心不全療養指導士が誕生したのをご存知ですか

心不全

急増する心不全患者に
療養指導のプロフェッショナル

心不全の患者さんに対する療養指導のプロフェッショナルとして、「心不全療養指導士」が2020年度から活動をスタートさせていることをご存知でしょうか。

心不全療養指導士とは、病院内はもちろん在宅をはじめとする地域医療のさまざまな現場において、医療スタッフが質の高い療養指導を行って心不全の方をサポートすることを目的に、日本循環器学会が創設した学会認定資格です。

現時点で日本人の死因のトップは悪性新生物、つまり「がん」ですが、75歳以上の、いわゆる後期高齢者に限ると、心臓病で亡くなる方が徐々に増えていて、90歳以上では、心臓病が死因のトップになっています。

この先高齢者人口が増え続けるのは確かですから、あらゆる心臓病の終末像とされる心不全の患者さんが急増することは、ほぼ間違いないところでしょう。

そこで、心不全療養指導士が心不全の患者さん一人ひとりに、また一緒に生活、あるいは介護をしているご家族の方に日々の生活面で気をつけるべきことを直接伝え、実行していただく支援をすることで、心不全の進行にブレーキをかけ、悪化を防いでいこうというわけです。

心不全の悪化要因は
普段の生活のなかに潜んでいる

心不全で治療中の方は先刻ご承知と思いますが、心不全というのは病名ではありません。あえて言えば、「症候群」です。

狭心症や心筋梗塞、あるいは不整脈といった心臓の病気により、心臓のポンプ機能が低下し、全身のあらゆる臓器に必要なだけの血液を送り届けることができなくなった状態を総称して「心不全」と呼んでいるわけです。

心不全は、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら徐々に進行していきます。

ただ、その悪化要因は普段の生活のなかに潜んでいることが多く、普段の過ごし方次第で、心不全の進行にブレーキをかけるのも不可能ではないことがわかっています。

心不全との付き合い方を
心不全療養指導士が個別指導

心不全を悪化させないように上手に付き合いながら生活していくポイントとして、日本心不全学会と日本循環器学会が心不全の患者さんとそのご家族向けに作成した「心不全手帳*」には、以下の点があげられています*¹。

  1. 栄養バランスのよい食事を心がけるとともに、塩分や水分の摂りすぎに注意する(減塩目標は1日6g未満に)
  2. 便秘による排便時のいきみは血圧を上げて心臓に過度の負担をかける。
    食物繊維の多い野菜類の摂取などにより便通を整え、便秘が長引くようなら医師に相談して酸化マグネシウム製剤など緩下剤の処方を受ける
  3. 医師から処方された薬は指示された用法・用量を守って服用し、飲み忘れを防ぐ
  4. 適度な運動(歩行などの有酸素運動)は心臓の負担軽減につながるが、息切れをするような激しい運動をして心臓に負担をかけすぎない
  5. 定期的に通院し、通院を中断しない
  6. 生活習慣の見直しと日頃の体調管理を徹底して、血圧の上昇や貧血、不整脈を招かないようにするとともに、禁煙、節酒、およびストレスをためこまないように心がける

今回誕生した心不全療養指導士は、以上のような悪化要因を避けることを中心に、患者さん一人ひとりが病気になる前まで続けてきた生活スタイルに沿った、できるだけ無理のない心不全との付き合い方を一緒に考え、指導してくれるはずです。

たとえば、「心不全になったから」とそれまで長年続けてきたスポーツや趣味などはあきらめるしかないと考えている方が多いと聞きます。

このような患者さんに対して心不全療養指導士は、心臓に過度の負担がかからない範囲でできる方法を一緒に考え、工夫することで、患者さんがやりたいことを続けられるようにサポートもしてくれるはずです。

心不全に伴う苦痛やつらさに対する緩和ケアも

また、心不全が進行すると、息切れや息苦しさ、むくみといった症状が悪化して緩和ケアが必要になってくることもあります。

心不全療養指導士は、この場合の緩和ケアについても基本的な知識を備えていて、適宜対応してくれるはずです。

詳しくはこちらの記事を是非一度読んでみてください。

緩和ケアはがん患者のためのものと考えがちだが、そうではない。心不全に伴う息苦しさなどの苦痛やつらさを和らげるためにも緩和ケアが欠かせない。緩和ケアの目的は同じだが、症状が異なるようにケア内容も違ってくる。ただ、我慢しないでつらさを伝えることの大切さは同じだ。
*心不全手帳は、循環器系の診療科を中心に医療機関(病院、診療所、クリニック)で無料配布されていますから、まだお手元にない方は主治医か担当の看護師さんに尋ねてみてください。あるいは、日本心不全学会のホームページから自由にダウンロードすることもできます。
内容については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
心不全については、あらゆる心臓病の終末像として説明されることが少なくない。しかし、心不全が仮に慢性化するようなことがあっても、専門学会作成の「心不全手帳」を活用してセルフケアを徹底すれば、悪化にブレーキをかけることはできる。この手帳の概要を紹介する。

さまざまな職種の医療職が
心不全療養指導士に

心不全療養指導士として活動するには、日本循環器学会が年に1回行う認定試験を受験して合格する必要があります。

その受験資格には、「医療・福祉領域の国家資格を有すること」という条件があります。

具体的には、医師を除く、看護師、保健師、理学療法士、作業療法士、薬剤師、管理栄養士、公認心理師、臨床工学技士、歯科衛生士、社会福祉士、いずれかの有資格者で、現在、心不全患者の療養指導に従事していることが求められています。

受験に際しては、総視聴時間6時間余りに及ぶ認定試験学習用のe-ラーニングを受講することや体験した症例のレポート5事例を提出することなど、厳しい条件があります。

2020年と2021年に実施された認定試験により、現時点で3420人の心不全療養指導士が活動をスタートさせています。

最寄りの心不全療養指導士は名簿で検索を

合格者、つまり「心不全療養指導士」の有資格者については、日本循環器学会のホームページにある「心不全療養指導士名簿」にて「都道府県別」に検索することができます*²。

かかりつけの医療機関、あるいは最寄りの医療機関に心不全療養指導士がいるかどうかチェックしてみてはいかがでしょうか。

また、心不全療養指導士の有資格者は、白衣に「CERTIFIED HEART FAILURE EDUCATIOR OF JAPAN」と書かれた小さなバッチを着けていますから、すぐにわかると思います。

療養生活上の不安な点や困っていることがあったら、是非一度相談してみてください。

参考資料*¹:日本心不全学会「心不全手帳 第2版」

参考資料*²:日本循環器学会「心不全療養指導士名簿」