禁煙治療費を助成する自治体が増えています

禁煙

「受動喫煙のない社会」のために
禁煙治療を自治体が応援

健康への影響を気にしながらも喫煙し続けている方は、毎年5月31日が世界ノータバコデー(わが国では「世界禁煙デー」)であることをご存知でしょうか。厚生労働省は5月31日から6月6日までを禁煙週間とし、「たばこの健康影響を知ろう! ~望まない受動喫煙のない社会を目指して~」を今年(2023年)のテーマに決定しています。

2022年4月1日から成年年齢が引き下げられています。しかし喫煙に関する年齢制限は引き続き20歳以上とされています。この点を踏まえ、今年の禁煙週間は、喫煙開始年齢と健康影響の因果関係について、以下の2点を中心に、若年層を中心とする広く一般にメッセージを伝える機会としています。

  1. たばこと健康に関する正しい知識の普及
  2. 公共の場・職場における受動喫煙防止対策

医療のサポートを受けながら
医療保険で禁煙治療を

このところやや減少傾向にあるとはいえ、わが国の成人喫煙率、つまり習慣的に喫煙している人の割合は、男性で27.1%、女性で7.6%もあるという喫煙大国です。喫煙による健康被害は、今や医学的にも明らかにされ、その科学的根拠についてもさまざまなかたち、またさまざまな場所で盛んにアピールされています。

にもかかわらず、そのことにあえて目を向けようとしない喫煙者、あるいはいったんは禁煙に挑戦したものの途中で挫折した喫煙者がまだ多く、「受動喫煙のない社会」には未だほど遠いのは残念というほかありません。

禁煙治療を医療保険で、オンライン診療も

たばこに含まれるニコチンには、常に「依存」という問題が伴います。依存とは、一言で言えば「やめたくても、やめられない」ということ。ですから自力だけで禁煙しようとしても、残念ながら途中で頓挫してしまうのがおちです。

幸いなことに私たちの国では、一定の条件を満たしさえすれば、公的医療保険の自己負担分だけで医療機関の禁煙外来でサポートを受けながら禁煙治療を受けることができます。

しかも2020年4月からは、12週間に5回行われる禁煙治療のうちの初回と最終回は医師との対面治療(医師と患者が直接会って診療を行うこと)ですが、それ以外の回については、スマートフォンなどによるオンラインでも治療を受けることができるのです。

禁煙週間を機に、改めて禁煙を決意する方もいらっしゃるでしょう。そんな方のために、保険診療による禁煙治療や一部の自治体が実施している禁煙治療費を助成(補助)制度を紹介しておきたいと思います。

医療保険による禁煙治療で
満たすべき4条件とは

医療保険で禁煙治療を受けるためには、以下に示す4条件のすべてに該当し、担当医がニコチン依存症の管理が必要と診断することが必須条件です。この条件を満たせば、12週間のうちに5回行われる禁煙治療に医療保険が適用されることになっています。

  1. 「ニコチン依存症のスクリーニングテスト(TDS)」における得点が5点以上で、「ニコチン依存症」と診断された人
  2. 35歳以上で、喫煙による健康リスクを示す「ブリクマン指数(1日に吸うたばこの平均本数×喫煙していた年数の数式で割り出す)」が200以上の人
  3. 直ちに禁煙することを希望している人
  4. 「禁煙治療のための標準手順書」に基づく禁煙治療法について担当医から説明を受け、その内容を理解し、納得したうえで、禁煙治療を受けることを文書により同意している人

気になる保険適用後の自己負担額は?

ちなみに、医療保険が適用された場合の自己負担額は、治療に使用するニコチンパッチなど禁煙補助剤の種類や使用量などにより多少異なりますが、医療保険の自己負担割合が3割の方のなら、13,000~20,000円ですみます。ところが全額自己負担の場合は、おおむねその3倍強の60,000円ほどになります。

なお、禁煙学会がまとめた禁煙治療に医療保険が使える禁煙外来・禁煙クリニックはコチラ*¹をご覧ください。

禁煙治療費については2020年4月より、治療の途中で挫折してしまう人を極力減らす狙いもあって、5回分の治療費(自己負担分)を初回に一括して支払うと、個別に支払うよりも若干安くなる仕組みが新たに導入されています。

一部の自治体が禁煙治療費を助成

2023年の禁煙週間のテーマは「受動喫煙のない社会」ですが、この受動喫煙を防ぐ観点から、喫煙者と同居する子どもや妊婦を受動喫煙から守ろうと、禁煙治療費を助成する自治体が、このところ徐々に出てきています。

大阪府大東市、静岡県三島市、栃木県小山市、東京都港区・豊島区・足立区、石川県金沢市などです。助成額は、なかには自己負担分の半額のところもありますが、おおむね1~2万円を上限としているところが多いようです。

この禁煙治療費助成制度を設けている自治体リスト*²は、禁煙学会のホームページにあります。助成を希望する方は、禁煙治療を開始する前に必要な手続きについて、最寄りの役所の医療保険課や健康増進課などの窓口に問い合わせてみてください。

ニコチン依存症かどうかがわかる
スクリーニングテスト

治療費への医療保険適用に必要な上記3条件の「1」にある「ニコチン依存症のスクリーニングテスト(TDS)」は、以下の10項目の質問に「はい(1点)」「いいえ(0点)」で答えていく検査です。

全問答えたうえで、合計得点(「TDSスコア」と言います)が5点以上であれば「ニコチン依存症」と判定されるというものです。なお、質問に対する答えがいずれにも該当しない場合は、0点としてカウントされます。

  1. 自分が吸うつもりよりも、ずっと多くたばこを吸ってしまったことがありましたか
  2. 禁煙や本数を減らそうと試みて、できなかったことがありましたか
  3. 禁煙したり本数を減らそうとしたときに、たばこがほしくてほしくてたまらなくなることがありましたか
  4. 禁煙したり本数を減らしたときに、次のどれかがありましたか(イライラ、神経質、落ちつかない、集中しにくい、ゆううつ、頭痛、眠気、胃のむかつき、脈が遅い、手のふるえ、食欲または体重の増加)
  5. 上記の質問でうかがった症状を消すために、またたばこを吸い始めることがありましたか
  6. 重い病気にかかったときに、たばこはよくないとわかっているのに吸ってしまったことがありましたか
  7. たばこのために健康問題が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか
  8. たばこのために自分に精神的問題(いわゆる禁断症状ではなく、喫煙することによって神経質になったり不安や抑うつなどの症状が出ている状態)が起きているとわかっていても、また吸うことがありましたか
  9. 自分はたばこに依存していると感じることがありましたか
  10. たばこが吸えないような仕事やつきあいは避けることが何度かありましたか

喫煙による健康リスクがわかる
ブリクマン指数

医療保険適用条件「2」のブリクマン指数とは、喫煙による健康リスク、つまり喫煙が喫煙者自身の健康に及ぼす影響がわかる指数で、「1日に吸うたばこの平均本数×喫煙していた年数」で割り出します。

この値が高くなるほど、吸い込むたばこの煙に含まれる有害物質(ニコチン、タール、一酸化炭素、発がん物質など)による健康被害のリスクが高まると考えられています。ただ、たばこの種類や吸い方によりこの値は微妙に違ってきますから、ブリクマン指数だけで健康リスクを正確に把握することはできませんが、一応の目安として次のように考えられています。

  • ブリクマン指数が400を超えると、肺がんの発症リスクが高くなる
  • ブリクマン指数が600を超えると、肺がんに加え肺気腫などの慢性閉塞性肺疾患(いわゆるCOPD)の発症リスクが高くなる
  • ブリクマン指数が1200を超えると、肺がん、慢性閉塞性肺疾患に加え喉頭がんの発症リスクも高くなる

加熱式たばこも禁煙治療の対象に

一方、加熱式たばこについても、2020年4月からは医療保険で禁煙治療が受けられるようになっています。詳しくはこちらを。

今回の診療報酬改定により、2020年4月から医療保険が使える禁煙治療の対象に、加熱式タバコが加えられた。また、12週間に5回行われる治療の初回と最終回は従来通り対面診療だが、2~4回はスマホなどによるオンライン診療も可能となった。その詳細をまとめた。

参考資料*¹:禁煙治療に医療保険が使える禁煙外来・禁煙クリニック

参考資料*²:禁煙治療費助成の自治体