抗がん剤治療を受けるかどうかで迷ったら

医師と相談

抗がん剤治療の提案を受け
まず気になった副作用

抗がん剤治療の提案を受けてまず頭に浮かぶのは、副作用の問題でしょう。

胃がんで、腹腔鏡(ふくくうきょう)と呼ばれる内視鏡による胃切除術を受けた知人によれば、手術が終わったすぐに、担当医から次のように言われたときも、とっさに考えたのは副作用のことだったそうです。

「手術はうまくいきましたが、がんが再発するのを予防するために、補助的に抗がん剤による化学療法を併用する方法もありますが、どうしましょうか」

抗がん剤による治療を受けた同僚の話を聞いたり、ネット上で闘病手記を読んだりしてみると、当然個人差はあるものの、かなりつらい副作用があることがわかります。

なかには、「抗がん剤の副作用が強すぎて、食事がいっさい喉(のど)を通らず、すっかり衰弱してしまった。こんなことなら化学療法など受けなければよかった」といった書き込みさえあります。

迷った挙句、「セカンドオピニオン*を受けてみようと思うのだが、どうだろうか」と相談を持ち掛けられました。

これに私は、セカンドオピニオンも悪くないが、その前に、担当医と改めてきちんと話し合ってみてはどうかと、提案しました。

なお、最近はパソコンやスマホを介してオンラインで患者からの相談を受け付ける「オンラインセカンドオピニオン外来」を設置する医療機関も増えつつあります。

治療法などについてセカンドオピニオン(主治医以外の意見)を聞いてみたいが、相談したい医師が遠方といった場合、オンラインで相談できるようになっている。セカンドオピニオンの基本と、この「オンラインセカンドオピニオン」の受け方について、ポイントをまとめた。
*セカンドオピニオンとは、担当医(主治医)以外の医師から治療法などについて話を聞くことをいう。より的確な見解を得るには、担当医による紹介状と検査データなどを持参し、自分の病状を知ってもらうことが大切。担当医に内緒でデータなどなしで別の医師を受診しても得られる意見には、適正さに限界がある。

抗がん剤治療を受けるうえで
大切なことを事前に知っておく

こうした私の提案に、「担当医と話し合うって言っても、何を、どう聞いたらいいのか、どうしても躊躇してしまう」という知人――。

そこで、「ここを読んで参考にしてはどうかしら」と紹介したのが、静岡県立 静岡がんセンターの公式Webサイト上にある「がん体験者の悩みQ&A」コーナー*¹です。

そこにある「悩みと助言」のなかで、「抗がん剤治療を受けるかどうか、副作用に対してどの程度まで体力が持つのか心配した」という体験者の悩みに対する「助言」が紹介されています。

この助言では、まず「抗がん剤治療へのイメージ」と題して、抗がん剤治療には、「髪が抜ける」とか「吐く」といった副作用に関するマイナスイメージが先行しがちですが、現在では、副作用を最大限抑える工夫や対応が行われていることを紹介しています。

また、同じ薬であっても患者によって副作用の現れ方は異なること、副作用は抗がん剤の影響ず起こるものであり、薬の影響がなくなれば副作用は改善することも説明しています。

抗がん剤治療を受けるうえで大切なこと

そのうえで、事前に知っておきたい「抗がん剤治療を受けるうえで大切なこと」として、おおむね以下の点が列記されています。

  • 抗がん剤治療中に起こり得る自分の体調の変化を理解する
  • 症状の変化や気になる点があればメモしておき、診察時に担当医や看護師に伝える
  • つらいことや不安なこと、困ったことがあれば、担当医や看護師など医療チームのスタッフに遠慮なく相談する
  • 担当医や看護師等医療スタッフの助言やサポートを受けながら、副作用を予防したり、副作用によるつらさを軽くするための工夫をする
  • 日々の生活リズムを調整する
  • 体がつらいときは、家族や友人などにもサポートしてもらう

自分はなぜ迷っているのか
問題を整理し担当医と話し合う

また、抗がん剤による治療を受けるかどうか決めかねて、迷ったり悩んだりしている理由としては、大別して以下の2点が考えられるとし、自分の場合はそのいずれなのかを考え、問題を整理してみるようすすめています。

  1. 抗がん剤の副作用による体へのダメージが不安で、治療を受けるかどうか迷っている
  2. 抗がん剤治療そのものへの漠然としたマイナスイメージがある

そのうえで、迷う理由がいずれであっても、担当医から提案されている治療について十分な説明を受けてきちんと理解し、決めかねている理由についても正直に伝えたうえで、最終的には自分の意思で決めるように促しています。

担当医との会話のパイプ役として看護師を活用

なお、担当医から提案されている抗がん剤治療について話し合い、理解を深めていくうえで、会話が途切れがちだったり、自分が考えたり迷ったりしていることをなんとかわかってもらおうとしてもなかなかうまく伝わらない、と感じることも少なからずあるでしょう。

そのようなときは、常に側にいてくれる看護師を医師との会話のパイプ役、あるいは通訳として活用するのも一つの方法です。

この点について詳しくは、こちらの記事を読んでみてください。

自分の病状や予後の見通しを知るには、医師とのコミュニケーションが不可欠ですが、とかくズレが生じがちです。わかり合うためには「すぐにその場で質問をしてほしい」と医師。同時に、患者と医師のパイプ役を託せる看護師を活用するのも一法です。

また、最近増えている「看護外来」で、がん化学療法について副作用症状の緩和やセルフケアに精通した「がん化学療法看護認定看護師」に相談するのもいいでしょう。

長期にわたり医療的かかわりが必要な、いわゆる「慢性疾患患者」の増加に伴い、その療養生活について個別支援を行う「看護外来」や「看護専門外来」に注目が集まっている。そこで受けられる支援の内容、予約の手続法、かかる費用などについて概要をまとめた。

あるいは、全国にある「がん相談支援センター」を活用するのも一法です。

がんには病気のこと、治療のこと、仕事のこと、予後のこと等々、悩みごとが多い。1人で悩む前に、全国に設置されている「がん相談支援センター」に相談してみることをすすめたい。誰でも無料で、希望すれば匿名でも専門家のアドバイスを受けることができるのが魅力だ。

担当医との話し合いで
抗がん剤治療について理解する

抗がん剤治療を希望するかどうかについて意思決定するまでの過程で、担当医に「何を聞けばいいのか」という知人の疑問が残っています。

この点については、神戸大学医学部の木澤義之教授らの研究チームが、厚生労働省の委託を受けて作成した「アドバンス・ケア・プランニング」に関する冊子*²を参考に、以下の点について質問し、確認してみてはどうかと伝えました。

ちなみにアドバンス・ケア・プランニングとは、いわゆる「人生会議」のことです。

  1. 自分の今の状態で抗がん剤治療を受けると、どのようなメリットがあるのか
  2. 自分の今の状態で抗がん剤治療を受けるリスクやデメリットはどうか
  3. 抗がん剤治療に代わる治療法にはどのような方法があるのか
  4. 抗がん剤治療を受けると、自分の生活にどのような影響があるのか
  5. 抗がん剤治療を受けた場合、この先どのような経過が予測されるのか

知人がこの先、どのような意思決定を下すのか、またそこに至るまでの担当医とのやりとりなど、その辺の経緯については、また改めて紹介できたらと思っています。

参考資料*¹:静岡県立 静岡がんセンター がん患者の悩みQ&A

参考資料*²:厚生労働省「これからの治療・ケアに関する話し合い――アドバンス・ケア・プランニング」