を圧迫するのが困難という方には、手首血圧計の使用も考慮すべきとされています。

家庭血圧を正確に測定する
5つの条件

家庭血圧を正確に測定する環境条件として日本高血圧学会は以下の5点をあげています。

  1. 静かで、かつ適当な室温(20℃以上~28℃以下)の環境下で測定する
  2. 原則として、背もたれ付きの椅子に腕を組まずに坐り、1、2分安静にしてから測定する
  3. 測定する間は、家族らと会話を交わさない
  4. カフの位置を心臓の高さに維持できる姿勢で測定する
  5. 測定直前の入浴、喫煙、飲酒、カフェイン入り飲料の摂取を避ける

まず「1」の室温については、特に冬期の、暖房のない部屋での測定は血圧を上昇させるため、暖房のある部屋で測定するよう促しています。

測定は、1日2回、朝と晩に行います。具体的には、「朝」は起床後1時間以内で排尿を終えたあと、血圧の薬を服用している方は朝の薬の服用前、朝食を摂る前に、坐位で1、2分安静にしてから測定します。「晩」の測定は、夕食や入浴などすべて終えて就寝する直前に、やはり坐位で1、2分安静にしてから測定します。

測定は、原則として利き手と反対側の両方で測定し、1機会(1度の測定時)に原則2回測定し、その平均値をそのときの測定値として記録します。時間の都合などで1機会に1回しか測定できなかったときは、その1回の測定値をそのときの血圧として記録します。そのときどきの測定値に一喜一憂しないことも大切です。

日本高血圧学会作成の家庭血圧測定パンフレットの活用を

家庭血圧測定の重要性とその正しい測定法については、日本高血圧学会がA4版1ページにポイントをまとめた「家庭で血圧を測定しましょう」を作成しています。同学会のWebサイからダウンロードできます。日々の血圧測定に活用してはいかがでしょうか。

また、家庭血圧測定の記録ノート(表)は、健康保険組合連合会(けんぽれん)、あるいはOMRONなどのWebサイトから無料でダウンロードできます。

なお、早朝高血圧と診断された場合は、特に冬期は急激な温度差による血圧の変動、いわゆる「ヒートショック」に特に注意が必要です。

2022年9月、スマートフォン用「高血圧治療補助アプリ」に公的医療保険が適用されています。主治医からアプリ治療の処方コードを受け取り、自分のスマートフォンにアプリをダウンロードすればOK。臨床試験(治験)では、このアプリを使用しなかった人と比べると降圧効果があったとのこと。ご自分の高血圧にこの治療補助アプリが適用か否かは主治医にお尋ねください。

血圧対策に減塩に加え「高GABAトマト」も

また、医師の指示のもとに減塩を中心とする食生活の見直しなどをしていくことになりますが、高めの血圧改善にはアミノ酸の一種である「GABA(ギャバ)」を強化した「高GABAトマト」がいいという話をこちらで書いています。参考にしてみてください。

最近人気の栄養成分「GABA(ギャバ)」に高めの血圧を下げる効果があることをご存知だろうか。GABAは一部の生鮮野菜や果物などに含まれるが、トマトについては、GABA成分を強化した機能性表示食品やゲノム編集による「高GABAトマト」が血圧対策に活用できる。

参考資料*¹:日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン 2019」

参考資料*²:日本高血圧学会「家庭で血圧を測定しましょう」