自覚しにくい「口臭」ですが、あなたは大丈夫?

ニオイ

この記事は2023年3月20日に更新しています。

高齢者の10人に4人は
口が臭いと言われますが

毎週1日だけ、午後の3時間ほどを「口臭外来」にして、患者さんの口のニオイに関するさまざまな悩みに対応している歯科クリニックの医師を取材した時のことです。

近年の抗菌グッズブームに象徴されるように、人々の清潔志向が高まるにつれ、自らの口臭を気にし、真剣に悩んで相談に訪れる患者さんが年々増えているのだそうです。

そんな患者さんのなかに、総合病院の内科病棟に勤務する20代の看護師さんもいるという話をしてくれました。

その病棟には高齢の患者さんが多く、なかには思わず顔をそむけたくなるような強い口臭を発する人がいて、その口臭に悩まされているうちに、自分にも口臭があるのではないかと気になりはじめて口臭外来に通うようになったというのです。

確かに高齢者には口臭が強い方が多いと言われます。また、「高齢者の10人に4人は口が臭い」というデータもあると聞きます。

とはいえ、「顔をそむけたくなる」ほどの口臭がする高齢者はそうはいないだろうと思うのですが、あなたは大丈夫でしょうか。

口臭で圧倒的に多いのは
誰にでもある生理的口臭

ご承知のように、口臭には病的なものもありますが、その多くは生理的なものです。

年齢の別なく、何の問題もなく健康に過ごしていても、起床時や空腹時などには、程度の差こそあれ誰にでも多少の口臭があるものです。

女性であれば、生理(月経)の時期や妊娠時、閉経期などには、ホルモンバランスの変化が影響して、生理的口臭が強くなることもあるでしょう。

あるいは強いストレスや緊張が続くようなときも、いつもは自分では気づかずにいた口臭が気になってくるということもあります。

口腔内の常在菌による生理的口臭

いずれも生理的口臭の範疇と考えられ、そのほとんどは口の中の常在菌(じょうざいきん)、つまり口の中で日常的に生息している細菌が原因と考えていいでしょう。

その数は、唾液1㏄あたり700億個に及ぶともいわれています。
それらの細菌は、歯みがきやうがいなどで口腔内を洗浄すればほぼ半減はするものの、30分もすると、また元の数に戻ってしまうそうです。

と言っても、それがすぐに生理的口臭につながるというわけではないようです。

私たちの口の中は、唾液腺から分泌される唾液の自浄作用などにより、常在菌がさらに増殖したり変質することなく、体にとって有益な働きをする善玉菌と悪さをする悪玉菌が一定のバランスを保つように調整されているからです。

ドライマウスによる
生理的口臭は水分補給で防ぐ

ところが、唾液の分泌量が減り口腔内が乾燥して「ドライマウス(口腔乾燥症)」と呼ばれる状態になると、話は変わってきます。

歯周病に代表されるような口臭の原因となる病的な問題がなくても、乾燥した口腔内で悪玉菌が増えすぎると、口臭を発するようになります。

また、高齢になると唾液分泌機能の低下により、このドライマウスの状態に陥りやすくなるとも言われています。

そのため、どうしても生理的口臭が出やすくなるのですが、こまめに水分を補給するとか、うがいの回数を増やすなどして唾液量を増やして口腔内が乾燥しないようにしていれば、防ぐことができます。

特に冬期などは、加湿して室内が乾燥しないようにすることもドライマウスによる生理的口臭予防につながります。

最近は食後の歯みがきを、洗口液によるマウスウォッシュだけで済ます方が増えているようですが、完全を期すなら、ブラッシングが不可欠です。

また、入れ歯やブリッジ、差し歯などを使用している方は、さらに小まめに対応する必要があるでしょう。

病的口臭の90%以上は
口腔内の病気が原因

一方、周囲の人から敬遠されるような強い口臭のなかには、病的なものもあります。

病的口臭はその90%以上が歯周病やむし歯、歯肉炎など口腔内の病気によるものです。

病気の範疇に入るかどうか疑問が残るところですが、歯の表面に付着している歯垢(しこう)や歯石(しせき)、舌苔(ぜったい)、つまり発熱したときなどに舌の表面に付着している白っぽい細菌の固まりが病的口臭を引き起こすこともあります。

加えて病的口臭としては、副鼻腔炎(ふくびくうえん)や咽頭炎、喉頭炎といった耳鼻咽喉科領域の疾患、さらには糖尿病や腎臓病、肝臓病のような、全身性の病気が原因となって口臭が発生することもあります。

これらのうち糖尿病では、「アセトン臭」と言って、りんごや柿が熟したような甘酸っぱいニオイが、また腎臓や肝臓の病気では、ツンと鼻をつくような「アンモニア臭」がするのが特徴的です。

強い口臭は病気のサインのことも

このような強い病的口臭は、ときに病気の発見につながることがあります。

また、口臭が病気の進行具合を知らせるサインということもありますから、むやみにニオイを消すことだけを優先的に考えるのは避けたほうがいいでしょう。

自分で口臭が気になるときや、家族などから強い口臭を指摘されるようなことがあったら、一度かかりつけ医にその旨を話し、その口臭が何によるものなのか原因を明らかにしたうえでニオイ対策をとるようにしたいものです。

服用している処方薬が
口臭の原因のことも

かかりつけ医から処方されて服用している治療薬のなかには、唾液の分泌を抑える作用のものがあり、これがドライマウスによる口臭を引き起こすこともあります。

たとえば胃潰瘍や十二指腸潰瘍の治療薬、高血圧の方に処方されることの多い降圧薬、気持ちが落ち込んだときなどに処方される抗うつ薬、またパーキンソン病治療薬などでもドライマウスによる口臭が生じることがあります。

処方薬を飲み始めてからドライマウスや口臭が気になるようになったら、処方医や薬剤師にその旨伝え、薬の影響かどうか確認してみるといいでしょう。

また、明らかに服用している処方薬の影響とわかったら、薬そのものを変更してもらう必要もあるでしよう。

口臭のセルフチェックはほどほどに

なお、口臭をセルフチェックする方法としては、ブレスチェッカー  タニタのような市販の口臭チェッカーを使う方法や歯垢を取った後の歯間ブラしのニオイをかいでみる、口臭チェックアプリを活用するなど、いろいろな方法がネット上でも紹介されています。

ご自分に合った方法でチェックされるのがいいと思いますが、あまり気にし過ぎて、かえってそのことが口臭の原因となることもありますから、チェックはほとほどにー―。

口臭が気になって仕方がない方は「歯科心身症」かも

口臭が気になって仕方がないという方の中には、周りの人が自分の口臭を感じているわけでもないのに、あるいは口臭チェックで「口臭なし」の結果がでているのに、口臭があると思い込んで悩んでいる方がいます。

このような「歯科心身症」が疑われる場合は、ストレスで胃潰瘍になるような心身症同様に、心身両面からの治療を受ける必要があります。詳しくはこちらを。

ストレスによる胃潰瘍があるように、ストレスなどが原因で歯や口の症状に悩まされることがある。そんなときは「歯科心身症」と捉え、心身両面からの治療が必要になる。幼児体験の影響で、怖くて歯科治療を受けられないという方も、歯科心身症としての治療を。