人生会議で何を話せばいいか悩んでいる方に

昔のアルバム

実家に帰省した折に
両親と人生会議を

コロナ禍の最中のことでした。半年ぶりに老親が二人で暮らす実家に帰省するという友人から、こんな相談を受けました。

「この先、いつコロナが終息するのかわからないし、両親は二人ともすでに80を過ぎている。もしものときがいつやってきても不思議はないから、帰省した折に人生会議というのをやってみようと思うけど、何を話せばいいのかしら」

幸いなことにご両親は、今のところ血圧がやや高めということ以外、いのちに直結するような深刻な健康問題は抱えていないようです。とはいえ、お二人ともすでに80過ぎのご高齢で、新型コロナウイルスに感染すれば、重症化しやすいとされているグループに入ります。万が一感染したら、あれよあれよという間に重症化し、酸素吸入、さらには人工呼吸器が必要な状態に陥りかねません。

自分で呼吸できなくなったときに「人工呼吸器をつけたいか、つけたくないか」は、事前の意思表示に必須の項目です。人工呼吸器を使えば、呼吸が停止しても生き続けることができますが、その中止が法的には認められていないとなれば、判断に迷うのでは?

そんな場合の話も含め、娘としてそれぞれの意向を知っておきたいと思い、人生会議ということを考えるようになったと言うのです。

人生会議に備えて
事前指示書を書いてみる

そもそも「人生会議」は、「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」の愛称だというところに立ち返ってみれば、話はよりわかりやすいように思います。

アドバンス・ケア・プランニングということが医療の現場で言われるようになったきっかけは、いざとなったときに患者さんの事前指示書とかエンディングノートが役に立たないことが、繰り返し起きたことだと聞いたことがあります。

事前指示書やエンディングノートには、もしものときに、自分の意思を伝えられない状態に陥ることを想定して、「自分はこうしてほしい」ということを書き残しておくわけですが、その事前指示書やエンディングノートに書いた自らの意思を、事前に家族や大切な人に伝え話し合うといったことを一切してない方が少なくない――。

その結果、ご本人がせっかく書き残しておいた「こうしてほしい」ということが、そのときになって家族や大切な人の反対にあい、実際には尊重されなかった、ということになってしまうのです。

事前指示書やエンディングノートを用意しておくことには大きな意味があります。ただ、そこに書き記した自分の考えや希望を過不足なく叶えるためには、記した内容について、家族などと心ゆくまで話し合い、納得してもらっておくこと、つまり人生会議が必要だということになるわけです。その話し合いに、かかりつけ医や担当の訪問看護師等の参加が得られれば、なお理想的でしょう。

人生会議に既定の議題はない
世間話からスタートしても

そこで、では人生会議ではいったい何を話せばいいのか、です。

彼女のこの問いに私は、決められた議題はないことをまず伝えました。そのうえで、「もしものとき」に限定することなく、これからの過ごし方について、「何を大切にして生きていきたいのか」「こんなことはできれば避けたい」といったことがあるのかどうかについて、まず自分の話をしてみることから始めてみてはどうかしら、と――。

「もしものとき」に話を限ると、「そんな縁起でもない話……」となり、話が先に進まなくなりがちではないでしょうか。たとえば「新型コロナウイルスの感染」という、直接「いのちに関わってくる」共通の課題を話のきっかけにしてもいいでしょうと話してみました。

新型コロナに感染し、そのまま逝ってしまった志村けんさん――。彼の死に新型コロナの脅威を感じると同時に、自らの感染、そしてその先の死を意識し、終活を始めた人が少なくないと聞く。しかもそれは高齢者に限らないらしい。その「いのちの終活」に1つの冊子を紹介する。

あるいはご両親が好きな食べ物、好きな音楽、古いアルバムを見ながら一緒に旅行した話、あるいは世間話をすることからスタートしてもいいと思います。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)では、話が最期のときに集中しがち。そのため愛称が決まっても、馴染まないとの声が依然として多く聞かれます。もっと気軽に世間話の感覚で、今の自分の健康状態や生き方を考えることから始めてみては……。

もちろん、今不安に思っていることをずばり聞いてみるのもありだと思います。話を進めていくなかで、「父はこんなことを大切にしているんだな」とか「母はこういうことだけはしてほしくないんだ」といったことがわかってくれば、人生会議の第一歩は踏み出せたことになるのではないかしら、と話したところです。

人生会議のきっかけとなる
ツールの活用を

そのうえで、人生会議の進め方や取り上げる話題を考えるツールとして、「こういうものをコピーしてご両親それぞれにお渡ししてみてはいかがでしょうか」と勧めたものがあります。

厚生労働省の委託を受け、神戸大学医学部の木澤義之教授を中心とする研究班が作成した
「これからの治療・ケアに関する話し合い――アドバンス・ケア・プランニング」と題する小冊子です。この小冊子では、「人生会議」の進め方が具体的に紹介されています。

人生会議にはかかりつけ医の意見も

まずは、「自分が大切にしていることは何か」を考えることからスタートし、「いざというときに、自分に代わって意思決定を託せるような信頼できる人は誰かを考え」、「病名や病状、予想される今後の経緯など、主治医に確認」します。

そのうえで、家族などに自分の意思を伝える話し合い、つまり人生会議を、必要に応じて何度でも繰り返すこと、その都度、そのプロセスを記録に残すことをすすめています。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の普及を願い、厚労省はその愛称を「人生会議」に決めました。1人でも多くの人が納得して最期を迎えるためにも、自らの死について気軽に語り合えるようになればとの思いが、この愛称に込められているとか。

なお、人生会議のきっかけづくりには、横浜市が制作した人生会議の短編ドラマ2作品も参考になるのではないでしょうか。

新型コロナウイルスの感染拡大が影響しているのか、自分のいのちの終わりを意識して終活に取り組む人が増えている。ただしその終活は、いわゆる身辺整理のレベルで終わることが多い。そんななか横浜市は、短編ドラマを作成して「人生会議」の大切さをアピールしている。

参考資料*¹:これからの治療・ケアに関する話し合い――アドバンス・ケア・プランニング