ノロウイルスの流行期と牡蠣のシーズン

オイスター

本ページはプロモーションが含まれています。

11月15日(2023年)、焼き肉の外食店で食事した客からノロウイルスが検出されたことが報じられています。ノロウイルスと言えば、もっぱら「牡蠣(カキ)」が原因のケースが多いのですが、牛も、豚も、ときに野菜も……。ご注意ください。

ノロウイルスの流行と
牡蠣シーズンの因果関係は?

木枯らしが身に染みる時節の到来とともに、牡蠣(かき)のシーズンが始まります。牡蠣は「海のミルク」と呼ばれるように、ミルク(牛乳)と大差なく栄養価の高いことでつとに知られています。

低脂肪、高たんぱく質に加え、ビタミン類も、またカルシウムやマグネシウム、亜鉛といったミネラル類も豊富に含まれています。

とりわけ注目されるのは、ミネラルのなかでも味覚との関係が深い亜鉛が多いことです。その含有量は抜群で、普通サイズの牡蠣3個で、1日の亜鉛摂取推奨量をほぼ補うことができることから、味覚に異常を感じている方には見逃せない食材です。

ところが、ちょうどこの時期は、ノロウイルスによる感染性胃腸炎、いわゆる食中毒が、年間を通して最も発生しやすいシーズンです。

折しも厚生労働省食品安全情報の公式X(ツイッター)では、「11月から特にご注意!」と題してノロウイルスが流行期を迎えたとして、注意喚起を促しています。

このノロウイルスによる食中毒については、「牡蠣で感染する」との情報がメディアで盛んに取り上げられ、生牡蠣はもちろん、牡蠣グラタンや牡蠣鍋といった牡蠣料理まで敬遠されがちになるといったことがありました。

果たして両者の関係はどうなっているのでしょうか。安心して牡蠣を食したいとの思いから、その辺のことをざっと調べてみました。

きちんと加熱調理した牡蠣なら
ノロウイルスは死滅している

環境リスク制御と水処理工学の観点からノロウイルス感染について研究を重ねておられる東北大学の佐野大輔准教授によれば、ノロウイルスは、牡蠣のように左右に1対2枚の貝殻をもつ、いわゆる二枚貝の中から見つかることが多いのだそうです。

ノロウイルスによる食中毒は、この、ノロウイルスに汚染された牡蠣などの二枚貝を食べることにより発症するケースが、少なくないようです。

ただそれは、保健所が指定した海域で獲れた生食用の牡蠣ではなく、それ以外の海域で捕獲した加熱調理用の牡蠣を生のまま、あるいは加熱不十分な調理済み牡蠣を食べた場合の話です。

牡蠣の肉の中央部分に90℃の熱がきちんと届く状態で、少なくとも90秒間加熱調理したものであれば、ノロウイルスは活性を失っていますから、食べても安全だといわれています。

ノロウイルス感染者の糞便・吐物処理に課題が

ところで、海水中に生息している牡蠣などの二枚貝がノロウイルスに汚染されるのは、当然のことながら、その海水自体がノロウイルスに汚染されているからです。では、その海水中のノロウイルス自体はいったいどこからやってきたのかという話になります。

ノロウイルスは、人間の小腸以外の場所では、感染したり増殖したりすることができないと考えられています。ですから、私たち人間がおおもとの感染源なのです。

つまり、感染者が排泄するノロウイルスを含む糞便や吐物が、汚水となって下水管から下水処理場を経て川に放流され、海までたどり着くという経路をたどるわけです。

アルコールでは死滅しないノロウイルス

ご存知のように、現在、わが国の下水処理場ではかなり厳密な浄化処理が行われていて、その精度の高さは世界一とさえいわれるほどです。

ところが、ノロウイルスには普通の細菌やウイルスにある脂肪の膜がないために、アルコールなどで消毒・殺菌しても、完全に死滅させることは難しいようです。

そのため、下水処理場の浄化プロセスをなんなくかいくぐり、生き残ったノロウイルスが、海に生息している牡蠣に取り込まれ、その牡蠣を食べた人間が、ノロウイルスによる感染性胃腸炎を起こす、といったメカニズムになっているわけです。

したがって、この悪循環のサイクルを断ち切って感染を食い止めるには、ノロウイルスに感染した人の糞便や吐物の処理を漏れなく厳密に行う必要があるということです。

ノロウイルス対策の基本は
次亜塩素酸ナトリウムによる消毒

では、このノロウイルスに対する感染対策はどうするかです。

国立感染症研究所感染症情報センターのホームページにある「ノロウイルス感染症とは」を見ると、「ノロウイルスの粒子は、胃液の酸度(pH 3)や飲料水に含まれる程度の低レベルの塩素には抵抗性を示す。また60℃程度の熱には抵抗性を示す」とあります。

ちなみに「飲料水に含まれる塩素」ですが、たとえば水道水の残留塩素濃度は、各家庭の蛇口(給水栓)で、1リットルあたり0.1㎎(0.1ppm)以上の濃度を保持していることが、水道法により義務づけられています。

しかしこのレベルではこ、ノロウイルスはなんなく生き延びてしまいます。ノロウイルス粒子の特性を踏まえると、その感染性を奪うには、「次亜塩素酸ナトリウムなどで消毒するか、85℃以上で少なくとも1分以上加熱する必要がある」ということです。

ちなみに、ノロウイルス対策としての調理器具や食器などの消毒には、手近な次亜塩素酸ナトリウムとして知られる、キッチン泡ハイター がいいということになります。

その具体的な方法は、厚生労働省のホームページ(コチラ)で詳しく紹介されていますので、是非参考にしてください。

床に落ちたノロウイルスが乾燥して飛沫感染も

なお、床などに落ちたまま放置されたノロウイルスは、乾燥すると容易に空中に舞い、これが口に入って感染することがあるようです。つまり飛沫感染の可能性もあるということです。

また、ノロウイルスの感染による嘔吐や下痢などの症状が消失した後も、数週間は糞便中へノロウイルスの排出が続き、場合によっては1か月以上続くこともあるそうです。

身近でノロウイルスによる食中毒が発生したようなときは、新型コロナウイルスの感染対策同様、石けんと流水による入念な手洗いを、くれぐれも怠りなく。

保健所や都道府県から出される
感染症情報に敏感に

ノロウイルスなどによる「感染性胃腸炎(食中毒)」は、「感染症法」では、麻疹やウイルス性肝炎、梅毒、破傷風などと同じ5類感染症に分類されています。

流行状況を迅速に把握して蔓延化を防ぐ対策の第一歩として、あらかじめ指定されている医療機関で患者を診察した医師は、最寄りの保健所へ届け出ることが義務づけられています。

飲食店や食品販売業者は、衛生管理や加熱調理用牡蠣など二枚貝の十分な加熱処理の徹底を、また消費者には、家庭や職場における手洗いや調理器具の小まめな消毒を呼びかけています。

なお、生食用牡蠣と加熱用牡蠣の違いについてはこちらをご覧ください。

ノロウイルスとの関係で牡蠣の「生食用」と「加熱調理用」の違いが気になり調べてみた。他の魚介類どうように鮮度の違いだろうと考えがちだがそうではない。育った海域で両者は分けられ、生食用牡蠣を生産する海域には、その水質や加工過程、保存法に厳しい規制がある。